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夢中の館  作者: 秋絽
28/34

28:やりきった後の星空

 やった!止まった!あとはお姉さんを悪魔から遠ざけるだけ。

 思い通りにいったからか、興奮して身体が程よく熱い。そして、真っ暗闇に思えた禍々しい部屋が、ただの管理されていない寂れた部屋のように感じられた。


「お姉さんごめん・・・、一旦逃げよう」


 お姉さんを魔法で持ち上げながら出口とびらへと向かう。少しでも早く出られるように魔法でお姉さんを扉の近くまで持っていきながら走る。お姉さんが正気に戻ってからまたここに来れば良い。

 一目散に部屋の出口とびらに向かっているとき、鼓膜どころか身体をも震えさせるほどの音が聞こえた。強風が身体を揺らし、たまらず立ち止まるしかなかった。寂れた部屋は再び黒い霧と怪しい紫の光によって塗り替えられた。


「なんなの、明里たちに何かひどいことするの」


 振り返って突然発生した大きな音と風の原因、眠る悪魔をにらつける。

 今は眠っているけど、さっきみたいに突然何をしてくるか分からない。


―ドドドド・・・


 遠くから足音がしてきた。音はあまり大きくないが、地震と勘違いするくらい大きな振動が足元から伝わってきた。まさかと部屋の扉の方を向く。


「今度はなんなの・・・!」


 数秒経ち、明里には嫌な予感しかしていなかった。床の振動が最初に伝わってきた時よりも数段強くなっているのだ。大多数の何かがこちらに迫ってきているのが分かる。

 もしかして、あのとき襲ってきたあいつらよりも多い?

 異様なグールを明里の魔法で真っ二つにして倉庫から逃げ出したときに来たグールの集団よりも強い振動、部屋の雰囲気も相まって鳥肌が立つ。もし明里たちに迫ってきているのがグールの集団で、この部屋の扉から気持ち悪いあいつらが大勢入ってきたら、一気に襲われたら、きっと泣いちゃう。ブッカビーンで持ち上げてるお姉さんはまだ元に戻ってなさそうだし、頼れる人がいない。

 香お姉さんを明里の側まで持ってくる。相変わらず血走った目で明里の後ろにいる悪魔を見ている。扉から少し距離を取る。


「早く元に戻ってよ。可愛いお顔が台無しだよ。それに・・・頑張っても褒めてくれないと辛いよ・・・」


 それでも今はやるしかないんだ。

 ”化け物は全員なぎ倒す”

 お姉さんに言ったことを胸に刻んで、足音が最大値に達している扉の向こう側の集団をなぎ倒そうと箸を持った手と身体を構える。

 視界の下隅したすみから暖かいものを感じた。


ーバアァン!!!


 扉から発された破裂音にも似た音は明里のいる部屋中に響いた。明里が構えた直後のことだった。

 開かれた扉から、足音の正体が見えた。正体はやはりというべきかグールの大群だった。グールが開かれた扉からゾロゾロと入り明里たちめがけて襲い掛かってくる。

 襲ってくる中には、今まで見たことのあるやせこけた人型のグールもいれば、直立二足歩行ではなく、人型なのだが犬みたいに四足歩行をしている、背中に鳥の羽に似た羽根が小さく生えているグールもいた。

 今までの明里なら見ただけで吐き気がする光景に、泣いて叫んでされるがままに襲われていただろうが、魔法があり、今はお姉さんがいる。守らなくてはならない人がいる。


「明里たちの近くに来ないで!」


 魔法を唱える。それは、初めて化け物を倒した魔法。


「シュナイデン!!!」


 箸から光が放たれた。倉庫で使ったときは無色の斬撃だったけれど、今回は光をまとっていた。

 放たれた光が化け物たち目掛けて切り抜けていった。扉のある部屋の壁には淡く輝く一筋の線ができていた。目の前の光景は霧散していくグールの姿があった。


「きゃっ・・・!」


 魔法を放って安心していた直後、明里の服が切り裂かれた。

 霧散していく大勢のグールの中に紛れて近づいていた奴らがいたからだ。

 服が切られた反動で床に背中が衝突する。


「当たってなかった・・・!?」


 倒れる最中、切り裂いた正体を見た。四足歩行のグールだった。

 床に倒れた明里は、急いで手を床につけて胴体だけでも起こした。


「・・・姿勢が低いから避けられた?」


 あたりを見ると、周りには4体のグールがいた。そのどれもが人の形をしているのだが四足歩行をしている。手足を地面についた姿勢のせいか、今まで出会ってきたグールよりも抜群に気持ち悪く思えた。明里の魔法避けたし。


ー・・・!!!


 魔法を避けられたことに悪態をついた直後、四足歩行のグール4体が襲いかかってきた。


「こっち来ないで!」


 叫びながら箸の先を一番近いグールに向ける。


「シュナイデン!」


 放出された斬撃はグールを真っ二つにして、後ろの壁に長い直線を刻んだ。

 続けざまに目に入ったグールに箸の先を合わせて放つ。


「・・・っ!!!」


 近いやつを見逃したのか。右腕にグールの爪が立った。

 いったい・・・!

 箸を握れず落としてしまう。

 痛みで立てられず地面に倒れ悶絶してしまう。


ースッ・・・スッ・・・


 痛みを鎮めようと右腕の手首あたりを左手で押さえていると、音がした。

 違和感のある音がした。明里に襲いかかってくるグール以外の、変な足音が。

 違和感のある方を何とかして見る。見た方向は黒い霧と透き通る紫の光がより一層濃いところ、悪魔が眠っている方向だった。

 視線の先には悪魔に向かっていく人影、元気なくよろめきながら、ゆっくりと歩いて進む香お姉さんが居た。


(・・・な、なんで進んで、、るの?あかりのまほう、は・・・?)


 腕が痛い、どのくらい血が出ているのか、どれだけ大きな怪我をしているのか、周りのグール達が襲いかかってきたらどうしようとか・・・先ほどまで渦巻いていた考えが、”お姉さんが歩いている”と言う事実を目の当たりにして、全て吹き飛んだ。今の明里にはとにかく止めなきゃという考えが支配していた。

 まだ無傷の足を地面につけ腰を上げる。右腕を押さえていた左手で地面に手をついて体を支え、地面にこすりついている頭を勢い任せに起こす。


ー・・・!!!


 前にいる香お姉さんに向かって目一杯手を伸ばす。だがその手は届かない。お姉さんが明里の手や腕よりも遠くにいるからだ。


(お姉さん待って、行かないで。・・・嫌な予感がするの。お姉さんが人じゃなくなるような、私の知っているお姉さんじゃなくなっちゃうような、そんな予感がするの・・・)


「あッ、くっ・・・」


 突然片膝をついてしまう。何が起こったのか理解が追い付かなかった。今わかるのは前に進めない、お姉さんに近づけなくなったということ。


(なんで急に動かないの・・・!)


 片足が動けばまた側に行けるのに・・・

 何度も動かそうとするが股関節にしか力が入らず、肝心の膝が動かない。

 何度も立とうとしているのに、足を引きずる結果に、頭に血が上る。苛立ちを抑えられないまま地面に膝をついている右足を睨みつける。

 しかし、異変は無いように見えた、膝は。

 赤い水滴が、近くの地面にあった。

 心なしかふくらはぎが熱く感じる。



 ゆっくりと、視線を下にもっていく。


「あっ・・・ああああああああ」


 そこにあったのは、血に濡れたふくらはぎだった。


「・・・痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


 ふくらはぎから、思い出したかのように明里を痛みが襲った。

 うつむいたまま目を固く閉じて涙を我慢するしかできなかった。


ー・・・!!!


 後ろからグールの声がした。動かないと今度こそ死ぬ。そう思えた。


「いやあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 叫びながら、痛みを我慢しながら、無傷の左足で力いっぱい地面をけって振り向いた。

 勢い任せに回ったせいか、バランスを崩して背中を地面に打ち付ける。背中から胸まで衝撃が伝わる。

 だけど、不幸中の幸いか飛び掛かってくる3体のグールがしっかりと見えた。


「シュナイデェぇぇえええン!!!」


 前みたいに倒れちゃわないように、体力を温存しておこうなんて考えられなかった。叫ぶしかなかった。何とかなって欲しいと目を閉じて腹から叫んだ。まだ死にねなかった。

 黒霧と紫の光で満たされた部屋が・・・一瞬、明里ちゃんから発せられた白くて優しく神々しい光で満たされた。瞼裏からでもはっきりとわかるきれいな光。

 少し時間が経ち、白い光が徐々に消えた。

 目を開けてみると、視界に映ったのは天井だった。けれど、見えている天井は先ほどまでの怪しさと悪意が煮詰まった真っ黒なものとは逆に、小さい光の粒子が散りばめられており、星空を思わせるような幻想的な光景が広がっていた。


(きれい・・・・あのきれいな光が残ったのかなぁ・・・)


 起き上がろうとしても体が言うことを聞かない。力が何も入らないや。

 不思議と恐怖は無かった、精一杯抵抗したからか、温かい部屋でのんびり過ごしているようなほのぼのした気分だった。


「・・・ん・・・ちゃん!」


 頭上から何か声らしきものが聞こえてくる。誰かを呼び掛けているような、叫んでいるような。

 でも、呼びかけてるってことは襲ってきた四足の化け物はやれたってことだよね。

 安堵からか、身体が疲れ切っているのか、瞼がゆっくりと落ちる。


(良かった・・・)


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