01 いきなり王殺し
本作品はフィクションです。
登場する人物・団体・国家・企業・名称・宗教などは全て架空の設定であり、現実との関係はございません。
気が付いた時には浮遊している感覚。
その次の瞬間には落下している感覚。
そして間も無く、訪れた着地。
ドン!
グキッ!
ドサッ!
二度の衝撃に不思議な違和感を覚える。
そして自分の状況を認識する。
-あれ…私、生きてる…どうして?-
ゴルディアスと戦って、ブラックホールに飲み込まれた、というところまで記憶はしていたが、その後がどうにもわからない。
-トドメを刺されなかった?でも…じゃあここは?-
そう思って辺りを見回す。
見たこともない風景だった。いや、正確には似たような場所はみたことはあるが、実際に存在する場所だとは思えなかった。
一言でいうなら中世のお城、それも謁見の場みたいな場所だった。
鉄の鎧を着込んだ兵士らしき人がずらりと並んでいて、こちらを見ている。
自分の近くにはいかにも大臣です、という感じの人がこちらを凝視していて、短い階段の下で片ひざをついてこちらを凝視している立派な服を着た人。そして、自分の横で倒れている王冠を被った体格の良い初老の男性。
-え~っと…?どういうこと?-
突然の状況に頭が全く働かない。
とりあえず現状でわかることといえば、ゴルディアスと戦っていたのだが、気が付いたら中世のお城らしきところにいた。ということである。
ひとまず敵の差し金でこうなったとは考えにくい。
彼らの目的は自分達を殲滅することであるし、そうしなければいけない必要性があるからだ。
と、いうことはなんらかの事故でこうなった、というより他に考えようがない。
そういえば、自分の身体にあれだけあった傷がない。ところどころ服が破れてはいるが…。
まずは現状の把握に努めよう。
そう考えてすぐに辺りの状況を再認識しようとする。
シーンと静まり返った広間。
誰一人口を開かないこの場で改めてぐるりと周りを見直す。
一番気になるのは、この横で倒れている王様らしき人物である。
一体どうして倒れているのだろうか?
と、そこまで考えて、最初の妙な二度の衝撃を思い出す。
-ひょっとして…落ちた先にこの人がいた?-
だとしたら今、倒れているのは気絶しているのかもしれない。場合によってはどこかが折れている可能性もある。
「だ、大丈夫ですか?」
そういって王様らしき人物に触れる。
うつ伏せに倒れていたのでまずは顔を見てみる。
-うわっ!?-
白目をむいて口が開きっぱなしになっている。
-これは…かなりやばいかも?-
慌てて脈を取ってみる。
「あ…死んでる…」
ぼそっと呟いてしまう。
別に人殺し自体は今までやってきたことなので、特別それに抵抗があるわけではない。
しかし、無関係な一般人を殺してしまった、というのはさすがに罪悪感が募る。
だが、事態は悲壮感に浸る間も無く急変する。
「お…王殺しだ!!曲者である、皆の者!出合え、出合え!!」
いかにも大臣らしき人が叫びだす。
それに合わせて周りの兵士達が慌しく動き出すと同時に、大広間の扉が開いて大勢の人がなだれ込んでくる。
-え、え?ええええええっ!?-
状況が良く判らないままに人を殺してしまい、それがどうやら王様らしかったようで、とんでもない重罪を被せられてしまっている。なんだか時代劇みたいな掛け声で集まった兵士達はじりじりと周りを取り囲んでいる。
「貴様、どこの手のものだ?」
大臣らしき人が凄まじい形相で睨む。
「どうせ吐かないでしょう。吐いたとしてもその証言を信用する証拠がない。どの道死罪は免れない。この場で切り捨てて然る後、王が死んだことを公表して周りの国の反応を見るべきではないでしょうか?」
大臣の横についた若い騎士風の男性が、大臣に意見した。
「うむ、まぁ公表はせねばなるまいな…。タイミングと内容が問題だが…。それは兎も角だ…。この曲者は…ここで切り捨てては玉座が穢れる。外にだして即刻切り捨てろ!」
-ふえええぇぇ。なんか即死刑なんですけどー!!!-
気が付かないうちに状況は最悪だ。そして未だに自身の置かれている状況が把握しきれないというのも最悪だ。どう動くべきかの指針が見当たらない。
だが、このまま座して待っていては処刑されてしまう。
確かに王様を殺した、というのは不可抗力ではあるものの自分が原因であることはどうにも間違いなさそうである。
だとしても、折角生き残っているのに、あの後仲間達がどうなったかもわからないまま死ぬのは避けたい事態である。罪を償うにしても、現状の確認が必要だったが、この周りの雰囲気を見る限り、そんな説得はまず不可能であることは容易に判る。
-う~ん…しょうがない、ごめん!-
しょうがないので割り切って逃げ出すことにした。
能力で光を感じる。
-よし、能力は使えるね-
能力が封じられていない以上、なんらかの敵の罠、という可能性は低いように感じた。
先程まで死闘を演じていたはずだが、何故か体力や気力はばっちり本調子なのはよくわからないが、この場はとにかくそれで助かったと思った。
「ごめんね!フラッシュ!!」
いうやいなや貫くほどの眩しい光が掌から発せられる。
王殺しの少女が何をするのかと警戒していた周りの兵士達はその光をまともに直視してしまっていた。
その隙をついて出口へ向かって走り出す。
能力で身体も強化して、およそ少女とは思えないほどの神速で移動していた。
後方では
「目がああああああぁぁぁ、目がぁぁぁぁぁ」
と、どこかで聞いたことのあるフレーズが聞こえるが気にせず外へ向かう。
廊下に出ると石造りの通路に出た。通路は左右に分かれている。正面は腰くらいの高さの柵があり、そこから外を見ると大きな町が見えた。
とはいっても彼女に知っている街とは程遠い街である。
-ん~ここはやっぱりリティールじゃない?-
彼女の住んでいたリティールにも過去の時代をモチーフにした○○村というのがあるが、ここまで大規模な街や、大きなお城がある場所は聞いたことがない。
-とりあえず、一気に逃げちゃいましょう-
城の中を散策したい気持ちもあったし、見つかっても逃げ切る自信はあったが、まずは落ち着ける場所で情報を整理したいと考える。
一気に柵を飛び越えると、そのまま城の下へ落下していく。
10mほど落下してスタっと何事もなかったように着地する。
無論、能力のおかげである。
城の中で怒号や慌しい鉄の音が聞こえる。
どうやら視界を取り戻したらしい。
上手いこと城の堀の外へ着地出来たので、そのまま街を抜けて外に出ようと走り出す。
これが彼女の、ルーシア・アスクリエッタという少女の異世界での最初の出来事。
後に、光の聖女と呼ばれる彼女の異世界放浪記の始まりはこんな風だった。
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