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夢中の館  作者: 秋絽
35/36

35:悪夢にさようなら!おはよう世界‼

―ピリリリリリリリリリ…


「ん………は‼」


 私は目が覚めて、勢いよく上体を起こした。


「ここは…」


 辺りを見ると、私の知っている天井、私の知っている壁、机、ベッド。そして巨乳。

 どうやら私の部屋にいて、私の隣には妹がいるらしい。


「お、起きた!」

「へ?」


 妹は、ハッ。と驚いた顔でそう言うと、部屋から飛び出してどこかに行ってしまった。


「お父さん! お母さ~ん! お姉ちゃん起きたよ~~~‼」

「へ?「本当⁉」」


 なにやら下の方から驚きの声が聞こえてきた。


「フフッ…。相変わらず………せわしないなぁ………!」


 私は隣でずっと鳴る目覚まし時計のベルを止める。

 止めるついでに時計を見ると、時計の針は七時二十分を指していた。


―ダダダダダ!


 下の方から階段で上がってくる音が聞こえてくる。


「お母さん心配したんだよ~香…」

「そうだぞ…父さんもだぞ…」


 お父さんとお母さんは私の部屋を覗いて、私を確認するや否や安堵の息を漏らした。

 安心する両親を尻目に、妹が部屋の中に入ってくる。妹に続いて両親も私の部屋に入ってくる。


「ちょっと、なんでお姉ちゃんが泣いてるの…」

「ごめん…ちょっと怖かったこと思い出して…………」


 温かい雰囲気に当てられて、あの館での出来事を思い出して泣いてしまった。


「ん!」

「なに……どおじだの………」


 私の妹が、私のベッドに乗ってきて、両手を突き出してきた。


「怖かったんでしょ…!今日は特別に、あたしの胸を貸してあげる」


 あぁ…だめだ。優しいな…私お姉ちゃんなのに…泣く姿……見せちゃダメなのに…


「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!怖゛か゛っ゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お」


 私の中にある、この行き場のない感情を我慢できなくて…妹の胸に飛びついて泣いた。

 泣いて泣いて……泣きまくった。


「もう、一日中ずっと寝てて…死んじゃったのかと思ったんだからね…」


 私の泣く姿に感化されたのか、お母さんの声も震えていた。


「よしよし…怖かったね」

「今日の昼までに起きなかったら、病院に運ぼうと思ってたんだから…」

「良かった……起きて………本当に……!」



「…えさん………お姉さん!」


 明里は目を覚ました。


「どこ?ここ」


 視界に映っているのは、白い天井。館の天井ではない、知らない天井だった。


―ガシャン


 近くから何か金属物を落とした音が聞こえた。


「冬き……先生!冬樹さんが起きました!」


 そう言って、白いタイトな服を着た若い女の人がどこかに行った。


「明里…出られたの…!」


 身の回りには、清潔感のある壁と、館にはなかった床頭台があった。

 館とは違うものが沢山あって、脱出できた実感が遅れてくる。


「夢じゃ…無い?」


 ぼおっとする意識の中で上体を起こして、自分の頬をつねる。


「いっっった!」


 強くつねりすぎたのか、ほっぺたがジンジン痛む。


「ほ、本当か⁉」

「はい!長かったですが…ついに起きられました!」


 何やら部屋の外から、男の人の声と、さっき部屋を出て行った若い女の人の声が聞こえてきた。

 その二人は駆け足で明里のいる部屋に入ってくる。


「本当だ、信じられん…。と、とりあえず冬樹さんの両親に連絡を」

「は、はい!」


 若い女の人は、部屋の出入り口まで移動すると、ポケットから長方形のモノを取り出して、それを巧みに操って耳に当てた。あれがお姉さんの言っていた『スマホ』というモノだろうか。

 白衣に身を包んだ男の人は、信じられん。ともう一度行って、明里のいるベッドの近くの椅子に座る。男の人が咳払い一つして。


「冬樹さん」

「はい」

「自分のお名前はわかるかな?」

「明里だよ」

「よし。どこか変なところは無いかな?腕が痛いとか、頭が痛いとか」

「ううん。別に痛いところは無いよ。変なところも」


(どうしたんだろ?そんなこと聞いて……霊媒師かな?あっ、でもお兄さんが、診察するのは、普通お医者さんって言ってた)


「ここ、どこか分かる?」

「…いや、分かんない」

「ここは、病院ってところだよ」


 病院…その場所を聞いても、あんまりしっくり来なかった。

 館から脱出できても、明里の記憶は戻らない。それが分かって胸がちょっと苦しくなる。


「今、何年か分かる?」

「……分かんない…」

「そうか……今日は20××年1月……冬樹さんが眠ってから1年半くらいになる」

「そんなに…」

「そんなに気にしないで。いつも通りならお昼から冬樹さんのご両親が来てくださるはずだから。元気な姿、見せてあげよう」


 男の人の声色は優しくて、自然と安心できる。


「う、うん」


 優しい声色のまま、男の人は続ける。


「それじゃ、悪いけど…おじさん、この後用事あるからちょっと席外すね。ご両親が来てくださる前にまた戻ってくるから。それまでは今あっちで電話している看護師さんが冬樹さんをお世話してくれるからね」

「わかった」


 お医者さんはそう言って、部屋の出入り口に向かって行く。


「先生!明里さんのご両親、すぐに向かってくるそうです!」

「おぉ!」


 出入口に向かって行ったはずの先生と、看護師さんがまた明里の方に戻ってきた。

 お医者さんはしゃがんで、明里の目線の高さに合わせる。


「ご両親すぐに来てくださるんだって!冬樹さんのところからちょっと遠いから二時間くらいかかるけど、それまでの辛抱だよ!」

「うん!」

「良かったね」


 お医者さんや看護師さんがとても嬉しそうな声で、つられて明里も嬉しくなる。


「それじゃぁ、先生は用事があるから、一旦失礼するね」


 そう言って、お医者さんは部屋から出て行った。



「体は何ともない?」


 沢山泣いた。多分、人生で一番。


「うん。大丈夫だよ…!」


 私は妹の胸から離れて、涙を拭う。


「ほら、この通り」


 両親に安心してもらいたくて、元気に腕を動かす。


「ならよかったわ~。ほら、朝ごはん用意してるから。みんなで食べましょ♪」

「目を覚ましてよかった…」

「お姉ちゃんに今死んでもらっても困っちゃうんだから」


 皆、思い思いのことを言いながら一階のリビングに向かう。


「先食べてて~!」


 私は遅れて行くことにした。


「駄目だよ。家族一緒に食べるの」


 そう言う妹に腕を引っ張られて、私も一緒に朝ごはんを食べることになった。


「「「「いただきます!」」」」

「そうだ、テレビつけて良い?」

「良いわよ~」


 一応お母さんに聞いてからリモコンの電源ボタンを押してテレビをつける。


〈こちらは、今話題沸騰中の人気店。〇〇〇さんです〉


 テレビに映し出される番組は、ニュース番組なのかバラエティ番組なのか分からない、ずいぶんとご機嫌な番組だった。


「このお店のスイーツ、とても美味しそうね~」

「もうアイスクリームが器からはみ出してるじゃん!」


 テレビ番組にツッコんだり、共感したりしながらご機嫌な朝ごはんを食べた。


「香~、十時くらいになったら一応病院に行きましょ~」

「りょ~かい」


 お母さんがお皿を洗っている中、私はテレビの前のソファに座っていた。

 時計が指し示す時間は、八時二十分。もうすぐで気になっているアニメが始まるのだ。

 それは、日曜日の朝に放送されるアニメで、今日がそのアニメの記念すべき最終回。

 見逃すわけには行かなかった。


「あなた、ずいぶんと離れてたのに好きね~」

「いや~懐かしくて…偶然一話がやってるときに見てみたら面白くって」

「そうなのね~」



「明里さん、お父さんお母さんが来るまで何しよっか」

「わかんない…かな」


 明里は目が覚めたばっかりで、何をすればよいのか分からなかった。


「そうだよね、目が覚めたばかりだから分かんないよね」


 多分、明里を楽しませてくれるために聞いてくれたのに…何も思いつかなくて申し訳ない。


「あっとと、大丈夫!落ち込まなくても良いよ~」

「ごめんなさい」

「だ~か~ら~大丈夫だって」


 明里、看護師さんを困らせてる…。

 看護師さんは優しい声で話しかけてくれるけれど、明里の気分は上がらないままだった。


「私、良い考えがあるの!」


 看護師さんがそう言って、床頭台にあるテレビをつけてくれた。


「時間的にもちょうど良いし、何よりも!私も小さいころに見ていたアニメシリーズだからね」

「アニメ?」


 アニメって…なんだろう。

 お姉さんやお兄さんからも話されたことのないモノに、胸が熱くなる。


「アニメって言うのはね、登場人物の苦悩や成長を見届けるものだよ♪まぁ、ドラマとか他のモノにも言えるけどね」

「そうなんだ」


 テレビに表示される時間は八時二十分。看護師さん曰く、あと十分で始まるらしい。


「さぁ、もう少しで始まるよ」


 テレビの画面をなんとなく見ていると、アニメとやらが始まった。


「絵が動いてる」


 華々しい歌とともに絵が動いていた。看護師さん曰く、オープニングと言うらしい。

 オープニングが終わって、画面に映し出されたのは暗い世界だった。

 闇で覆われていて、紫の霧が漂っている。

 画面に映っている景色が、どこか館の悪魔に似ていた。


「あぁっ……あああ…………」


 明里の喉から臼ですり潰されるようなかすれた声が出る。


「大丈夫⁈ ちょっと、怖いよね…別の番組にしよっか」


 看護師さんが心配して、リモコンを持って番組を変えようとする。


「いや…大丈夫です。明里、見ます。見たいです」


 看護師さんの手を明里の手で、テレビの前からずらした。


「良いの?」

「うん」


 画面の中にいる女の子たちは、すっごく悪そうな敵相手を前に、倒れていた。

 全員がボロボロで、立ち上がろうとするその姿はぎこちなくて…負けそうだった。


〈お前たちは勝てない!私のシャドウダークエネルギーには無力だ!〉


「看護師さんこれどうなるの…?」

「見てて、彼女たちは決して悪には屈しない」


 画面を見つめる看護師さんの目は真剣で、負けそうな彼女たちを信じていた。


〈さて…うっとうしい奴らは片付けた〉


 ボスであろう、大きくて邪悪の塊みたいな敵は振り返って、大きな水晶玉に両手を掲げる。


〈今こそ! ミライランドを私の手に!〉

〈そうはさせない!〉

〈何⁉まだ立ち上がるのか!〉


 倒れている女の子たちの一人が、立ち上がってそう言っていた。立ち上がる姿は見ていられなくて、指でちょっと押しただけでまた倒れそうなほどに弱っていた。


〈ヒーローとは! たとえ相手が自分よりも強くても!何度でも立ち上がって!最後には勝つ人のことです!〉


 そう言いながら、一人の少女は懐からアイテムを取り出す。


〈変身!〉


 絶望の中で、きらりと輝く希望を感じさせる声でもって、彼女は変身する。

 暗い世界とは対をなすような、キラりと光る空間の中で、可愛い衣装を身にまとっていく少女。

 傷だらけの身体で、それでも諦めずに邪悪な存在に立ち向かっていく姿が映った。

苦戦だった。敵に何度も吹き飛ばされていた。

 だけど、そんな目にあっても何度も立ち上がる少女が、香お姉さんと重なって見えた。明里の視界は段々と潤んでいって、頑張る少女に勝ってほしいと願っていた。


「頑張れ…!」

「明里さん…! そうだね、頑張れー!」


 何度も何度も、明里は頑張る少女・少女たちを応援した。

 画面の少女たちは、明里たちの応援に応えるように、段々と敵を押し始めていった。


〈これで決める! みんな、行くよ‼〉


 彼女たち———五人のヒーローは、必殺技を使って


〈私たちが……守るんだあああああああああああああああああああああああああ‼〉


 見事に、邪悪な敵に勝った。

 画面の世界は、暗雲に包まれた空からお日様の光が差し込んできて、何の澱みもない満点の青空に変化した。


「どう? 不安な気持ちは無くなったかな?」

「…うん!」


 涙を拭いながら、元気よく答える。


「良かった~」


 看護師さんは、胸を手でなでおろして、心の底から安心しているようだった。


「それじゃぁ~」


 看護師さんはそう言って部屋の奥に消えていった。


「これ!サ~プラ~イズ!」


 部屋の奥から取り出したものは、今画面で戦っていた少女たちが持っていた変身アイテムだった。


「なんでこれが?」

「私が用意したモノじゃないんだけどね。明里さんのお母さんが、誕生日プレゼントとしてこの病室に置いていたものなんですよ」


 そう言って、誕生日プレゼントを受け取った。


「やった!」


 プレゼントを受け取ったとたんに、箱を開いて変身アイテムを手に取った。


「あら…これだけ喜んでくれるんなら親御さんに渡してもらえばよかったです…」

「親御さんが来たら、ありがとうって言うんですよ」

「お…や?」

「うん……。長いこと眠っていて記憶があやふやなのかな…」


 看護師さんが呟いて、床頭台の引き出しから本を取り出した。


「これが、明里さんの親御さんですよ~」


 本を開くと、大量の写真が丁寧に差し込まれていた。

 写真には、男の人と女の人。そして、赤ちゃん。ページを捲るたびにその赤ちゃんが成長した姿の写真があった。

 後ろの方のページを開いて、看護師さんが写真の人に指をさして説明してくれる。


「この人が明里さんのお父さん。この人がお母さん。そして、この人が明里さん」

「パパ…ママ……」


 明里の頬に、温かいものが伝って行った。涙だった。


「もう…泣き虫さんですね。その涙は、パパとママに出会ったときに取っておきなさい」


 そう言って、看護師さんが白くて綺麗なハンカチで明里の涙を拭ってくれる。

 それでも涙は止まらなくて……涙が流れるたびに、今までの思い出があふれてくる。


 お兄さんやお姉さんはもちろん…パパやママと過ごした日々の記憶があふれて止まらなかった。

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