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#1 “円卓”-第三席-

拙い文章ではありますが、自信作ですので見てくださると幸いです

全身に魔道具を身につけたまま、扉の前で電池が切れたように倒れていたセルティ=ユーグレッドは、不意に響いた大きな声で目を覚ました。


「セルティー! 体中に傷があるよ!? このままじゃ死んじゃうんじゃないのかい? 僕のごはん作る前に!」


 その声に、セルティは鈍く反応する。身体が鉛のように重い。目を開けると、そこには窓から差し込む光に照らされ、後光でも差しているかのように神々しく輝く白猫の姿があった。


「……ああ、ごめんねレギナ。返り血を拭かずに寝ちゃったみたい」


 どうやら仕事続きで限界だったらしい。魔道具を身にまとったまま、玄関先で眠ってしまっていた。自分でもどこまで疲れているのか分からなくなる。そんな生活に、セルティはげんなりとしたため息をつく。


 魔道具を外し始めると、ついさっきまで騎士のように引き締まって見えた体躯は、あっという間に幼さの残る少女の姿に戻ってしまった。


「魔道具にも血がべったり……すぐ洗わなきゃ」


 乾いた血は簡単には落ちない。面倒な作業が待っていると思うと、ため息のひとつもつきたくなる。


 と、そのとき。白猫のレギナがセルティのそばに歩み寄って、一言。


「……くさい」


「え!? そんなに!?」


 この白猫レギナは、セルティの『使い魔』のような存在だ。白猫らしく綺麗好きで、血なまぐさい彼女を見ては眉をひそめている(猫に眉があればの話だが)。


「もう! 分かりましたよ、お風呂入ってきますから!」


 ぷんすか言いながらセルティがバスルームに向かおうとしたそのとき——


「お風呂入ったら、ご飯作ってくださいね! もうお昼時なのに何も食べてないから、お腹ペコペコです!」


「えっ!? もうお昼!? そんな……今日は……!」


 慌てて部屋の片付けを始めたセルティ。その様子を見て、レギナは(なんだ?)と小さく首を傾げた。


 そんなとき、コンコン、と扉がノックされた。


「セルティ、いますか?」


 ドアがゆっくり開く。


「おや、開いてましたか。不用心ですね」


 静かに現れたのは、白髪に透き通るような蒼眼を持つ長身の男。どこか気品を纏いながらも、冷ややかな風を背負っている。


「あ……アンブラシアさん。おはようございます……」


「こんにちは、ですよ。もしかして、また不摂生ですか?」


 その言葉に、セルティの肩がピクリと震える。


「さて、セルティさん。今日、私が訪ねることはご存じでしたよね? この部屋の惨状を見る限り、まったく準備していないようですが……?」


「あ、あー……それは、その……仕事疲れで、つい……」


「なるほどなるほど。私が来ると知っていながら、返り血を浴びたまま玄関で眠っていたと。そういうことですね?」


 じわじわと詰め寄ってくるアンブラシア。彼の口調は穏やかだが、内容はかなり容赦がない。セルティの視線は泳ぎ、壁や床を彷徨った挙げ句、ついにはレギナの方を見て助けを求める——。


 そのとき。


 ぐうぅぅぅ……。


 レギナのお腹が、間の悪いタイミングで音を立てた。


(助かったぁ……!)


 セルティは内心、涙が出るほど感謝した。食いしん坊な使い魔で本当によかった。


「あ、あの、アンブラシアさん。うちの子、お腹が減ってしまったようで……先にご飯を作ってもいいですか?」


「ええ、構いませんよ」


 返事こそ柔らかだが、その瞳にはまだ諦めていない光が宿っていた。


 セルティは食事を用意し、三人(?)で簡単な昼食を囲む。レギナがモグモグと満足そうに食べる姿を横目に、アンブラシアはついに本題へと入った。


ご飯をつつきながら、アンブラシアはようやく話を切り出した。


「さて、セルティさん。本題ですが——」


 その言葉に、セルティは胃のあたりがキュッと締めつけられるのを感じた。アンブラシアがこうして家を訪れる時というのは、決まってろくでもない話を持ってきたときに限られている。


「まずは、先日の任務……お疲れ様でした」


「ええ。返り血はちょっと汚かったですけどね〜……」


 軽く茶化すように返してみるが、彼の表情は微塵も緩まない。


「では、本題に入りましょうか。セルティさん。最近、あなたの任務遂行ぶりには目を見張るものがあります。そこで——次回から、あなたにはより重要な任務に就いてもらいます」


「は、はい……身に余る光栄です。それで、その任務とは……?」


「あなたは確か、まだ十四歳でしたね?」


「ええ、今年で十五になりますが……」


 ……嫌な予感が、背筋を這い上がってくる。


 レギナの方にちらりと視線を送る。助け舟を期待していたが、当の本人(猫)はご飯を食べ終え、すでにぐっすり寝息を立てていた。


(……この役立たずぅ! 今度ご飯抜き決定だから!)


 内心で毒づきながらも、セルティは観念したようにアンブラシアの方へ向き直る。


「セルティさん。次の任務は、貴族たちが通う聖都学園への潜入です」


「——はい?」


「目的は二つ。ひとつは、現生徒会副会長である第二王子殿下の護衛。そしてもうひとつは、王族の命を狙う勢力の特定と排除です。第二王子殿下は、王位継承権第1位の御方ですから、殿下の護衛は必須となります」


(いやいやいや……急に任務のレベル上がりすぎじゃない!?)


 心の中で叫ぶセルティだが、目の前のアンブラシアは微動だにせず、むしろ口角をわずかに吊り上げていた。あれは間違いなく、彼なりの“確信犯スマイル”である。


「まあ、あなたほどの人なら問題ないでしょう。なにせ“円卓”の第三席、セルティ=ユーグレッド殿ですからね」


 その言葉とともに、アンブラシアの瞳が鋭く光った。


「あ、ああ……はひ……」


 セルティは目に涙を浮かべながら、小さく頷く。こうなったら、もう逆らえない。


 満足げに微笑んだアンブラシアは、すっと立ち上がる。


「それでは、明日の朝には馬車が迎えに来ます。荷物の準備をしておいてくださいね。では、良き学園生活を」


 そう言い残し、彼はドアを閉めて去っていった。


「……はあぁ……」


 セルティは大きなため息をつき、全身の力を抜くように座り込んだ。


「なんだ、やっと帰ったんですかあの人。あの人、なんか雰囲気が怖くて好きくないです!」


「それは……たしかに」


 セルティは苦笑しながら、天井を見上げる。


(円卓、かあ……)


 


 ──“円卓”。それは、今から百二十年前の戦争にその名を轟かせた、十二人の大魔法使いたちに与えられた称号。


 当時、全世界を巻き込む魔族との戦争が勃発していた。魔族の中には一人で戦場をひっくり返すほどの怪物も存在し、“四天王”と呼ばれた彼らは人類にとって絶望そのものだった。


 だが、そこに現れたのが十二人の英雄。


 彼らは桁外れの魔力と知恵で戦局を覆し、人類に勝利をもたらした。


 その功績を称え、人々は彼らをこう呼んだ。


 “強大な力を持つ十二人の救世主”——円卓。


 


 時を経た今でも、その称号は残されている。


 選ばれし者だけが、円卓の一席に名を連ねる。


 そして、セルティ=ユーグレッドはその第三席——


 だが同時に、彼女にはもうひとつの異名があった。


 


 『魔法が使えない魔法使い』


 


 魔法を扱えずとも、セルティは最前線を駆ける戦士であり、最強格に数えられる存在。


 その名を誰もが知り、誰もが畏れる少女。


 ——そんな彼女の、波乱に満ちた任務録が、いま静かに幕を開ける。


見て下さりありがとうございます

これからも

セルティと白猫レギナの数奇なる物語を見守ってくれればありがたいです

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