08 新たな大地でこんにちわ 中編
すみません、まとめきれずに後編の予定が中編となりました。
今後もこんなことがありそうな気がします。
なにぶんノープロットどころか、書いてる間に二転三転してるので…。
朝の暖かい光を受けてルーシアは気持ちよく目を覚ます。
-この世界に来てから規則正しい生活になりましたねー-
そんなことを思いながら起き上がって伸びをする。
「う~ん・・・」
「ぴ、ぴー!!」
ルーシアの伸びをしたときの声を目覚ましにそっぴーも起きる。
いつもと変わらない朝だった。
「さて、朝食を食べたら準備しましょうか!」
元気良くルーシアはそう言うと、文字通り飛び起きて着替え始めたのだった。
そう、今日は初めてパーティーを組んでの依頼である。
「おまたせしましたー」
ルーシアが玄関に出ると、リッドとネネシアも今しがたきたような様子だった。
「おう、おはよう」
「今日はよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくね。それで、何をやるのかな?」
早速、今日の本題である依頼について質問するルーシア。
「オルアネス、といってわかるか?」
リッドの問いにぶんぶんと横に首を振るルーシア。
「オルアネスというのは、一言で言うと巨大な軍隊アリだ。大きさは全長で大体1m前後から2mくらいまで。高さは…大体50~70cmといったもので肉食のモンスターだ。それだけの大きさだからな、無論人間も食う。」
地球のアリと同じようなもので想像するルーシア。
たしか2m~3m以上ある超巨大なアリをなぎ倒すゲームがあったような気がする。
「俺たちは本来、この巣穴の調査という依頼を受けていて、それを成し遂げるためにも魔術師が必要な状況だ。だが今回は単に巡回している巡回アリの集団の殲滅という依頼を別に受けてきた。今日上手くいけばそのまま予行演習にもなるし丁度いいだろ?」
「強さ的にはどんなもんなんですか?」
「え~っと大体一体ならばEランクでも勝てなくは無いですね。でも基本的に5匹くらいの徒党を組んでいるのでDランク以上の冒険者が相手にするモンスターとなっています」
ルーシアの問いにネネシアが答えた。
「まず俺たちが1集団を倒して俺たちの実力を見てもらう。それからお前がやってみてくれ。無論、一人じゃ厳しいだろうから俺らもサポートには入る」
「りょーかいですっ!」
-多分一人でもらくしょーっぽいけど-
と、心の中で思ってみるルーシア。
恐らく一撃で終わることは明白であった。
ともかく現地へ向かって実物をみてから考えようと思ったルーシアはそのままリッドとネネシアに着いて行く事にした。
2時間ばかり歩いた場所でようやく現地に到着。
到着して10分ほどで目的の集団を見つけた。
「あれがオルアネスだ」
リッドが岩陰に隠れながら小さな声でルーシアに伝える。
ルーシアもチラっと岩陰から確認してみる。
「ほー、あれが・・・」
モロに地球のアリだった。
違いがあるとすればその大きさは無論のことだが、触覚の代わりに強そうな角が生えていることと、その巨大な牙であった。
「噛み付きの力はかなり強い。下手な剣では折れる。しかしそれより注意すべきはあいつらの吐く酸のような液体だ」
リッドの話によれば一吹きでもまともに浴びれば、鎧もろとも身体が溶けるほど強力なものらしい。確実に倒すのであれば、まずこの酸を浴びない前提か、吐かせる前に倒しきる必要があるらしい。
「とりあえず俺たちがいく。まぁあの数なら問題ないと思うが、万が一の場合はサポートを頼む」
「気をつけてくださいね」
リッドとネネシアがアイコンタクトをとって各自の武器を構える。
リッドはブロードソードと呼ばれる種類の広刃の片手剣を右手に持ち、左手に簡易ながら頑丈そうな鋼製の丸盾を装備していた。
ネネシアは身長とほぼ同じくらいの長い杖を両手で持っている。
-あれ、ほんとは魔術師ってやっぱり杖とかいるのかな?-
そんなことを思っている間にリッドとネネシアはオルアネスに向かって駆け出していった。
近づいてくるリッドとネネシアにオルアネスが気が付いた時には、もうリッドがそのうちの一体に切りかかる瞬間だった。
一瞬でばっさりと一体が絶命する。
その間に少し離れた場所でネネシアがなにやら呪文を詠唱しはじめる。
「身体強化」
淡い赤い光がリッドを包む。
残ったオルアネス4体が一斉に耐性を低くする。
突進するためか酸を吐き出す予備動作なのか。
だが、それを予想していたリッドが最初の突進よりも更に早いスピードで4体をなぎ払う。恐らく身体強化の呪文で脚力やら腕力やらが強化されていることで、先程を上回るスピードが出たのだろう。
なぎ払った剣はオルアネス達を倒すことは出来なかったものの、その強化された腕力と剣速により、大きく後に吹き飛ばすことが出来た。
一体は後方に吹っ飛んだ瞬間に酸を吐き出してしまった為、真上に酸が飛んでしまい、自らそれを被って絶命した。
残りの3体は寸でのところで同様の事態を回避した。だが、吹き飛ばされたダメージはそう低くなかったようで、起き上がっても多少よろけた風に見受けられる。
そこを見逃すリッドでもない。
すかさず左端でよろけるオルアネスにトドメを刺す。
カブト割り、というのだろうか。思い切りの飛び込みから剣の突きたて。
緑のような青のような色合いの血が派手に噴出した。
「硬性強化」
そこにネネシアの更なる強化魔術がリッドを包む。
タイミングを図っていたかのようにそこにオルアネス2体が突進してくる。
一体を綺麗に避けたリッドはそのまま避けた反動を利用して回転しながら剣を横に振るう。身体強化のおかげもあってか、あっさりとオルアネスは上下真っ二つに引き裂かれる。
だがそこに一体の突進がぶつかって来る。
ドンッ!!
と鈍い音が辺りに響いた。
しかし強化のおかげか多少吹き飛ばされた程度で外傷や身体的な異常は見受けられない。
両者とも突進の影響で大きく体勢が崩れたが、それを予想していたリッドと、予想していなかったらしいオルアネスでは結果が違う。
いち早く体勢を立て直したリッドが最後のオルアネスに切りかかり、一撃で絶命した。
「ふぃ~っと。まぁざっとこんなもんだな」
多少汗はかいているものの、特に外傷もなく、身体の各部にも異常はないというリッド。ネネシアは今回サポートに完全集中出来ていたこともあって何の問題もなさそうだ。
「おつかれさまー。さっすが戦闘Aランクですね!」
剣での戦いをまともに見るのは初めてだったが、ルーシアはその強さと剣さばきに素直に感心していた。
「よせよ。まだこれでも上位に名を連ねるような冒険者や国家お抱えの騎士と比べたらまだまだだ」
そっぽを向きながら話すリッド。
その様子をくすくすと笑いながら見ているネネシアを見る限り、彼なりの照れ隠しなんだろうと推測できた。
「さて、じゃあ私の番ですね」
「ちなみに何の魔術を使うんだ?」
「さぁて、それは見てのお楽しみっ、ってことで」
「やけにもったいぶるな」
とりあえず一度小休憩をしてから次の集団を探すことになった。
探し始めてから今度は1時間ほどしてから別な集団を発見する。
「いたぞ。先に俺が突っ込んで引きつけるか?」
本来、魔術師は単体で敵に向かい合って戦う、ということは殆どない。
魔術師同士の戦いというのならともかく、モンスター相手であればまず距離をとるか、魔法効果範囲ぎりぎりから狙撃するように狙っていくのが定石である。
今回、発見したはいいが意外と距離が近く、リッドやネネシアの常識からしてみれば、この距離から魔術を使い始めると、発動前に敵に食いつかれる可能性があったことから積極的にサポートすべきと判断していた。
が、その心配をよそにルーシアは言い放つ。
「あれだけなら私だけで問題なしですよ」
「おいおい。いくらお互いの実力を見るためとはいえ、無理をしろとは言わないぞ。命が掛かってるんだからな」
「そうです。命は大事にして、確実にモンスターを倒す方法をとっていくべきですよ」
リッドとネネシアの心配と指摘はもっともだった。
勝てる可能性を0.1%でも上げる、というのは戦いにおいて必須であり、それを怠ったものが容易く死んでいくのである。
「もし危なそうなら手助けしてくださいね。まずは一人でやらせてみてください」
「そこまでいうなら止めないが…。本当に危なくなったらそう叫べ。すぐ飛び込んでやる」
そういった傍から臨戦体勢を取るリッド。ネネシアもそれに習う。
「じゃ、いってきますね」
ルーシアはすぐさま岩陰から飛び出す。
運悪く、たまたま飛び出した瞬間にオルアネスの一体と目が合ってしまった。
騒ぎ出すオルアネス。すぐさまこちらに狙いを定めた。
Side リッド
「じゃ、いってきますね」
そういうなりルーシアは俺たちの目の前から飛ぶように出て行った。
本当に大丈夫なのか?
曲がりなりにも戦闘ランクBならそんなにすぐに危なくなる可能性はないのかもしれないが…。
っておい、いきなりみつかってんじゃねーか!!
言わんこっちゃない。
すぐに飛び出せるように体勢を整える。
だが。
「フォトン・レイ!!」
ルーシアが自分達では今まで聞いたこともない呪文を唱えると、その瞬間に光の線がまっすぐにオルアネスに向かって飛んでいったと思ったら、1体を貫いた。そしてそれだけに終わらず続けざまに2体目、3体目と貫く。
気が付けばあっという間に5体を貫通した光はそのまま彼方まで飛んでいって消えた。
「終わりましたよ~!」
元気に飛び跳ねながら結果を報告するルーシアの姿が見えた。
「・・・・・なんだ・・・・ありゃ?」
俺は横にいるネネシアなら何か知っているのでは?と彼女を覗き見る。
しかし彼女もぽかんと口をあけてこちらを見ていた。
Side ネネシア
「じゃ、いってきますね」
そういうなりルーシアさんは私達の目の前から飛ぶように出て行きました。
大丈夫なのかなぁ…。
一応、戦闘ランクもBみたいですし、いきなり大怪我を負うようなこともないかと思うんですけれど…。
あれ、いきなり見つかってませんか!?
横をみるとリッドもしまった!?という顔をしていた。
彼がいつでも飛び出せるように四肢に力を溜め込み始めるのをみて、私も急いで魔術の準備を整える。
けれども。
「フォトン・レイ!!」
私が見たことも聞いたことない呪文が聞こえてくると、詠唱もなにもないのにそのまま発動したようで、光の束が収束したようなものが一直線にオルアネスに向かって進んでいきました。そしてあっという間に全てのオルアネスを貫くと、光はどこかに飛び去っていってしまったのです。
「終わりましたよ~!」
元気に飛び跳ねているルーシアさん。
私は見たこともない術式の魔法と、あんな簡単に発動できて強力な魔法をみたことはありません。
聖都にいる大魔術とて無詠唱で使える魔術は多くなく、またその威力や規模も限られたものになると聞いています。
信じられないものをみた。
私はリッドの反応を知るべく、彼の方を見ると、
「・・・・・なんだ・・・・ありゃ?」
彼も私と同じような顔をしてこちらを見ていたのでした。
Side デフォルト
「で、ありゃ一体なんなんだ?」
一度、街の付近の安全と思われる場所まで戻ってきたルーシア達は、夜も近くなってきたということや、話の内容的に街でするのは危険と判断したリッドによって野営をすることにしていた。
焚き火を囲みながら簡易食を取りつつ、リッドはそう尋ねた。
質問の焦点であるルーシアはそっぴーに餌をやりながら楽しそうにじゃれていた。
「何といわれても…あれが私の魔術なんですよ」
-ほんとは魔術ですらないですけどね-
その返答にどういえばいいものか、と唸るリッド。
リッドの様子から悩みを察したネネシアが代わりに質問する。
「魔術は基本的に詠唱と呼ばれる呪文が必要になります。そしてその後に発動の鍵となるキーワード、要するに魔術名を口にするという手順を踏みます。そこで初めて魔術がこの世界で発動する。というのが一般的な魔術です。魔術師を名乗る以上、これに属さないとおかしいんですよ」
ここでルーシアは初めてこの世界の魔術の常識の初歩を知る。
「ルーシアさんの魔術は発動のキーとなる魔術名のみを叫んで発動させていたように見えます。もしかしたら小さく何か呪文を唱えていたのかもしれませんけれども、それだとしてもあの威力であの発動スピードだとすると現存する魔術では相当簡単な灯りとかそういった物凄く簡易かつ効果の薄いものしかありません」
ネネシアの説明をうんうんと真面目に聞くルーシア。
その様子をみたネネシアは「この人、本当に魔術について何もしらないみたいです…」とリッドに告げた。
「まぁ出来たものは出来たものとして良いとしてだ。ドコでそんな魔術を習ったんだ?または知ったんだ?」
リッドは切り口を変えて質問する。
どうやらやっぱり頭はそこそこ良い人だったんだ、とルーシアは内心で思った。
「強いて言うなら…気が付いたら出来るようになってた?」
この言葉に嘘はない。
地球で能力が使えるようになったのもいつの間にかであったのだから、そうとしかいいようがない上に何も間違っていない。
「お前なぁ…。生まれた時から魔術を使えるって奴もいるにはいるが、それだってやっぱりどこかで魔術を使うために必要な呪文とキーワードを知ってなきゃ出来ない。お前が使ってた『フォトン・レイ』とかいう魔術が仮にキーワードだけで発動できるようなシロモノだったして、それをどこで知ったのか?ということだ」
「その名前は私がつけたんだけど?」
「は?」
「え?」
ルーシアのまさかの返答内容に二人の声がハモる。
「いや、だから私が名付けたんですって」
「あ~」
「う~」
もうどう返したらいいのかわかんない、といったように首や頭を捻る二人。
「ちょっと整理しよう。つーことはだ。お前はある日いきなりそんな光る攻撃魔術をぶっ放せることに気が付いて、その名前がないから自分でつけてそう呼んでいる、ってことでいいのか?」
「概ねそんな感じですね~」
どうしたらいい?とネネシアに目配せをするリッド。
「え、えっと…。じゃあルーシアさんの魔術属性ってなんですか?少なくとも魔術師だったらそれはどこかで診断されていると思うんですけど…」
話を摩り替えるような形で別の切り口に変えるネネシア。
どこかに話を理解できるきっかけをもちたいと思ってのことだ。
「え、属性ってなに?」
とくに助走もなかったのにズサーっと前のめりに倒れて地面をすべっていくリッド。
-リアクション王でもう決定ですよ、この人-
「え、ええっと・・・ですね。魔術は人それぞれによって得意不得意な分野っていうのが生まれつきあるんですよ。私だと治癒の適正が一番高かったので魔術属性は治癒なんですけどね。世界ではその分類が定められていて、火、水、風、土、雷、治癒、強化、無の8属性があります。」
ほー、っとまた納得したように頷くルーシア。
-いやっ、なんでこの人魔術師名乗ってるのに常識しらないの!?-
内心取り乱すネネシア。
「そういう分類だと・・・私は『光』ですかね~」
「・・・『光』・・・だと?」
「さっきの見たでしょ?私は光を操って攻撃したりすることしか出来ないんですよ」
-多分ですけどね-
この世界での魔術というのを使う、という試みをしたことがないので多分という推測をルーシアは立てていた。もしかしたら、この世界では別の魔術属性として診断されるのかもしれない。
「えっと…ここで診断してみます?」
「え、できるの!?」
ネネシアの思わぬ発言にびっくりして身を乗り出すルーシア。
「ええ、簡単ですよ。こうして土の窪みに水を入れて・・・」
軽く10cmほど掘った足元の土。その窪みに水を流すネネシア。
「はい、これで準備OKです。あとはルーシアさんの魔力をここに流し込めばわかりますよ」
どうぞ、という仕草をするネネシア。
だが。
「魔力ってどうやってここに流すの?」
ズサー
またリッドがこけた。
-なんなの!?ほんとになんなの!?なんでそれで魔術使えるの!?-
もうネネシアは訳がわからなかった。
「え・・・ええええええっと・・・。魔術を使う時の力をここの水に流し込む感じなんですけど・・・魔術を使う時に流れる力をそのまま手から水にむけるようにしてもらえればいいんです」
かろうじて気を取り直したネネシアが説明する。
「えっと…こうかな?」
水に手をかざして能力を集中させる。
「あれ、何も起こらない・・・やり方が違うのかな?」
一応、ルーシアなりにやってみたのだがやはり魔術と能力は別物なのか、水にはなんの変化も起こらない。
「変化がすぐに起こらないケースもありますよ。ただもし出来ていないのなら・・・」
と、ネネシアが言葉を続けようとした瞬間、
ドオン!!
凄まじい音と共に水から光の柱が立ち上って、まるで花火のようにひょろひょろと空に登っていったと思ったら空中で激しく爆発してきらきらと光る粉を撒き散らしながら降ってきた。
あまりの突然の出来事にルーシアもネネシアもリッドも呆然としてしまっていた。
暫くの沈黙。
そして出た言葉。
「「「え?」」」
見事に三人の息がぴったり合わさった瞬間だった。
次の後編で間違いなく最後にします。
きりよく終わって本編の続きを書く予定だったんですが…(汗
診断方法は水見式(キリッ