09 新たな大地でこんにちわ 後編
楽しく書いていると何を書いているのかわからなくなる。
そして出来上がってから愕然とする。
どうしてこうなった、と。
パキッ パチッ
焚き火に使っていた薪が爆ぜる音で我に返る3人。
だが我に返っても未だに信じられないといった表情が抜けない。
「えっと…診断結果は?」
最初に口を開いたのはルーシアだった。
あの現象は結局のところ、ルーシアの魔術属性を判定するためのものだったはずなのである。
「・・・どうなんだ、ネネ」
「・・・・・・・判るわけないじゃないですかあああああぁぁ!!」
「「ですよねー」」
ネネシアの叫びに二人がため息混じりに反応した。
結局、なんとも判断できないが、ルーシアが色々と特別な存在だということは重々理解したところで一旦寝ることになった。
ルーシアはともかく、リッドとネネシアにとっては色々と驚愕に思える出来事が多くて疲れたのだろう。寝る準備をしていた、と思ったらもう寝ていた。
なお、夜営の簡易キャンプにも関わらず、見張りはいない。
ネネシアの探知結界が既に張られていて、他の敵意を持つ存在が進入してくると知らせてくれるので問題ないらしい。
内心、ルーシアは魔術を羨ましがっていた。
ルーシアの能力で強力な結界を作ることは可能であっても、探知結界、そして効果が寝ても残るというようなものを造り出すことは出来ないからである。
どちらかといえば結界や探知はルーシアの仲間であった別の者、竜堂奈々という女性の方が得意な分野であった。
-奈々さん…無事なのかなぁ…-
最後の瞬間近くまでギリギリ意識があったのだから、アレに飲み込まれた瞬間でも絶命はしていなかったであろうと思う。つまりこの世界に来ている可能性も否定出来ないのであった。もっとも、あのままブラックホールに圧縮されて消滅した可能性や、別の異世界にいる可能性も、現時点では否定出来ない。
しばらく振りに元の世界での不安要素を思い出していると、ふと気配を感じた。
辺りをきょろきょろと見回してみるが何も見当たらない。
だがなにかいる。と感じる。
そのルーシアの警戒する気配を感じたのか、のそっとそっぴーも顔をだした。
「いい子だから静かにね」
そっぴーの方は見ずに小さく呟く。
そっぴーもそれを理解したのかまたもぞもぞとマントに潜る。
その様子を感じ取って一瞬和んだものの、またすぐ警戒に意識を戻す。
-どこ?なにがいるの?-
パチッ パチッ
薪の爆ぜる音だけがやけに響いて聞こえる。
あとはかすかに虫の鳴き声が聞こえてくるくらいだ。
だが、暫くすると。
ゾリゾリ ゾリゾリ
思い何かを引きずるような音が聞こえてきた。
ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ
次第にそれは大きく聞こえてくるどころか、発生源が増えていた。
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ ゾリゾリ
ゾリゾリの大合唱である。
ルーシアはこの異常に対してとりあえずリッドを起こす。
「ん?なんだ?」
と寝付いたばかりだったのか、かなりだるそうに身体を起こそうとするが、この異常な大合唱が耳に入るや否や、パッと武器をとり、ネネシアを起こす。
「これは…非常に厄介なことになったかもしれん」
一言そういうとルーシアを見る。
「どういうこと?」
「オルムの群れがこの辺を通ってる。場合によってはここにも来るな。大人しいモンスターだが一旦暴れだすと非常に危険だ。殻が異常に堅く、巨体とスピードも合わせた突進は城壁すらも軽く砕く。」
どうやら聞く限りでは堅い殻をもった芋虫のような生物で、普段は大人しく鈍足な生き物だが、何かのきっかけで怒り出すと暴走し、凄まじい速度で突進するようになるモンスターだという。
「大人しくやり過ごせればいいが、群れに囲まれると厄介だな…しかしどこに群れが移動してるか掴めないと下手に動けん…。」
要するにこちらが気が付くのが遅かったためにかなり後手に回ってしまっていて、すでに行くも退くも残るもメリットがなくデメリットしかない、という状況である。
「運次第ってこと?」
「ぶっちゃけそういうことだ」
ゾリゾリという大合唱の中、とりあえず静かに移動できる準備をする3人。
準備を終える頃には大合唱は大騒音となるレベルになっていた。
「すっかり囲まれたな。」
「どうしましょう?」
リッドとネネシアでもこういった経験は未だに無いらしく、対応策を導き出せずにいた。
そして30分ほどそのまま過ごしてしまうことになる。
Side ルーシア
どうしようか考えるリッドとネネシアの結論を待っていた私。
でもその間にとうとう時間切れになってしまいました。
思わず、「それなんてナ○シカ」って言いそうになるくらい酷似した生物が目の前にやってきたのです。
「とりあえず逃げるぞ!」
リッドがそう叫ぶものの、私にとってはどんなに堅い殻でも問題ないと思うんですよね。まぁ数がいるのは面倒ですけど、本気をだせばこんなの100や200くらい朝飯前ですっ!
「じゃあ、サクっと退路を切り開きますね」
私はそういうや否や能力を行使しようとする。
「フォトン・レイ!」
「ばっ、バカ!やめろ!そいつを殺すと…」
「ルーシアさんだめえええええ」
リッドとネネシアの声が聞こえましたが、もう止められません。
バシュン
いつものように光線を放って、そしていつものようにあっさりとモンスターの身体を貫通した。複眼の光が失われていくのを見るに、絶命したようです。
にも関わらず、
「こうなったら急いで逃げるしかないぞ!」
「ルーシアさあああん!早くにげえてえええええ!」
二人はかなり慌ててオルムの死骸から離れていく。
「え?なんで?」
なんで逃げるの?二人とも?
「いいから後をみろ!そして見たらすぐ逃げろ!」
そういいながら全力で遠ざかる二人。
私が頭に疑問符を付けながら振り返った瞬間
ボシュン!
なんて音がしたと思ったらオルムの死体が爆散した。
「ひょぇ?」
予想外の出来事に間の抜けた声が出てしまう。
そして何かがでろーんという感じで遅れてはじけ飛んでくる。
-なんだろ…あれ…?-
「それは絶対にさけてええええええええぇぇぇぇ」
ネネシアの声がかなり遠くに聞こえる。もう相当遠くまで走ったようだ。
その声に従って、とりあえずよくわからない物体を避けてみる。
ドシャ!
物凄い重量物が横に落ちてきた。そしてなにやら蠢いていた。
私はソレを直視した。
してしまった。
-!?!?!?!?!?-
もうなんて形容したらいいかわからないとにかくグロイとしか言えないナニか。
人の死体は見たことがある。頭が半分吹っ飛んだ人とか。それはそれでグロかったですけれども、なんていうか…生理的に受け付けない嫌悪感のレベルがマックスです。
そして辺りに漂う汚染というレベルでは言い表せない強烈な・・・いや凶悪な悪臭が私の鼻腔をくすぐる、というか侵食して、一瞬で脳内をブレイクする勢いでした。
臭いと視覚のダブルショック!
あまりのショックに気を失うかと思いましたけど、本能がそうさせたのか、私は能力強化を惜しむことなく駆け出していました。
しかし、それはまだ悪夢の始まりに過ぎませんでした。
Side デフォルト
必死な形相で駆け出したルーシアはあっという間にリッドたちに追いついた。
その驚異的な速度に驚いた二人だったが、ルーシアが規格外であることについていちいち突っ込んだり驚いたりしていては頭も身も持たないと実感していた二人はとりあえず無視することにした。
「全部説明しなかった俺が悪かったが、あれは倒すとああなる。そして一度倒すと群れが倒した人間を敵と認識して、敵を倒すまで群れ全てが残らず襲い掛かってくる。だからあれは刺激してもいけないし、手出ししてもいけない。そういうもんだったんだ。やっちまったもんはもどらねぇからどうしようもないが、今後どうするか…」
全速力で走りながらそこまで説明できるリッドに大層感心したルーシアだったが、つまるところ、自分が完全にロックオンされた事実に頭を抱える。
ネネシアは走るのに手一杯で話す余裕がない。
「こうなったら、国に助けを求めるしかあるまい。だが、助けが到着するまで、お前はあれと鬼ごっこを続けないといけないがどうする?さすがにあれ全部を倒すのはお前でも無理だろ?」
無理ではなく余裕で殲滅は出来る。ルーシアはそう思っていたが、その後の惨劇を考えるともう、出来てもやりたくないと思っている。
-あんなグロい上に臭いのを何百、下手すれば何千とか…なんの拷問?-
「私は逃げ切るっ!逃げ切ってみせます!!」
「頼もしいのかそうじゃないのか微妙だが、そういうことなら一刻を争う。俺たちは街へ戻る。幸いターゲットにはされていないようだしな。出来れば生き残って再会できるといいな。」
「最早私が死ぬ前提で話してません?」
「まさか。お前が死ぬとは到底思えんよ。まぁ頑張れ。一応出来る限り迅速には事を運んでやる。それまでの時間内でどうするかはお前の判断と運次第、ってとこだ」
その台詞を合図にリッドとネネシアがルーシアから距離を空けていく。
「最後に一つ言っておく。パーティーは解散しねぇからな。いきなり穴あきパーティーになんてさせんじゃねぇぞ!次は巣穴の調査がまってんだからな!」
-死亡フラグじゃないの?それ?-
地球にいた頃の仲間、某オタク能力者が良く使う台詞をここで使うことになるとは思わなかった。
とにかくリッド的には今後もパーティーを組むことで考えてくれていることはわかったので内心嬉しさで一杯になる。
が、まずはこの状況を脱しないと話が進まない。
ルーシアは能力を出し惜しみすることなく、全力で走り出した。
そうしてようやく冒頭の逃亡劇に繫がった。(※前編の冒頭参照)
逃げ始めて、既に6時間が経過していた。
ドドドドドドドド
振り返ると凄まじい数のオルムが後を追従してきていた。
土煙が舞い上がり、まるで砂の大津波が発生しているような錯覚を感じてしまう絶景が広がっていた。
さすがにルーシアも多少の疲れを感じてきていた。
このままいくと、限界まで走ることだけに集中しても6時間は持たないだろう。
-最終手段を取るとした場合、あと3時間半くらいですね。粘れるのはー
ちなみに最終手段とはかの有名な「焼き払え!」である。
その後発生する惨劇に目を瞑ればいつでも可能であるし、間違いなく生存できる手段である。
自分の命と地獄にも劣らない惨状を目にすることを天秤にかければ、どちらがいいかは明白すぎることではあるが、実際に惨状を目撃し、体験したとき、死にたくなるほど後悔することもまた明白であった。
しかし、そうは思ってみても、このまま逃げ続けているだけではなんら解決することはなく、無駄に時間を浪費するだけである。
援軍に期待してはみるものの、これだけの物量の敵であるからあまり期待は出来ないし、結局倒すことになるのは目に見えている。だとすれば、自分のトラウマと引き換えにするのが最小限の犠牲であるのではないか?とも思える。あとは踏み出す勇気か決断する覚悟を用意すればいいのである。
また、これだけの速度で逃亡劇を繰り広げているのである。いくら規模が大きく、土煙だけでも遠くから視認できるとはいっても、援軍がここに辿り着けるのか?という問題もある。
-やっぱり援護は期待しないで自分でやるしかないのかもしれないですね…-
考えれば考えるほど、もはや選択肢は唯一になったといっても過言ではなかった。
そうしてルーシアの中で自問自答しながら、それでも答えの、いや最後の踏ん切りがつかないまま、更に1時間が経過する。
ルーシアの眼前に見えたのはモンスターの群れであった。
どうやら奥地へ奥地へと逃げてきてしまっていたようで、みたこともない、明らかに見た目が獰猛そう、かつ強そうなモンスターがちらほら見えていた。
モンスターはモンスターでこれから人間の領域に再度大規模進行をかけようか、というところで怪しい土煙が迫ってきている、と思ったら人間一人と最早数えられないほどのオルムが迫ってきていたのだった。
この事態に驚いたのは言わずもがなモンスター達である。
彼らは本能的にオルムが集団で怒っている時の獰猛さ、凶悪さを知っている。あの群れがそのまま突っ込んできたら最悪壊滅することも高い確率でわかっていた。
翼のあるものは空へ、足に自信があるものは遠くへと逃亡準備を図っている。
そして最早集団としての統率はなく、逃げ惑うモンスター同士で諍いが起きるような混乱振りだ。
そしてルーシアのとった行動は。
そのまま直進である。
いちいち迂回などしているヒマはない。目の前の敵は倒してもオルムほど酷いことにはならない。今はその事実がルーシアにとっては有難く、そして殺意を満々にさせる理由だった。
-邪魔をするなら殺す-
非常に純粋な、そして強大な殺意、そして虎の威を狩る、もといオルムの威を狩る人間。モンスターとはいえども恐怖を覚えずにはいられなかった。
そしてあっという間に混乱するモンスター陣営に飛び込むルーシア。
あまりの出来事にモンスター達はルーシアに対して何も出来ずにいた。
その状況をこれ幸いとばかりにそのまま駆け進むルーシア。
それを追うオルム。
数分でモンスターの群れを突破し、そしてルーシアは色々ありすぎて既に興奮状態になっていた。
モンスターの群れに突っ込む、そして追われるという状況のめまぐるしい変化。なんだかんだで昨日から寝てない。体力的に疲れが厳しくなってきた。殺気を放ちすぎてかなり好戦的になっている。とりあえず一旦楽になりたい。
そういった状況や想い、精神状態が全てを解き放った。
「焼き払え!!」
もうなんかどうでもいいや。とルーシアは最後に思ったのだった。
ドガアアアアアアアアアアアアン!!!
未だかつてない大爆発が起こった。
核兵器はおろか、爆弾すらなく、砲弾がようやく実践として使えるようになってきたこの世界で、半径500m以上が一瞬で吹き飛ぶような大爆発が発生した。
そしてその光はこのガルガデルフの奥地で発生したにも関わらず、隣国のソリュートからでも目視できるほどの光を放っていたのだった。
後の伝説で「聖女の生誕祭」と記されるこの出来事は、伝説になるまでは、ガルガデルフの悪夢と言われ、その地は異常な臭いと悪魔のような見た目が広がる禁忌の地として長く恐れられるようになるのであった。
一方、その出来事の数時間後。
1000人規模の援軍を引き連れて、ルーシアの救助、および大爆発の確認をしにきたリッド達は、恐ろしい悪夢のような光景の中、放心しているルーシアを発見。
安全なところまで撤退し、ルーシアの正気を取り戻させて何が起きたのかを確認しようとしたが。
「おい、ルーシア!しっかりしろ!」
「あ、皆さんこんにちは。私はルーシア・アスクリエッタですっ!きゃぴきゃぴの17歳で~っす♪」
完全に壊れていた。
「書いていて楽しかったなら結果的に良かったんだ。」
そう納得することで自分を正当化しよう。
そんなことを思うまでに2秒とかからなかった。
しかしその5秒後には後悔してしまうのだから、人間は諦めが悪い。