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現状確認

 謎の銀髪少女を助け、謎の黒服集団に襲われ、謎のマジカル☆パワーを手に入れ、ミステリー小説の序盤なんて目じゃない程の謎の洪水を乗り越えた。


しかし、件の銀髪のガキことツェーク・ヘレムの見た目は、ボロ切れ一枚に傷だらけの肌の少女。

こいつを連れて徘徊。あまつさえ警察に駆け込んだ際に事情聴取を喰らうのは俺である。


加えてこの辺の警察は日本では考えられないぐらい腐ってる警官ども。

この腐りようを見たらきっと、納豆嫌いのガキも納豆を腐った豆だなんて言えなくなるレベルだ。


 つまるところ、ツェークの力によって増幅した身体能力でアメリカン・ヒーローよろしく建物の上を飛び、追尾の手が無い事を確認してから自宅へ誘拐まがいのエスコートを敢行する事になるのは、当然の理というものだろう。


 言い訳がましい?うるせぇな。


こっちはロリコン犯罪者の冤罪と、大枚はたいて買った未来のフィアンセの為のダイヤモンドリングという人質を取られているのだから、少しぐらい倫理から外れるのも仕方ないってもんだろお分かりいただけたかな?パードゥーン?


「汚い」


「なんだとガキ」


「事実だから仕方ないだろう征矢(チンピラ)


征矢(大天才様)と呼べクソガキ」


 というわけで、一時保護の為に我が家に招き入れたツェーク・ヘレムの一言目は失礼極まりないものであった。


「あのな征矢」


「ンだよ。何に文句あるんだよ」


「書籍と服にその他諸々が混沌と散らばってる部屋が汚い事は世間知らずのボクにも分かるぞ」


「るっせぇな!十八歳の男の部屋なんてこんなもんだろ!」


「まだ生ゴミが無いだけマシか?」


「深刻そうな顔で本気で心配したような声出すなぶっ飛ばすぞ!?」


 ツェークが煩いので適当に部屋のものを蹴飛ばして端に避けていると、また溜息を吐かれる。

客人なんて呼ばねぇんだから仕方ねぇだろ……!


 というか、気づけば床まであるその銀髪を纏めて部屋の床に付かないようにしてやがる。

一応お前を匿ってる身だぞこっちは……?


「というより、エンゲージリングより前に女を誘う環境を整えるべきだぞ、征矢(せいや)


「チンチクリンの見た目で母親面(ははおやヅラ)見せるんじゃねぇ!」


 気づけばクソガキは「思春期の男子特有のそういう(・・・・)本は無いのか?」とのたまいながら俺の部屋を漁り始める。

お前、さっきまで薄幸の少女気取りだった癖になんだその変わりようは……!


「漁るな崩すな勝手に整理すんな!人の部屋荒らす前にさっさとこれ使えバーカ!」


「ぐえっ」


 手元の箱から取り出した物をツェークの顔面に投げつけ、その手を止めてやる。

ったく、なんだってんだコイツは……。


「これは……市販薬と包帯か?」


「……足の裏、コンクリートの上を裸足で走り回ってズタズタだったろ」


「それは有難いが、随分揃ってるな」


「喧嘩した後とかに使うモンでな。どこやったか忘れるし、逐一買ってたら勝手に揃ったんだよ」


「征矢……。整理はしっかりしなさい。それとまだ十八、高校生だろう。喧嘩より学業をだな」


「うるせぇ!母親面するなっつってんだろ人の好意は素直に受け取れバーカ!」


「おっと、口は悪いが好意のつもりだったのか」


「お前もう一旦黙れ……」


 さすがに口喧嘩も疲れた。

俺が顔を抑えて項垂れるとさすがに観念してくれたのか、一旦ツェークも黙ってくれる。


「ふふ、すまないな。こうして人と話すのなんて初めてでな。つい興が乗ってしまった」


「そーですかい。風呂場はそっちだ。さっさと汚ぇ体洗ってきな」


 まぁ、確かにあんな様子じゃマトモな生活は送れていないのだろう。

俺は天才な上に寛大な心の持ち主なので、先ほどまでの口論を水に流し、薬を塗る前に洗面所の方を指差して体を洗う事を勧めてやる。


 ツェークはそんな慈悲深い俺の言う通りに脱衣所に入る。

閉まったカーテンの裏で聞こえたのは、布が落ちる音が一度だけ。

……本当にあんなボロ切れだけでここまで逃げてきたのかよあのガキ。


「あ、そうそう征矢」


「今度は何だよ」


「覗くなよ?」


「テメェみたいなチンチクリンで興奮するほど性癖捻じ曲がっちゃいねぇよ」


 憎たらしいクソガキは鼻歌混じりに風呂場のドアを閉める。

……風呂場から「これで良いのか?良いんだよな?」などと機械オンチの声が聞こえる気がするが、まぁ壊す事は無いだろう。多分。


「……はぁ」


 激動の一日を終え、今更やって来た疲労を逃す為に壁にもたれかかる。


 ガキ助けたかと思えば銃持った明らかにカタギじゃない相手に射殺されかけ、かと思えばガキと合体して亜人(デミ)みたいな変身して解決?

昨日の俺に言ってやりたい。鼻で笑われるに十万は賭けても良い。


「ダイヤのリングも取られちまったしなぁ」


 正直言って、十八歳のこの身でダイヤのリングを買うのは相当苦労した。

己が武を高めるがついでに、異能力犯罪に手を染めた亜人(デミ)どもを薙ぎ倒し、お尋ね者料を貯めに貯めた文字通り血と汗の結晶では、ある。


 ……あるのだが


「……ま、喧嘩ばかりで汗臭い野郎の懐で腐らせてるよかは、良い場所に収まってるか」


 とりあえずそう納得をして、ツェークが風呂から上がるのを待つのだった。


○●


「でだ」


「んだよ改まって。薬は塗り終わったのかガキ」


「心配には及ばんよチンピラ」


 とまぁ煽り合いを決めながら。


 ツェークの足は包帯と市販薬でとりあえずの応急処置が成されていた。

風呂上がりにまた汚いボロ切れを着せるわけにもいかんし、とりあえず寝巻きに俺の使ってないワイシャツを投げ渡しておいた。


いわゆる彼シャツというシチュエーションかもしれないが、相手の容姿がチンチクリンでは興奮も何も無い。


「改めて僕と征矢の現状を擦り合わせたいと思う」


「……ま、異論はねぇよ」


 こちらとしても、色々聞きたいと思っていたところだ。

黒服の連中は何なのか。純血(スカム)の俺を亜人(デミ)みたいに変えたお前の異能は何なのか、とかな。


「僕は、彼らハダシュ……革新派とも名乗る連中から逃げ出した、星の巫女だ」


「……?」


「あー、すまない。言い方が悪かった」


 ツェークは時折訳のわからない事を言い放ち、その度に謝ってくる。

確かに俺は学校をサボっちゃいるが、教育機関で通常に聞くような内容とは思えない。


革新派(ハダシュ)という組織に、他人を異能力者に出来る力を持つ人間として監禁されていた」


「は、ぁ?」


 先程のものは、言われた言葉の意味が全く分からない事から来る困惑。

そして今のは、言われた言葉の意味が理解出来るからこそ、その荒唐無稽さへの困惑だった。


「バカ言え。誰でも亜人(デミ)になれるなら、天才の俺が異能を使えない訳が無いだろ」


「何処からその自信が来るのかは分からんが、実際僕と一緒にいた時には使えたろう?異能を」


「……まぁ、そうだけどよ」


 事実ではあるからこそ否定し難い。

俺は武芸の天才ではあるが、あくまで人の範疇だ。

ツェークの助力無しでは6mの跳躍も、人をボールみたいに吹き飛ばせるパンチ力も無い。


「という訳で人体実験やら色々で限界だったのでな。こうして逃げてきた訳だよ。ははは」


「笑い事じゃねぇだろ……」


「いや、すまない。まさかこんな所で僕の適合者に出会って切り抜けられるとは上手くいきすぎなもので、ついな」


 さらりととんでもない事を笑い飛ばしやがった。

人体実験?そんなの、もはや同じ人かも疑わしい亜人(デミ)がいる現代日本でも御法度だ。


 このあっけらかんとした笑顔の裏には一体どれほどの傷を隠しているのだろうか。

黒服どもに街中で銃を撃たれるという非日常を経てから、頭ごなしに否定する気にもなれなかった。


「つーか、適合者ってなんだよ」


「ん?言ってなかったか?」


「聞いてねぇ。全員が亜人(デミ)になれねぇみたいな口ぶりだ」


「まぁそういう事になるな」


「もし適合者じゃなかったらどうなるんだ?」


「死ぬ」


 あまりに分かりやすい物言いだった。

それに俺は、本日何度目か分からない絶句を決め込んでしまった。


「言ったろう?才能が必要だと」


「才能なら俺に問題がある訳ないが、それしか聞いてねぇよ」


「君、才能の話になると一層と頑固になるな……」


 こほんとツェークが閑話休題とでも言いたげに咳払いをし、話は続く。


「僕が革新派(ハダシュ)に捕まっている時に何回か適合検査を行ったが、被験者は例外なく発狂して死んだよ」


「それは、才能っつーかただの処刑だろ」


「捕まってる間は、だ。捕まる前に別の場所で生活した時は一度だけ適合者がいたんだよ」


 そう語るツェークの表情は極めて平静に見える。

だが、革新派(ハダシュ)とやらに捕まってる間に、彼女の力で何人……或いは何十人か死をに追いやってしまっているとは容易に推測が付く。


 ____はたして、俺ならばそんな殺人の道具にされて、目の前のツェークみたいに柔和な微笑みを浮かべられるだろうか?


 ツェークにかける言葉を悩んでいるが、そんな俺を彼女は待ってくれない。


「それで、次は君の事だな」


「俺?特にねぇだろ。何の能力も無い大天才様ってだけたよ」


「そうでは無くて」


 俺を正面から見据えるツェークの目に揺らぎは無い。

路地裏で俺に才能を問うた時と同じだ。

こちらの真意を見定めるような、全てを見透かす海のような眼光が俺を呑む。


「何故ボクを助けた?」


「……言ったろ。寝覚が悪くなるからだよ」


「本当か?」


 俺の言葉に被せるように疑問の声が飛んでくる。

ツェークの瞳孔が俺の顔だけを捉えているのに気づいて、金縛りのように体がうまく動かなくなっていた。

不自由な五感の中で耳だけは敏感に音を拾い、ツェークの言葉を聞かざるを得ない状況に陥る。


「最初の銃弾はまだ征矢が逃げられる段階で飛んできた。

僕なんて見えてる地雷だ。寝覚なんて一時の気分と天秤にかけるには、あまりにも釣り合わない」


 だから、それ以上はやめろ。


「だから、もう一度問いたい」


 思い出したくもねぇ事を思い出す。


「征矢は何故、僕の事を助けた?」



______おにいちゃん。




「……い」


「い?」


 それでも俺は、ギリギリ踏みとどまれた。

こんなにバカみたいに重いモン背負ってるガキに、男の無駄な過去まで聞かせる話は無いと心を鎮めた。


「犬だ。昔飼ってた犬に、若干似てんだよお前。

特に一々うるせぇところとか」


「なっ__!?ボクが犬のようだと言いたいのか!?」


「そうだよ小型犬。話はこれで終わりか?

なら消灯するぞ」


「いや、終わりではあるが、それは聞き捨てならん……おい征矢?征矢!」


 何だか煩いガキが横で騒いでるが、全て無視。

俺は部屋の電気を消して、一日の疲れを落とす為に、逃避するように眠りにつくのだった。

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