第34話:深淵の供物
神への献立
東出昌大は焚き火の前に、異形素材で作り上げた料理を慎重に並べた。
黒晶のスープ、内臓のソテー、半透明の肉片の香草焼き。
奇怪な見た目に反して、香りは芳醇で、どれも焚き火の熱に誘われるように湯気を立てている。
彼は酒を一口煽り、タバコの煙を吐き出すと、供物を祭壇に見立てた石の上へ置いた。
「……さて、神サマ。
俺がここまで来た証の一皿だ。食ってみろよ」
神の声
次の瞬間、料理が光に包まれ、音もなく消えた。
深淵界の赤黒い空に、低く笑う声が響き渡る。
『フハハ……異形を“食”へと昇華するか。
まさか、我をも唸らせる日が来ようとはな』
神の声音は愉快そうであり、どこか驚きに満ちていた。
賞賛と報酬
『汝は狩るだけでなく、恐怖を“旨味”へ変える。
まさに異世界に置いてきた価値がある』
光が降り注ぎ、東出の前に新たな道具が現れた。
「深淵の調理炉」――炎や水流を自在に操れる調理器具。
それは武器にもなり、台所にもなる万能の神器だった。
東出は煙をくゆらせながら、その黒光りする調理炉を見つめる。
「……ますます凝った肴が作れそうだな」
神の期待
『さらなる深淵の獲物を狩り、我を楽しませよ。
汝が“最後の晩餐”に供する料理を――我は心待ちにしている』
声が消えると、深淵界は再び不気味な静けさを取り戻した。
東出は酒をあおり、笑みを浮かべる。
「最後の晩餐、ねぇ……。
そいつは俺の腹が決めることだ」
焚き火がはぜ、タバコの煙が赤黒い空へと溶けていった。




