02 どうやら異世界ご到着
本作品はフィクションです。
登場する人物・団体・国家・企業・名称・宗教などは全て架空の設定であり、現実との関係はございません。
彼女、ルーシア・アスクリエッタは悩んでいた。
いきなりよくわからない場所に飛ばされて、その不可抗力で王様らしき人物を殺してしまった。どうやら元いた世界とは違う世界にいる、ということはその後の調査でなんとなく理解したものの、王殺しの事実には変わりなく、こうして今も身を潜めて近くを徘徊する兵士達の一行をやり過ごしている。
ルーシアは元々、地球のリティールと呼ばれる国家で極々普通の一般家庭に生まれた。そして極々普通に生活をしていたつもりだったのが、ある時<能力>に目覚めたことがきっかけで様々なことに巻き込まれるようになる。
その能力とは<光>を操る能力である。
能力というは超能力とは別に区別されるものである。超能力は脳のメカニズムを解明していけばある程度判明する部分が出てきているが、能力に関しては全く要因が掴めていない。
どちらかというと魔法みたいなものと考えられている。
そんな魔法みたいな能力のせいで荒事にはだいぶ慣らされた。
能力者同士の戦いもあった。人も殺したこともあった。
だから大抵の修羅場や不可解な状況はすぐに対応する自信があった。
しかし、今の状況は一体なんなんだろうか?
気が付いたらリティールどころか地球でもなさそうなどこか。
タイムスリップではなく、全く違う世界にきたような史実。
王殺し事件から既に3日ほどが過ぎていた。
ルーシアはまだその国の、その城下町の近くの森の深くで潜伏していたのである。
最初の頃こそ、この森も大規模な探索が行われたが、能力で光の屈折を利用することで、自らの姿を映さないようにしていたため、見つかる心配はなかった。
その能力を使って街などに繰り出し、道行く人の話などから大まかな現状を掴む。話は聞けるが文字は読めなかったが、情報を整理した結果、ここはリティールでも地球でもないことが推測として浮かび上がったのである。
一番の判断基準は「魔物」「モンスター」と呼ばれるものの存在である。
元の地球の伝承にもそういった存在の記述はあったが、あくまで架空の物語として語られる中に登場するというのがお決まりであった。実際に見た、という人もいるが見ていないという圧倒的大多数の意見もあり、眉唾ものなのは確かだ。
だが、この世界ではそういった存在と人とが、存続を賭けて大規模な戦争を過去に何度か行っていたのである。しかも最新の戦争がわずか50年ほど前ということで、その記憶が残る人々もまだ多いのである。
加えて町に出た時に発見した「他種族」らしき存在である。
彼らをこの世界でなんと呼ぶのかはしらないが、あの尖った耳とやたら整った美形の見た目はファンタジー映画や小説、絵本などに必ず出てくるといっても過言ではないエルフそのものだったし、全身毛むくじゃらで大声で話しながら豪快にお酒を飲んでいる人(?)は獣人だろう。他にもなんか形容し難い種族もいた。
そういった決定的な証拠からも浮かび上がる唯一の結論としては、
「異世界にきちゃった、てへっ☆」
と、自分でとぼけてみせて恥ずかしく思える展開だったのである。
恐らくゴルディアスが放った最後のブラックホールがなんらかの理由で空間まで歪めて作用した結果、こうなったのだろう。そういう推測しか建てられない。仲間の研究好きな彼女がいれば、もうちょっと精密で理屈の通った推測が建てられるのかもしれないが…。
そうやって異世界にきた、ということで納得したはいいものの、まずもって一番最初に認識させられたことは「帰還方法がない」ということである。
この世界の文明レベルは中世ヨーロッパレベルで科学技術に頼っての帰還は不可能である。唯一望みを託す要素としては「魔法」という存在であったが、実際に見たのは火を放ったり、光を灯りとして使ったりという簡単なものだけだったので、次元や空間を超えるような魔法というのは存在するかどうかも定かではない。
次に気になるのは仲間達の安否である。
殆どがあのブラックホールに吸い込まれていった。と、いうことは同じくこの世界に辿り着いている可能性もある。無論、全く違う世界に飛ばされている、もしくはあの攻撃で普通に消滅してしまった可能性もある。
兎にも角にも、当面はこの世界で生きていきつつ、帰還出来る様な魔法があるのか?仲間達がここにきているのか?という情報を集めないといけない。
正直、地球の状況が気になるが、現状では如何様にも対応が出来ない。今、こうして生きていることを喜びつつ、ポジティブにいかないといけない、そう考えて行動することを決める。
ここまで考えて、そしてようやく一番最初の大問題に立ち返る。
王殺し。
とりあえず見つからないとはいえ、今やお尋ね者である。
人相書きなども出回っており、たまたま路地裏に落ちていた一枚を拾った。
意外と高い再現率をみせてくれる人相書きであったが、たまたま髪形がいつものポニーテールではなく、解けた状態であったことや、前に垂れてきていた長い髪のおかげで完全に人相が判る、という感じではなかったようである。
髪形を戻してしまえばそれだけでもパッと見ではわかりづらくなるだろう。
だが、この国で活動するのは万が一のこともある。とりあえず国外に出て、それから様子をみて表立った活動に出るほうがいいだろう。
-とりあえずこの国を出る準備ですね…。食べ物と水、後は…地図ですね。服装もなんとかしたいけど…。あと…残念ですけど野宿が出来るようなものがないとダメですね…あぅ…-
元の世界から着ていた服は既にぼろぼろである。直前の死闘でかなり細かく破けていたりもしたが、その後、3日間の森での生活で見るに耐えない姿になっている。
-奈々さんにこんな姿でいるところを見つけられたら、凄い文句をいわれそうですね-
ルーシアの仲間の一人で特に自分に対して気を回してくれた年上の女性を思い浮かべる。
今や会えるかどうかもわからないが、もし生きているのならまた会えると希望をもつ。
気持ちを切り替えて準備に入る。
現在まで彼女はどのように森の中に暮らしていたのか?というと盗賊のねぐらを利用している。
王殺し事件の後、ルーシアがどうしたものかと森を彷徨っていると急に現れた5人組。
剣や斧をチラつかせながら迫ってくる。
普通の少女であったら怯えていたかもしれないが、元の世界では世界屈指と言われる殺し屋とも戦ったことがあるのである。その程度の気迫・殺気では小揺るぎもしなかった。
ルーシアが何の反応も示さなかったためか、痺れを切らした一人が襲い掛かってくる。その攻撃を難なくひらりと避けると、続いてきた攻撃も軽く横に飛んでかわす。
何度か盗賊たちが攻撃を続けてきたが全て軽く避ける。正直、元の世界のチンピラの方がよっぽど気合の入った攻撃をしてくる、と半ば呆れてしまった。この世界では武器をチラつかせれば簡単に畏怖される対象になるのだろうか、と。
こうなれば多少懲らしめてやろう、と思ったルーシアは軽く掌底をいれる要領で攻撃を加えていった。あっさりと一発で彼らは立てなくなり退散していった。
だが、1時間ほど経過した頃にまた現れた。これには多少驚かされたが、再びあっさり撃退することにした。驚くほどあっさりとまた彼らは退散していった。
今後はそれから2時間ほど経過した頃に現れた。結構強めに攻撃をしたので全員なんかもうふらふらしている。今度は強めに急所へと攻撃を打ち込んでいく。
-みんなと一般格闘術を修行しておいて良かったなぁ-
心身の強化、というのと一般人と戦うことも想定して、多少は能力なしでの戦いを覚えるべきだ、という意見の元、全く戦闘の心得がない能力者を対象に格闘術の講習が開かれていた時期があった。幸いにきちんとした格闘術を師範レベルまで収めた人物が2人もいたため、スムーズに覚えることが出来た。
気が付くと盗賊たちは地に伏していた。
一人、一番立派な装備をしていた盗賊が死んでいた。
どうも打ち所が悪かったようだ。
だが今回はあまり罪悪感はない。
あまり、というのは能力も持たない相手を殺してしまったことに対してだが、そもそも武器をもって女の子一人を脅すような輩は自らがやられる覚悟も持つべきだ、と思っていたので積極的に殺すつもりはなくても、結果的に死んでしまったことに関して特に後悔は感じなかった。
-逞しくなった、というよりは生き死にに慣れちゃったんだろうね…-
だが、このことが結果的に良かったのか、他の盗賊たちは命乞いを始めた。
確かに盗賊業はすすんで入ったものの、一度負けた相手に執拗に攻撃を繰り返したのは今死んだ男、この盗賊団のボスのせいらしい。
彼らに盗賊の廃業を約束させるのを引き換えに命を救うを提案し、盗賊たちは二つ返事で了承したあげく、彼らのアジトを好きに使ってくれ、といって逃げ去っていった。
そうしてそのアジトを中心にこの3日間活動していたのだった。
早速移動に備えて、アジトの中にあるものを物色していく。
どこの盗品かわからないが、当面の食料や飲み物(大部分が酒であったが)、幾ばくかの宝石などもあった。悪いとは思いつつも、最早それが誰のものであったかわからないので仕方なく頂戴していく。
問題は地図だ。まったく地理がわからない状態で闇雲に動くのはあまりよろしくない展開である。街にいって情報を得るにしても、隠れた状態から流れてくる情報を掴むだけ、というものなので都合の良い情報が入ってくるかどうかはわからない。
-そういえば…街道があるとかどうとか言ってたっけ?-
街道があるということは、それはどこかの街に続いているだろうし、その街道を伝っていけば、別の国に出る国境に辿り着くかもしれない。
そう考え付くと早速行動に移し、街道を探す。
街道はかなり広く、人の行き来の多かったこともあってすんなりと見つかった。
能力を使って一気に駆け抜けてもいいのだが、今のところそこまで急ぐ必要性もない。帰れないのであればある程度はこの世界を楽しんでいくのもいいだろうと考えて、姿を消したまま馬車の荷台に乗っかり横になる。
ごろごろと馬車に揺られながら、色々なことを考える。
地球のこと、仲間のこと、これからのこと。
しかし、そのどれも全く答えが出ることはない。
なんとか踏ん切りがつく程度には答えを出したいのだが、やはり情報も足りないし、そもそも自分の置かれた状況すら100%はっきりしている訳でもないのである。
そして出した結論は、
-もうなるようになれ、ですっ!-
とりあえず情報を入手するために頑張るが、有力な情報が手に入る可能性もわからない。だったらその過程はどうせなら思い切り楽しもうと割り切ることに決めたルーシアであった。
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