第8話:氷原への旅立ち
夜明け前、村の焚き火はまだ赤く燻っていた。
東出昌大は、熊の毛皮の防寒着を羽織り、荷を背負う。
腰には万能狩猟道具、肩には長弓。
村の猟師たちが見送りに集まる。
「吹雪は三日続くこともある。焦らず進め」
「氷原の狼は群れで来る。王を狙うなら、まず奴らの目を逸らせ」
東出は深く頷き、焚き火の明かりを背に歩き出した。
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吹雪の壁
谷を抜けると、世界は一変した。
雪原は果てしなく続き、冷気が皮膚を切る。
吹雪が視界を奪い、足元の雪は膝まで沈む。
「……なるほど、これは想像以上だな」
足跡はすぐに雪に埋まり、方角を見失いやすい。
東出は万能狩猟道具を氷割り用の斧に変え、硬い雪を踏み固めて道を作る。
腰の革袋には、村でもらった香辛料入りの携帯食と干し肉。
それを少しずつかじりながら進む。
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氷原の兆候
二日目の夕暮れ、吹雪がわずかに弱まり、視界が開けた。
氷原の地平線に、巨大な足跡が点々と続く。
狼よりも大きく、爪痕は氷を抉っている。
「……白影狼王、か」
焚き火を起こし、雪を溶かして湯を作る。
毛皮の防寒着を乾かしながら、夜の静寂に耳を澄ませる。
その時――遠くから、低く長い遠吠えが響いた。
氷原の空気が一瞬で緊張に包まれる。
「……来るな、これは」
東出は槍の柄を握り、焚き火越しに闇を見据えた。