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夢中の館  作者: 秋絽
29/33

29:滴り落ちる現在

 光が私の目を覆った。今まで感じていた幸せな、夢を見ているような気分が消え去った。目の前には、視界を覆い尽くすほどの紫色の柔らかそうな皮肌があった。部屋に入ったときにあった紫の光や黒いモヤは無いが、あまりにも不気味で背筋が凍る。

 上から押しつぶされてしまいそうなほどの威圧が私を襲う。

 恐る恐る見上げる。怒られている子どもが、親の顔を見るように徐々に視線を上にもっていく。

 しかしどうだろうか、私の目を奪ったのは、威圧しているものの正体とかどうでもよくなるほどの綺麗な景色だった。キラキラと光る粒が一面にちりばめられ、星空を思わせるほどにきれいな天井に私の心は奪われた。


(きれい・・・)


 だけれど、天井にある光には見覚えがあるように感じた。白く輝く、神々しい光。私が魔法で光らせたときの光とも、ランプの光とも違う、小さく弱くても目を覆いたくなるほどの眩しい光。倉庫で出会った異様な化け物を真っ二つにした光と似ていた。


(・・・明里ちゃん!)


 そうだ、明里ちゃんはどこ!?

 記憶を掘り返してみても、今いる部屋に入って紫の光と黒いモヤを見た後の記憶が全くなかった。


(なんか、なんか思い出せないの!・・・部屋に入ってからの記憶がない)


 これ以上思い出そうとしてもどうしようもなさそうで、近くにいないか体全体を使って探し始める。

 後ろにいないか確認すると、最初に見えたのは扉のある壁に刻まれたうっすらと光り輝く直線。他の壁を見てみても輝く直線が刻まれていた。

 私がどうかしている間に何があったのか容易に想像できてしまった。壁に刻まれた直線は明里ちゃんのシュナイデンによるもので、化け物と戦ったことを示していた。

 嫌な予感しかしなかった。なおさら早く見つけなければいけない、一体どこにいるのと心配で思考がいっぱいになった。

 壁際を見ても姿は無く、自然と視線は下に向いていく。

 焦りからか、考えが回らず思いついたところを手当たり次第に見て探していった。


(明里ちゃん、明里ちゃん・・・!明里ちゃん!)


 灯台下暗しという言葉がぴったり当てはまるだろう。最初に見た扉のある壁の方向の私の足元に、明里ちゃんはいた。彼岸花を連想させる赤いあとがところどころと地面に咲いており、明里ちゃんはまるで眠り姫のように、彼岸花のようなあとに囲まれるようにして地面に横たわっていた。

 最悪のことが脳裏をよぎり、そばに近づいて膝から崩れ落ちる。


「明里ちゃん!明里ちゃん!明里ちゃん!!!!!」


 呼びかけながら明里ちゃんの顔を見てみると、目が少しだけ開いていた。

 まだ死んでいない。生きてる・・・!


「明里ちゃん!明里ちゃん!起きてる!?」


 一生懸命呼びかけるが、声が届いていないのか反応はなかった。


「!?」


 呼びかけてから少しして、何かに満足したように口角をあげたと思ったらゆっくりと瞼を閉じていった。


「だめ・・・!お願い死なないで!」


(そうだ怪我。赤いあとが周りにあるんだし怪我しているかもしれない・・・)


 怪我がないか、ぐちゃぐちゃに濡れた目を拭いながら探す。くまなく探していると、赤いあとの中でも一段と大きい赤が右ふくらはぎのそばと右手首の近くにあった。

 傷はそこか?

 怪しんでいる余裕はなかった。傷があったら早く処置しないといけない状況なのだ。

 明里ちゃんの右ふくらはぎのすぐそばに腰を下ろす。

 右ふくらはぎをゆっくり優しく、少しだけ持ち上げた。

 覗き込むようにして顔を近づけて傷を確認する。

 見えた傷は1か所だけだった。しかし、傷はふくらはぎを横断しており、決して大丈夫とは思えない大きな傷で、私の胸に針で何度も突き刺さすような痛々しさを感じた。傷の深さはじわじわと出てくる血でよくわからなかった。とにかく早く止血した方がよさそうだった。

 明里ちゃんのふくらはぎをゆっくりと下ろす。

 急いで着ていた白のブラウスを脱いで右ふくらはぎの傷の下にもっていった。傷口が閉じるように、出血が止まるようにブラウス越しに力いっぱい押さえた。

 白かったブラウスがじわじわと赤く染まっていく。明里ちゃんに流れていた血液の温度を直接感じられる。ブラウスを赤く染める血は温かく、明里ちゃんがまだ生きていることを直接感じることができた。


(お願い止まって・・・!)


 押さえながらも出血しているか時折ブラウスをめくって確認する。手首の方も確認するが、手首は血がだらだらと出ており、私をより焦らせた。


(止血する順番間違った・・・?明里ちゃん、死んjだめだだめだ。私が諦めちゃダメだ。助けるしかないんだ)


 ブラウスの下に着ていたTシャツを工夫して脱ぐ。私の上半身はブラジャーをつけているのみになった。脱いだTシャツを丸めて明里ちゃんの出血している右腕の肘と手首の間に押し当てて力強く押す。

 左手で右手首をTシャツで押さえ、右手で右ふくらはぎを力いっぱい押さえている状態になった。

 そうしてしばらくの間止血していると、ふくらはぎの方が圧迫をやめても血が出てこなくなっていた。


(止まっ・・・た)


 な、なんとか止まった。

 だがまだ安心しているような状況ではなかった。

 手首の傷はだんだん止まってきているのだが、まだ出血が止まらない。


(こっちの方も止まって!)


 止血し終わった右ふくらはぎを静かに地面において、右手首の方に集中する。

 右手の止血をしている間Tシャツも白色から段々と赤色に染まっていく。

 明里ちゃんを傷つけたやつには心底腹が立つ。

 険田さんと突然別れることになって、劣悪な牢屋の環境にさらされて、この子はこれから幸せにならなくちゃいけないんだ。少なくともこんなに痛めつけられるいわれはない。

 その時だった。明里ちゃんの右手首を止血している途中、薄紫の光がさしてきた。


「へ?何!?」


 見上げると、獏にも似た悪魔から出ている薄紫の光で、星空のようだった壁や天井が透き通るような紫色に塗り替えられていた。今まで呼吸しやすかったまっさらな空気が、重く鼻を通るのもままならないほどに澱んだ空気になった。


(も、もしかして結構やばい感じ?)


 逃げろ、本当にまずい、何か来ると私の脳から考えがあふれるように出てくる。


(逃げるしかない?でも止血が終わってない)


 今悪魔から何か攻撃が来たら二人とも死んでしまう。

 明里ちゃんを連れて移動できるようにしなければならなかった。

 包帯や絆創膏を持っていたら嬉しいけれど、今の私たちにそんな豪華なものは無かった。


(包帯、絆創膏。巻いて、止血・・・あぁもうわかんない!)


 こんな緊迫した状況では考えが回らなかった。

 明里ちゃんの右腕の傷口をくしゃくしゃのTシャツ越しから右手で押さえたまま、ゆっくりとお姫様抱っこする。

 出口まで逃げれば何とかなると根拠のないことを信じて、扉の方を向いて走り出す。

 部屋が透き通った紫色に変わって不穏な雰囲気を醸し出していたがしばらくの間は何もされなかった。

 走って出口を目指していると出口まで15mくらいのところまで来ていた。

 ここまで来たらもう少し、もう少しで悪魔のいる忌々しい部屋から出ることができる。

 速さを変えずに走っていると、後ろから細長いものが高速で伸びて出口をふさいだ。


(ふさがれた!?)


 どうやってふさいだ?あんな細長いやつあった・・・?

 進みながら後ろを見ると、獏に似た悪魔から細長い触手が何本も伸びていた。


(何なのあいつ・・・!)


 悪魔がゲジゲジや毛虫に見えて気持ち悪さを感じていると、私に向かって新しい触手が高速で伸びてきた。

 ヒッ・・・!

 あの触手にまともに当たったらただじゃすまない。本当にまずいものが来たと脳が警告を連打していた。

 私は必死で身をよじった。


「いぃっっっっっっっった!」


 身をよじったことで何とか直撃は避けられた。だが、背負っていたリュックと避けきれなかったのか私の右わき腹を2本の触手がかすめていった。

 強くたたかれたような痛みと肌につまようじが刺さったようなジンジンと広がる痛みが私を襲った。

 だけど、そんな痛みで走れなくなる私ではなかった。明里ちゃんに比べたら全然軽傷。

 出口に向かって走っていると、気がつけば出口とは目と鼻の先だった。

 あとは出口をふさいでいる触手をどかすだけ。

 明里ちゃんの右手に握られていた箸を、私も握って箸先を触手に向ける。


「シュナイデン!!!」


 そう唱えると箸の先から一つの風が吹いた。

 直接は見えないが、鋭利な刃となった風が出口の触手に向かって飛んでいき、ふさいでいた触手をめちゃくちゃに荒らした。

 触手で見えなかった向こう側がはっきりと見えた。

 

「よし!」


 出口をふさぐものは何もない。

 壁に当たらないようにだけ気を付けて走り抜ける。

 出口を通り過ぎるとき、荒らされた触手の中から手の届く千切れそうなものを一つ千切って悪魔のいる部屋から出ていった。

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