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04 はじめてのおつかい?

本作品はフィクションです。

登場する人物・団体・国家・企業・名称・宗教などは全て架空の設定であり、現実との関係はございません。

 装備を整えた翌日、まずは宿の延長を申請して、5日分を払い込んだ。

 どうやら雪国であるせいもあってか、あまり泊り客は多くないらしく歓迎された。


 その後、ギルドに出向いてクエストを眺める。

 といっても文字が読めないからFランクの依頼がどれだけあるのか?という確認である。


 「冒険系は…1つ。戦闘系が7つ。魔術系が2つか…」


 ルーシアは近くにいた係員に簡単な詳細を聞いてみることにする。


 冒険系は遺跡の探索依頼である。既に探索されつくしているはずであるが、依頼主は何かが引っ掛かるらしく、その調査を行うための前調査が目的らしい。


 戦闘系はどれも特定のモンスターを狩ってくるのが目的だ。

 Fランクなので、どれも基本的な戦い方と武器を持っていれば、一般人でも倒せるような簡単なものである。


 魔術系は魔法薬の作成と、魔術の家庭教師の依頼。

 どちらも魔術を扱えるものなら簡単なものらしく、家庭教師は拘束時間が長いものの、まったく魔術を知らない子供に簡単な魔術を2つ、3つ教えれば問題ないようだった。


 -ん~…魔術系は…今後も受けられないですね~-


 魔術師で登録しているものの、厳密にこちらの世界の魔術というのがなんなのか理解できていないし、ルーシア自身が使うのは能力である。原理はもしかしたら同じなのかもしれないが、理屈抜きで使えるルーシアと、体系立てて使用するこちらの世界の方法とでは何かが根本的に違うような気もする。

 従って、魔術系の依頼を受けるのは非常に厳しい気がする、と考えたルーシアは魔術系を無視することに決めたのだった。


 -倒して終わり、の方が気が楽ですしねっ♪-


 ルーシアは課せられたことはきっちりと終わらせる真面目な部類と認識されているが、実際、やらなくていいことなら、気が向かない限りいつまでもやらない主義である。面倒なことは手をつけたくないし、本当なら課せられたこともやりたくないのである。ただ必要なことをやらなくてはいけない、というのであればきっちりやる。だけどもなるべく気楽にやりたい。というのがルーシアの心情である。


 そんな訳で戦闘系の依頼を受けることにした。

 かろうじて数字は読めるので、報酬の欄らしきところで数字の高いものを狙ってカウンターへ持っていく。


 「この依頼を受けたいんですけど…詳細を教えてください。」

 「はい、お待ち下さい。ギルドカードはお持ちですか?」


 一瞬、何のことかわからなかったが、昨日渡された板がそうなのかな?と思い提示する。


 「はい、OKです。この依頼は一週間以内の期限です。狩るのは『クロトトス』という小型のトカゲですね。クロトトスの詳細はあちらの本棚のモンスター図鑑にありますのでご確認下さい。3匹を倒して討伐の証となる部位をもってくれば依頼達成となりますが、本依頼は常に提示されているもので、3匹毎に一回の達成と判定しております。つまり、一度に6匹を倒してその証を持ち帰れば2回の達成として判断させていただきます。」


 「じゃあ例えば15匹狩ったら一気にランクアップ、とか出来るんですか?」

 「そうですね、可能です。でもいきなり15匹は大変ですよ?無理せずに頑張ってください」

 

 そういうと係員はギルドカードと一緒にそれより一回り小さいカードを一緒に返してきた。


 「そのカードは依頼を受けた、という意味の受注カードです。番号が書いてあるでしょう?それが貴女の受けた依頼の番号です。討伐の証を持参した際にそのカードと一緒に提出してくださいね」


 黙ってそのカードを受け取ると、まずは先程言われた図鑑を探す。

 かなり大きい本で複数冊同じ本があるらしく、すぐに見つかった。


 しかし、本が見つかったはいいが、相変わらず読めないことに気が付く。

 おろおろしていると、その姿を見かねたのか別の係員がやってきた。


 「どうされましたか?」

 「えっと、その…これが読めなくて…」

 「あぁ、それでしたらあちらのカウンターで有料にはなりますが、情報代読みサービスもありますので、そちらをご利用下さい。」


 詳しく聞いてみると、代読みサービスは本来、古代語や魔術文字などが読めない人が、発掘品などの解読のために誰かに読んでもらう、ということをするもので、単に公用語の字が読めない程度ではあまり使われないものらしい。もっとも公用語を話せても読めない人はそれなりにいるようなので、そこそこ需要があるらしいのだが。


 情報カウンターの係員に本を手渡し、クロトトスについて聞いてみる。

 情報量は公用語の場合、1~2ページまでが銅貨1枚。とのことだった。

 図鑑は大抵一匹のモンスターにつき1~2ページで収まっているので毎回必要経費に銅貨1枚が必要と思っておけば良いとも思ったが、やはり早いうちに文字を読めるようにしないといけない。


 クロトトスの要項について読んでもらった結果、以下のようなことがわかった。


 まずクロトトスは水棲生物ながら、陸上での活動期間が長く、爬虫類のくせに冬でも動き回る生物らしい。主に草食ではあるが、作物の種や実を食べることが多く、近隣の畑からは被害報告が常に上がっているため、駆け出しの冒険者向けに随時討伐の依頼が張られているようだ。


繁殖力が強く、放って置くとすぐに増えるため、高ランクの冒険者でも受けて良い依頼らしい。

 3匹討伐で依頼自体は達成になるが、3匹毎で一回の達成として、報酬も上乗せされていく。

 報酬は3匹で銅貨10枚。証拠部位はその長い舌か頭部を丸々。頭部を丸々の場合は報酬に1枚銅貨が上乗せされるらしい。

 主に水場の周辺に生息している。ここではこの街から南へ10kmほど進んだ沼地に沢山いるらしい。

 攻撃手段は体当たりとその舌での打撃。

 生身で攻撃をうけても大人であれば打ち身になるかどうか、という程度のもの。

 但し集団で攻撃してくる場合もあるので、その場合は当然命の危険も考えなければならない。


 

 という訳で早速そのクロトトスを狩りにいくことにした。

 距離にして10kmほど、ということだが、能力を使って走れば30分もかからない。

 幸いにしてここは雪の街。街道であってもそれ程人は多くない。ましてやそれが何も無い南への道であれば尚更である。思い切って能力が使えるのである。


 早速宿に戻って魔術服の上から胸当てを装備する。

 ちょっと重いが特に何か動きを制限されるようなことはない。

 その上からマントのような防寒具を羽織る。


 一応、採取用のナイフを腰に挿して準備OKである。

 日帰りなのでテントや寝袋は持っていかない。討伐した証を入れるための大き目の袋だけを用意すると早速狩場に向かう。



 1時間後、やけにあっさりと事は済んでしまった。

 ルーシアが沼地に着くなり、かなり大量のクロトトスの姿を発見することが出来た。

 黒い蜥蜴らしき姿が大量に蠢いているのはちょっと生理的に耐えられなかったルーシアは速攻で終わらすことに決めて、能力を解き放つ。


 「フォトン・レイ!」


 1条の光の線が曲線を描きながら、次々とクロトトスの胴体を貫いていく。あっさりと30体のクロトトスを一瞬で葬り去ったのである。


 「ちょっとやりすぎたなぁ…」


 元々、地球ではこのフォトン・レイの使用率は一番高かった技である。

 所謂レーザービームでありながら、自分の意志で自由に曲げることが出来る便利で使いやすい技だからである。その威力は合成合金であっても軽く貫き通す。

 鉄や鋼、銀などが主流のこの世界では貫けぬものはまずないと言っていいだろう。


 「なんていうか…私、ひょっとして最強?」


 正直な話、フォトン・レイなど初歩の技にしか過ぎないが、この技だけでもこの世界なら天下が取れるのではないか?と思ってしまう。

 唯一、魔術の存在と能力とがどういった相性をもっているのか?魔術の攻撃は能力で防げるのか?その逆は?といった不確定部分が存在することが不安要素である。


 「まぁ世界征服なんて面倒だからやりませんけどねー。」


 世界征服すれば情報など一手に集めることが出来るし、魔術も本格的に研究させる機関でも作ってやらせてみれば、案外、早いうちに帰還の手がかりが掴めるかもしれなかったが、その為に流れる血の量を考えれば、道徳的に考えてやることはないと言えた。


 

 「っと、取り合えず、証拠部位を集めよっと」


 近くに倒れている手頃なクロトトスを手にとってみる。


 -うへぇ…ブヨブヨして気持ち悪い-

 そして口を開いて…舌を切る。もう面倒なのでナイフなど使わず、光の刃でさくっと切る。



 -うん、ダメだ。これ気持ち悪い-


 あっさりとこの仕事にくじけるルーシア。

 

 それでもなんとか30匹全ての舌を刈り取ることに成功したが、精神的にはかなり萎えていた。


 -この仕事…向いてないかな…-


 モンスター図鑑にはそのモンスターの絵も一緒に記載されているのだが、先程ぱらぱらとみた感じでは、このクロトトスなど比にならないくらいグロテスクで気持ち悪そうなモンスターが沢山いたのである。年頃の娘としては、そんなグロテスクなモンスターに出来れば近づきたくないし、ましてやそれを倒したあとに喜々としてその死体を捌くなんてことは出来そうにもなかったし、慣れたくもなかった。


 今日のノルマは達成したが、普通の人ならここまできて狩る時間も考えると3時間程度はかかることになる。そして帰る時間も考えれば4時間ほどをみておかなければならない。

 いますぐに帰りたい気持ちもあるが、あまり早すぎても怪しまれる要因になるかもしれないのだ。


 

 「ちょっと辺りでも散策してみますか」


 よく考えれば、最初にいた国では身を隠すので旅気分で散策は出来なかったし、ここに来てからも足場固めに必死になっていたことから、こうしてゆっくりと何の目的もなく楽しむために歩き回るというのは、この世界に迷い込んでから初めてのことである。


 今、ルーシアの目の前には10cm程降り積もった雪の平原が広がっている。少し遠くに巨大な山脈、その少し手前には森が広がっているのが見える。人工的なものは一切見えず、雄大な自然だけがその眼前に広がっていた。


 「ん~。こういうのもいいですね~。地球では都市の他は荒れ果てた地が多いですし…自然があっても綺麗、って思えるところは少ないですからね」


 思わず独り言が多くなってしまう。今まで喋ってこなかった反動だろう、と思うと自然に笑みが浮かぶ。


 -ここに来る前は喋くり倒してたんだけどね-


 そんな事を思い出しながらふと空を見上げると、何か黒いものが見えた。

 あれ?と思う間も無く、それは見事にルーシアの顔面にベチっという音を立てて当たったのだった。


 -!?!?!?!?!-


 明らかに生もの、いや生物の感触でどちらかというと、爬虫類っぽい感触だった。じっとりと湿ったその生物の肌を感じられる。

 

 -え、これって…-


 どういう理由かはわからないが、先程倒していたクロトトスが空から降ってきたのかと思った。

 恐る恐る、その顔面に引っ付いたモノを引き剥がす。


 「っ!?」


 なんというか、太った蛇だった。

 普通の女性ならここで叫び声をあげて大パニック、という事態なのだが、幸いなことにルーシアは変なものが大好きだった。


 -なんか…ツチノコっぽい?-


 ルーシアは一時期UMAにハマっていた時期があった。

 今となっては何故そんなに夢中になっていたのかわからないが、とにかく好きだったのだ。


 その謎の生物は、形状はツチノコに良く似ている胴体部が太く、それほど長くはない蛇である。

 唯一、ツチノコと違う点があるとすれば、その鮮やかな蒼い色合いをした表面と、サイドに小さなヒレのようなものが付いている点だろう。大きさは意外と小さく、手乗りサイズよりやや大きいくらいだ。大人しい性格(?)なのか、それとも人に慣れているのか、一向に逃げる気配は無く、むしろこちらを見てピーピー鳴いて懐いているようにも見える。


 「ってヘビって鳴かないでしょ!?」


 ビシっと誰もいない空間にツッコミを入れてしまう。

 一応シャーとかガラガラとか鳴くのは聞いたが、こんな愛らしい感じで鳴く蛇は聞いたことがない。が、現に目の前にいるし、異世界なのでそういうのもいるのか、っと納得する。


 兎も角、害があるようなものでもなさそうなので、地面に下ろしてやる。

 すると寒いのか全身を震わせながらルーシアの足元に擦り寄ってきたのである。


 -これはちゃんと爬虫類らしく、寒いのダメなのかな?-


 しょうがないので、再び拾い上げてやると、安心したかのように目を細めて拾い上げた指に擦り寄ってくる。


 -やだ、なにこれ、物凄く可愛い…-


 試しに肩に乗せてみると、しばらくまごついていたが、ローブとマントの隙間が暖かいと見切ったのか、胴体部をそこに隠し、頭だけ出してこちらを見つめてくる。


 -うん、この子。とりあえず持ち帰ろう-


 この世界で知り合いなどいない、知っている知識もない寂しい状況がその決断を早めた、という一因も大きいだろうが、こんな可愛い子を放っておけないという心が完全にルーシアを支配していた。


 結局、この謎のヘビと2時間ほど戯れてからゆっくりと街へと帰還した。




 帰還してギルドに着いたルーシアは、早速クロトトスの報酬を受け取る為にカウンターに向かった。


 「ちわーっす。クロトトスの報酬をおねがいしまーす。」

 「はい、依頼カードとギルドカードをお願いします。討伐の証も一緒にですね。」


 カードと舌が詰まった袋(物凄く嫌な袋)を手渡す。


 「はい、それでは確認いたしますので少々おま…」


 「おま?」


 係員の言葉が不自然なところで途切れる。

 言葉が途切れた原因は、どうも係員の女性が釘付けになっている視線の先にあることがわかった。どうも、ルーシア…というかその肩を見ているようなのである。


 「ピー?」


 妙な空気を察したのか、建物の中に入って温かくなったからなのか、もぞぞもと這い出してくる謎の蛇。


 「あらら、温かくなったから出てきちゃった?」


 「ちょちょちょちょちょ、ちょっとお待ちくださいね!!!そのまま、そのまま」

 ルーシアの台詞を遮るかのように大声で慌てた係員が、何かから逃げるような様相でカウンターの奥に引っ込んでいく。


 「?」

 全く訳がわからないルーシアだったが、ともかく暫く待つことにする。



 20分後、なんだか偉い人が出てきたようだった。

 如何にもな魔法使いルックの老人で、説明によるとこの街のギルドの幹部の人らしい。


 「お、お前さん、こ、こいつをどこで…」


 と、謎のヘビを指しながら言う。


 「ん~っと…クロトトスを倒して…ちょっと空を見上げたら降ってきたよ?」


 自分で言っていて要領を得ない説明だが、そうとしか言いようが無いから仕様が無い。


 「おぉ…まさか。本当に伝承の通りとは…」


 何故かそれが伝承通りらしい。


 「で、この子がどうしたんですか?」


 「そのヘビやソラノコと言ってな。一言でいうと伝説、いや幻の動物じゃ」


 まさかツチノコに似てると思ったらソラノコとは驚きだった。しかもやっぱりUMAらしい。


 「ソラノコは何百年かに一度、目撃報告や痕跡があるのだが…捕獲例は初めてじゃ…。お前さんはこやつをどうするつもりじゃ?」


 興奮で声が震えているのが判った。かなり世紀の大発見らしい。


 「えっと…問題なければ私が飼いたいんですけど?」

 「なんじゃと!!!????この幻のソラノコを飼う…だと…!?然るべき機関に引き取ってもらえば金貨…いや白金貨100枚は最低でもお主に支払われるぞ?」


 素っ頓狂な声をあげる偉いらしいおじいちゃん。


 「重大な発見かもしれませんけど、この子は1つの命ですし、どこかに引き取ってもらったら研究材料にされて最終的にはモルモットでしょ?」


 「モルモット?」

 「要するに研究資料として飼い殺されるってこと!」

 「まぁ…そうなるじゃろうな…」

 「じゃあ私はこの子を拾った責任としてそんなこと許しません!」

 「じゃが…のぉ?」


 困った老人が他のギルド員に意見を求める。


 「しかし、確かに動物の保護する権利は特に法的に定められていませんし…。希少動物に指定されているものはその限りではないのですが、ソラノコの存在すら懐疑的だった状況ですからあくまで架空的存在として、希少動物認定されていないんですよね…」


 一般的な法からの現状を語るギルド員A。


 「映写水晶でその姿だけでも撮らせてもらえば、それだけでも実在する、ということで大きな波紋を呼ぶでしょうし…とりあえずそこだけでもお願いしませんか?」


 と、妥協策を提案するギルド員B。


 「ちなみにそうした場合、結局私とこの子はどうなるの?」


 「ふむ、まぁ歴史的発見、それもSランクを超える真なる未知の発見じゃからのぉ…。少なくとも冒険ランクが3つはあがるじゃろうな。場合によってはAかSに推薦されることもあるじゃろう。そしてそのソラノコじゃが…。法的なことも踏まえるとお主が飼うということでなんとか出来なくはないじゃろが…まぁ見せてくれ、貸してくれだの言う輩が押し寄せてくるじゃろうなぁ…。」


 それはそれでメリットはあるが、あまりよろしくない事態である。

 面倒くさいことになる、というのは勿論のことであるが、あまり騒がれると王殺しの件がどうなるのか気になってしまう。


 

 暫くその場で意見を交わしたが、あまり良い案は出なかったし、ギルドとしてはやはり歴史的発見を大々的に公表したい、という線を無くすメリットはどこにもなかったので、中々しぶとい。


 「じゃあ映写水晶っていうので撮るのはOKですけど、いくつか条件をつけましょう!それでいいですか?」


 その提示した条件とは以下のようなものである。


 1.ソラノコを飼う人物に関しては一切の情報を出さないこと

 2.ソラノコは撮影後、どこかに逃げた、という報告をすること

 3.但し、ルーシアから、一定期毎に成長報告や観察日記をこのギルドに提出するので、それを研究資料にすることは構わない。但し、その資料を外部に報告することは禁止すること

 4.上記の内容が守られない、または情報が流出した際にはギルド側が違約金を支払うこと


 「ふむ、わしらの知的探究心を満たし、お主の要望も最大限叶える、ということじゃな?」

 「そういうこと!大々的に発表出来ないのは心苦しいかもだけど、逆にこれだけの歴史的発見をここだけで独り占め出来るっていうのはそれはそれで美味しいことでしょ?」

 「ふぉっふぉっふぉ、確かに、名誉欲さえないのならそれは誠に魅力的な話じゃなぁ」

 「で、どうするの?」

 「お主こそ、どうするのじゃ?」


 急に老人の雰囲気が切り替わったのを感じる。


 「何を?」

 「わしらがギルドの総出をあげて、お主を殺してでもそのソラノコを奪うかもしれんのじゃぞ?」


 先程までの老人とは思えない殺気を放っている。

 だが、ルーシアが今までに受けてきた殺気に比べれば他愛もないものである。


 「そんな事のために殺し合いでもするの?そっちがその気なら私も容赦しないよ?」


 ルーシアも軽く殺気を放ちながらけん制する。

 軽く、といっても常人であれば即座に逃げたくなるようなシロモノである。

 その証拠に、既に回りには老人とルーシアしかおらず、先程まで近くにいた人々は部屋の隅で固まるように集まっていた。


 「中々肝も太いようじゃし…これが駆け出しのFランクとはのぉ…。若いもんは本当に怖いもんじゃのぉ」

 「おじいちゃんもまだまだ現役だね!」

 「なに、生涯現役がウリでのぉ、ふぉっふぉっふぉ」

 「アハハハハ、長生きが一番だね。」


 先程までの雰囲気とは打って変わって軽い雰囲気に切り替わる。


 「わかった、その条件を飲む、といいたいところだが、最後の問題が2つじゃ」

 「ん?何かまだ問題がある?」


 「お主のランクをどうするか、というのと、違約金とはどの程度なのじゃ?」




 別室で細かい打ち合わせを行った。

 まず、ルーシアのランクについてだが、普通にクロトトスを狩ってきたことで、戦闘ランクはFからEに上がった。これにあわせて、功績に関わらず、個々のギルドの判断で、特定の冒険者を飛び級させることが出来る特権を利用して、冒険ランクがCとなった。

 この特権は、本来、ギルドに登録していなかったが、既にかなりの実力者であるとわかっているような有名人や、地元でそれに準ずる功績を出している場合などに、ギルドがCランクまでならば自由につけることの出来る権限である。

 Bランク以上になる場合もあるが、これは先程の話でもあった世紀の大発見や偉大な功績などを残した場合、ギルド本部にて最高幹部がその功績や発見について検証を行い、会議参加者の8割が賛成をした場合にようやくBランク以上の飛び級が認められる。


 今回はソラノコの実在だけに関しては、この街のギルドの名前で発表することから、Bランク以上の授与は出来ない。しかし見つけた功績は変わりないこということで、ギルド単体で出来る最低限の名誉を与える、といった形で収まった。



 違約金に関してはかなり揉めた。

 最終的には、情報がどの程度漏れたか、情報の重要度なども加味して判断する必要があることも加えられたが、どんなに最低限でも金貨30枚ということでなんとか同意を得た。

 ちなみに考えられる最大限の違約金は白金貨で500枚である。



 揉めた理由に関して、どこまでを情報漏えいと捉えるか、という辺りが問題だった。

 まず、ギルド施設内であれだけ大騒ぎをしたのだから、その時出入りしていた一般人や冒険者にはおおよその事情が掴めてしまっている。この街が現状、あまり人の行き来がない、とはいっても人伝に自然と広まっていくことは容易に推測される。


 つまり外部からリアクションが発生する頃には、流出した結果なのか、噂が広まった頃なのか、という判断は出来ないのである。


 これに関しては明確な定義がつけられた。

 まず、あの場でルーシアの名前は触れられていなかった。ルーシアから見ても、あの場で見覚えがあったことがあるのはギルド員のみである。従って、本名やプライベートな情報が正確に流れた場合は流出と考える。また、今後送るソラノコの情報や経過報告は新規のものであるため、これらが外から流れてきた場合、確実に流出となる。

 

 これらを決めた頃には、もう既に夜中をとっくにすぎてむしろ明け方に差し掛かっていた。



 「もうねむぃ…」

 「ピー」


 ソラノコが健気に励まそうとルーシアの顔をチロチロと舌で舐めた。


 「ふむ、今日はもう解散とするかの。ワシも少々疲れてしもうたわい。今日の話の内容をまとめて、正式に文章にして明日には発行するからの。今日はゆっくりと休んでいるとええ。明日、またギルドに顔を出しなさい。」


 「はぁ~い」


 

 こうしてルーシアの初の依頼は終わりを告げた。

 そしてこれがソラノコとの長い長い付き合いの始まりでもあったのである。


誤字・脱字等ありましたら、ご指摘いただければ幸いです。

またお時間やお手間などがございましたら、ご感想や評価などをいただけば、今後の参考にして改善していきたいと思います。


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