8/8
エピローグ 一年後の駅前
夏の風がホームを抜け、麦わら帽子が飛ばされる。
妹が笑いながら帽子を追いかけ、俺が拾い上げる。
「ほら、忘れ物すんなよ」
「ありがと。あ、あっちに海斗くん来てる」
海斗が制服ではなく作業着姿で手を振っていた。
バイトで貯めた金で専門学校に通いながら、工事現場で働いているらしい。
少し日焼けして、声が前より太い。
「兄貴、元気そうだな」
「ああ。お前もな」
三人で駅前のベンチに座る。
電車が入ってくる音が聞こえる。
その音は、もう脅しでも試験でもない。
ただ、次の場所へ連れていく音だ。
「じゃ、行くか」
妹が立ち上がり、海斗も続く。
俺はもう一度、ホームを振り返った。
昨日までの自分が何度も立ち尽くした場所。
今は、ただの駅だ。
「——行こう」
新しい風が吹いた。
列車のドアが開き、未来へ続く道が見えた。
これで物語は完結です。
もし少しでも心に残ったなら、感想・ブクマ・評価ポイントで応援していただけると嬉しいです。
次作も準備中なので、フォローしていただければ更新をお届けできます!