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06 幕間01

時間軸としてどの辺りになるのかは想像にお任せします。

 -リティール 首都オーケンシールド グランセルタワー50F-


 「シド、その観測結果に間違いの可能性は?」

 「可能性としては半々といったところ、というのが研究者の見解です、ウォンさん」


 シドと呼ばれた青年はウォンにそう答える。

 ウォンは窓の外に広がる高層からの夜景を見つめたまま動かない。


 「どうしますか?」


 恐る恐るシドが尋ねる。

 暫くの間、部屋を沈黙が支配する。


 どんなに街が発展しても、眠らない街となっても、このグランセルタワーの頂上までその喧騒が届くことは無い。耳を劈くような静寂はかえって耳が痛いとすら感じる。


 「ふむ、シドはどう思う?」


 どれくらいの時間が経った頃か。

 ウォンがシドに振り向きながら質問する。


 「戻ってくることが無ければ問題はないかと。」

 「さて、その可能性はどれくらいだろうね?」


 そのウォンの疑問に答えることは出来ない。

 そもそも今回のような事は前代未聞の事態である。


 ブラックホールを生み出した結果、たまたま次元の穴が開いた、という珍事。


 「確かに敵が戻ってこない、というなら別次元で何をしようが関係あるまい。私も今いるこの世界での出来事にしか『今のところ』興味はないからね。」

 「今のところ、ですか」


 その言葉が指す意味を察して、シドは内心で恐怖する。


 - この人は一体どこまでを目指しているのか… -


 「だが、可能性は0ではないという以上、なんらかの対策は施しておく必要はあるだろう。何せ害虫という存在はしぶとい。困難な状況でも生き残り、再度の困難に対応するために素早い進化をする。」

 「全く…その通りですね。」


 また暫しの間、沈黙が支配する。




 「まあ、考えても仕方ないこともある。研究者たちにその世界を観測する手段や、渡った者達がこちらへ戻ってくる可能性、そして…こちらからその世界に渡る方法を調べさせるとしよう。」

 「こちらから、ですか?」


 シドは耳を疑った。

 最初の2点はわかる。監視と対策の問題のためである。

 監視が出来るなら戻る兆候などを察知出来るかもしれないし、戻る可能性があるならば事前に戻ってきた時の対応を用意することが出来る。戻ってこれないならば話はそれで済むことにもなる。

 だが、こちらから渡る可能性というのは必要性を感じない。

 なにせその場合、戻る方法も考えなければならない。そして最悪の場合、その方法を敵が利用してきてしまう可能性があるのだ。ハッキリいって薮蛇だ。


 「シド、お前の考えていることはわかる」

 「はっ、恐縮です」


 ウォンのその言葉だけでシドは自分の考え全てが見透かされたことを理解する。

 ウォンが心を読む能力を持っている訳ではない。だがそれなりの年月を共に過ごしてきたこともあるし、ウォンのその優れた洞察力は読心術に近いものがある。


 「戻る必要を考えるからそうなる」

 「?」


 ウォンの言葉の真意を測りかねるシド。


 「最初から戻る必要がなければいい」

 「と、いいますと?」

 「なに、非常に簡単な話さ。戻ってこなくてもいい人員を送り込めば良いだけの話だ」

 「な!?」


 シドも目的のためには手段を選ばない非情な男ではある。

 しかし腐っても相手は能力者であるから一般人を送り込んだところで大したことも出来ない。相手を確実に始末するのであれば、同じ能力者を送り込む必要がある。だが、能力者は自分達の同士であり、貴重な戦力だ。わざわざ欠けさせるような真似をするのは戦力の無駄遣いである。


 「シドの言いたいことはわかる。だが、我々にとって仲間でありながら邪魔な存在というのは、いない訳ではないだろう?」


 さすがのシドもここまで言われれば心当たりが出てくる。


 「あの男を使うのですか?ですが…」

 「単純には話には乗らないだろうな。彼も凡庸ではない。むしろかなり頭の良い男だ。」

 「そこまでわかっているのでしたらどのように送り込むのですか?」


 シドの問いに暫しの静寂。

 そして徐に笑い声が広がる。


 「ハッハッハッハ。簡単だよ、簡単なんだよシド」

 「?」

 「わからないか?いや、わからないだろうな。さすがにこれは。いや、わかる必要はない。だがこれだけは答えておこう。彼は必ずこの話に乗るさ。それだけの餌を用意する。」

 「餌・・・ですか?」

 「そうだ、餌だ。それも極上の、彼では一生掛かっても届かなかった最高級のものを、だ」


 その答えを聞いて頭を垂れるシド。

 それ以上は恐らく聞いても答えてもらえないというのは過去の経験からわかった。

 ウォンもそれがわかっているのか、再び窓の方を向いて夜景を眺めている。


 「それでは、先程の指示、研究者に伝えておきます」

 「頼んだぞ。それと平行してスィールズの捜索もな」


 返事の代わりに再度、背を向けているウォンに向かって頭を下げるシド。そのまま何も言わずにウォンの部屋から退出する。


 


 一人になった部屋でウォンは小さく呟く。



 「今のうちに精々別世界で楽しむが良い。だが…長くは続かんぞ?」


 

しかし…この展開で良かったのか…?

物語を書く、というのは自問自答が多くなりますね。

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