00 プロローグ
本作品はフィクションです。
登場する人物・団体・国家・企業・名称・宗教などは全て架空の設定であり、現実との関係はございません。
「こ、こんなに能力の差があるなんて…」
全身傷だらけの姿で地に片ひざをつく少女がそう呟く。
辺りには彼女の仲間だったものが地に伏していた。
「もう終わりだな」
彼女達と戦っていた敵。
ゴルディアスと名乗る巨漢の男がそう冷たく言い放つ。
彼女は、仲間と共にとある目的のためにある敵と戦っていた。
だが、その敵が放った刺客、今目の前に立つゴルディアスたった一人によって彼女達は壊滅させられていたのだった。
まだ全員かろうじて息は残っているが、それも時間の問題だろう。早急に治療を行わなければ死亡してしまうことは明らかであった。しかし、この場で敵を倒すことは最早不可能であったし、逃げるにしても倒れている人間を見捨てても逃げ切れきれるかどうか、という最悪の状況にあった。
「ルーシア…逃げて…」
倒れていた女性が、唯一この場でまだ地に伏していない少女に言葉を投げる。
「そんな!みんなを見捨てて逃げるなんて出来ません!」
ルーシアと呼ばれた少女が叫ぶ。
その返答を聞いて、内心嬉しそうな、だが悲痛そうな顔を見せて再び地に顔を伏せてしまう女性。
―ごめんなさい…でも本当に置いて逃げるなんて出来ないっ!―
ルーシアは内心で覚悟を決めていた。
このままルーシアがやられても、逃げたとしても、ゴルディアスを野放しにしておいては全員助からない。まだ息のある人間が、時間の経過で意識を取り戻す小さな可能性を考えて、ここでなんとかゴルディアスを討ち、トドメの機会を無くすしかない。
この考えは非常に短絡的なものではあったが、もうそれしか選択肢が残されていないようにしか彼女には思えなかった。
再び彼女は意志を強めてゴルディアスを睨む。
その意志ある、そして覚悟を決めた目を見て、再び戦闘態勢をとるゴルディアス。
ふらふらする足をなんとか踏ん張って、霞む視界を気合で元に戻す。
最後の力をありったけ溜めて、そして思い切り駆け出す。
そのダッシュは万全の状態に劣らない最速。
手に彼女の能力である<光>を集める。
ゴルディアスはその最後の抵抗に驚きも慌てるもせず、ただ右手を振りかざす。
両者の距離がゼロになり、ルーシアの拳が右手を挙げたままのゴルディアスのわき腹に突き刺さる。
その手に確かな攻撃の手ごたえを感じたルーシアはどうだ、とばかりに振り返る。
が、そこで見たものに彼女は驚愕する。
「え…そんな…それじゃあなたは…そんな…」
「せめてもの手向けだ。お前たちは強かった。だがそれだけだった。」
ゴルディアスの右手が振るわれる。
そこから放たれるのは黒い球体。
彼の能力は<重力>。
放たれたのは重力の塊。いわばミニブラックホールである。
放った彼以外の全てを引き寄せて押しつぶし無に帰す。
放心しているルーシアには、もう抵抗する余力もなかった。そもそも放心していなかったとしても先程の一撃が最後の一撃だった。為す術もなく、球体に引き寄せられていく。
辺りで倒れていて彼女らの仲間も次第に引き寄せられていく。
一人また一人とそこに吸い込まれては消えていく。
「あなたは何故…あの男に…」
放心しながらも最後の疑問をゴルディアスにぶつけるルーシア。
「それが…私の恩を返す為の唯一の手段だからだ」
その返答を最後にルーシアの身体は宙を舞い、そして意識を失った。
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