序章:異世界の果てに、東出置いてきた
山の夜明け前。
薪をくべ、焚き火の火がぱちぱちと跳ねる。
東出昌大は、昨日の残りのおじやを鉄鍋で温めながら、煙草をくゆらせていた。
冷たい空気と立ちのぼる白い煙が、どこか心地よい。
「…さて、今日は山の奥の沢筋でも行ってみるか」
そう呟いた瞬間、世界が音を失った。
炎も、煙も、朝の冷気さえも静止する。
目の前に現れたのは、飄々とした笑みを浮かべる“異世界の神”だった。
「お前、面白いな。命に向き合い、獲物を捌き、火を囲み、人と笑う。その生き方…別の世界でも見てみたくなった」
「は?」と東出が問い返す間もなく、神は片手をひらりと振る。
瞬間、全身を包む眩い光。
身体が宙に浮き、遠く、遠く、見たこともない地平の果てへと引き寄せられていく。
「だが、鬼じゃない。お前には異世界でも生きられるだけの力を授けてやろう」
神の声が響く。
それはまるで通販番組のように、妙に具体的な能力説明だった。
•モンスターを単独で狩れる身体能力と感覚の強化
•異世界の魔法
•狩った素材を買い取る異世界通販システム
•調味料・道具を揃えられる購買機能
•弓・槍・包丁などに変形する万能狩猟道具
そして最後に、悪戯っぽい笑み。
「さぁ…異世界の果てで、俺を楽しませてくれ」
光が弾け、世界が再び動き出した時――
東出昌大は、見知らぬ空の下、見渡す限り荒野の果てに立っていた。
「……いや、マジで置いていったな」
焚き火も鍋も、煙草の火種もない。
あるのは万能狩猟道具と、新たな匂いが混じる風。
東出は深く息を吸い、口元に笑みを浮かべた。
「ま、獲物を探すか」
こうして、異世界ジビエ生活が幕を開けた――。