第37話:深淵遺跡 ― 神の使徒
静寂の遺跡
焚き火が小さくはぜる音だけが響く遺跡の最奥。
東出昌大はタバコをくゆらせながら、石碑に背を預けていた。
その時――空気が変わった。
重苦しい気配。
大地を脈動させるような力が遺跡全体を満たす。
焚き火の炎が揺らぎ、赤黒い光の中から人影が歩み出てきた。
神の使徒
それは人の形をしていたが、肌は黒水晶のように硬質で、背には翼とも触手ともつかぬ影が揺れている。
顔は仮面に覆われ、瞳の代わりに二つの光点が輝いていた。
「……神の使いか」
東出が呟くと、影の声が遺跡全体に響き渡る。
『狩人よ。汝の狩りを神は楽しみ、また畏れている。
だが、神の座を望むならば――この身を越えてみせよ。』
使徒は槍を構え、まるで東出自身を写したような狩人の構えを取った。
一瞬の交錯
次の瞬間、影が疾走した。
槍が火花を散らし、東出の万能狩猟道具とぶつかる。
互いに間合いを読み、攻防は一瞬で数十合を超えた。
タバコの煙が宙を舞い、二人の狩人を隔てるように漂う。
「……おもしれぇ。まるで鏡打ちだな」
狩人と影
使徒の一撃は重く鋭い。だが東出はすべてを受け止め、いなしていく。
やがて互いの武器が弾き飛び、わずかな静寂が訪れた。
その時、使徒の声が低く響く。
『汝は神の器。だが選べ。
狩人として神に仕えるか、神を狩る者となるか。』
焚き火の火花が舞い上がる。
東出は酒を一口あおり、煙を吐き出した。
「俺が選ぶのは一つだ。
肴にできる奴は――全部喰らう」
使徒の仮面がひび割れ、わずかに笑ったように見えた。
深淵遺跡の空気はさらに張り詰め、決戦の予兆を孕んでいった。




