第31話:深淵界 ― 異質なる大地
混沌の大地
東出が足を踏み入れた深淵界は、これまでの山や海、森の景色とはまったく異なる異質の光景だった。
•地面は岩でも土でもなく、巨大な脈のように脈動する黒い繊維質。
踏みしめるたびにぬめりを含んだ音が響く。
•空には、赤黒い光球が浮かび、常に夕焼けとも血の色ともつかぬ明かりを放つ。
•地平線は存在せず、上下左右の境界が曖昧で、遠くでは海のような波が空にまで逆流している。
まさに「世界の裏側」を歩いているようだった。
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狩人の視点
東出は煙草をくわえながら、その異様な地形を冷静に観察する。
「……川かと思ったら空へ流れてやがる。魚でも泳いでんのか?」
冗談半分に呟くが、その目は真剣だ。
狩人として生き抜いてきた勘が告げる。
この世界では、大地も、風も、すべてが“敵”になり得ると。
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環境の罠
さらに歩を進めると、森のように絡み合った「逆さ樹」が広がっていた。
根が天を覆い、枝葉は地中に垂れ下がり、滴る液体が小川となって足元を流れる。
その滴を少し触ると――
じゅっ、と煙をあげて狩猟道具の刃先が焦げた。
「酸か……。水の代わりがこれじゃ、飲み水の確保も一苦労だな」
火の焚き場所すら容易には見つからない。
だが、異世界の神が「試練」と呼ぶ以上、この環境もまた狩るべき相手なのだ。
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闇に潜むもの
東出が立ち止まる。
どこからか、ぬるりと這う音。
赤黒い光に照らされ、影のような生物が地面の脈動と同化するように蠢いていた。
まだ襲ってはこない。
まるで「様子をうかがう狩人」がもう一人いるかのようだった。
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東出の決意
腰を下ろし、携帯酒を一口。
そのままタバコをくゆらせ、ぽつりとつぶやいた。
「ここで生き抜けってか……。面白ぇ。
じゃあまずは、この世界の“獲物”を一匹狩って、
焚き火で旨いもん作ってやるか」
深淵界でも――彼の流儀は変わらない。
狩り、料理し、そして“うまい”と笑う。




