第35話:深淵の巨獣 ― 魂喰らいのタイラント
兆候
深淵界の荒れ地を進む東出昌大。
大地は脈動を強め、足元から低い震えが伝わってくる。
酒瓶を傾けながらタバコをくわえ、ふっと煙を吐いた瞬間――
地平の向こうで黒い塔のような影が動いた。
それは“生きた山”のように巨大な異形。
複数の腕と顎を持ち、背中には無数の顔が浮かび上がっている。
「魂喰らいのタイラント」――深淵界の支配者のひとりと呼ばれる存在だった。
開戦
巨獣が吠えると、周囲の空気が重く沈み、光苔までもが萎れていく。
圧倒的な威圧感に、普通の人間なら立っていられない。
だが東出は酒を一口飲み干し、静かに呟いた。
「……獲物がでかいほど、肴もでかい」
万能狩猟道具を長弓に変え、雷撃を帯びた矢を放つ。
矢は巨獣の外殻に突き刺さり、轟音と共に一部を焼き裂いた。
しかし、すぐに肉が蠢き、傷が塞がっていく。
狩人の知恵
「再生持ちか……なら、芯を潰すしかねぇな」
巨獣の胸部に浮かぶ“歪んだ顔”――そこから脈動する光が見えた。
それが核であると直感する。
東出は斧へと切り替え、接近戦へ突入。
振り下ろされる巨腕を紙一重で避け、肉を切り裂きながら突き進む。
触手が迫るたびに炎魔法で焼き払い、雷撃で痙攣させて道をこじ開けた。
決着の一撃
ついに巨獣の胸部へ肉薄。
東出は槍に切り替え、深淵の調理炉を併用。
火炎と雷撃を槍に纏わせ、心臓部めがけて渾身の突きを放つ。
「魂ごと――いただくぜッ!」
槍が突き刺さり、轟音が大地を揺らす。
タイラントの咆哮はやがて絶叫に変わり、巨体は崩れ落ちて黒い霧となって消えた。
狩人の晩餐
残されたのは、光を帯びる“魂核”と、肉片のように見える巨大な組織。
東出は焚き火を起こし、その肉を豪快に焼き上げる。
脂は青白い炎をあげ、香りは奇妙に芳ばしい。
タバコを吹かし、酒を一口。
そして肉を頬張り、しばし沈黙――。
「……うまい!」
異形ですら、彼の肴へと変わる。
深淵界での最初の大勝利は、焚き火と煙と共に刻まれた。




