2:遭遇
何が起こっているのかわからないのであたりを見渡す。
・・・どこだ?ここ?
生まれて初めて見た部屋に困惑が隠せない。自分の部屋でも妹の部屋でも、ましてや病室でもない。
本棚があって、机があって・・・。誰かの部屋だろうか?書斎っていうやつだろうか?書斎ということにしておこう。
とりあえず立ち上がってあたりを見る。第一印象としてはどこか廃れていて廃墟っぽく感じた。部屋は埃っぽく、掃除されていない印象を受ける。
「ここは廃墟になった建物・・・なのかな?」
わからない。とりあえずこの建物から脱出して家に帰りたい。心の底からそう思った。家で寝ていたはずが目覚めたらこんな廃墟にいたら誰だってそう思うだろう。困惑を隠せずにあたふたしていると。
ーズサッ...ズサッ
足音がする。しかもだんだん音が大きくなっていく感じがする。この建物の人かな?まてよ・・・なんか近づいてきてないか?まずいまずい・・・!今建物の人に見つかったらまずい!不法侵入とか言われて私逮捕される!心臓がドキドキしてくる。
さすがに『突然ここにいたんですよ~アハハ』とか言い訳しても許されるはずがない・・・。ばれたくない、その一心で隠れられる場所を探す。体を隠せそうな場所はこの部屋には机くらいしかないか・・・?ばれるかもしれないが隠れないよりましだろう。やらない後悔よりもやる後悔!机の下に隠れる。
ーギィ・・・
扉が開いた音がした。ここを掃除しに来たんだろうか。注意深く、相手の位置がどこにいるか分かるように耳を澄ます。バレたときにとっさに逃げられるように。
隠れてから数秒は立っただろうか。脈拍もだんだん落ち着いてきた。・・・それにしても聞こえる足音は、建物の人とはあまり思えない、何か目的があるような足取りじゃない気がする。とりあえずやみくもに動いている音がする。
泥棒か何か悪い人が来たんだろうか。ここに目覚めて突然一人でいて怖かったが、泥棒とかに見つかって捕まったらと思うと冷や汗が出る。
ところで思ったことがある。なんでこんな廃墟みたいな建物に人が来るんだよ。いや...一周回って廃墟だからか!?・・・確かに廃墟の建物だったら誰も人がいなくて盗みやすいよな。うん。
だとしても来ないでよぉ!怖いよ!
・・・落ちつけ私。そう、深呼吸をするんだ。頭が落ち着く感じがする。そうして思考もクリアに・・・そこで気になってしまった。この部屋にいる人の正体に。正体を確認したところでこの状況が好転することはないしリスキーだ。だがそう考えるよりも先に、私は机から覗き込んでいた。
盗賊だったら嫌だなぁ・・・私やばいじゃn・・・
そこで私が見たのは・・・化け物だった。
人型なんだがどこかやせこけた裸体で、肌色は深い緑、目は確認できず耳が長い、口を開けたままの生物がいた。明らかにUMAの類の生物だ。
確認するんじゃなかった・・・!即座に机の下に戻ってうずくまる。
なんだなんだ!なんだ!あれ!・・・初めてあんな生物を見た。見た瞬間、おぞましいとかそういう訳ではなく、脳が『見たくない』とでも言うように私は目をそらし、隠れていた。例えるなら虫が見えたら反射的に逃げるみたいに。
化け物の姿がフラッシュバックして背筋が凍る。キモイ、ただひたすらにキモイ。今すぐにでも叫びだしたいが、叫ぶのを我慢して、怯えからか化け物が部屋から出ていくのを待つ。
早く出てってくれ・・・!頼む・・・。そう切実な願いをする。・・・まだあたりを探しているのだろうか。永遠にも感じる恐怖がだんだんと脳をむしばんでいく。
ーキィ・・・バタン
・・・いったのか。扉の音がした。扉を閉めただけかもしれない。まだ書斎の中に化け物がいるかもしれないので、また机から覗き込む。・・・一旦化け物の姿は見えなかった。
だが少しの空間しか見えていないのでまだ安心できない。
頼む!出て行っててくれ・・・!安心したいという感情が増すと同時に、いたらどうしようという不安がくる。恐る恐る立ち上がると。
・・・姿が見えない。
今まで胸に詰まっていた息が吐き出される。今まで呼吸を忘れていたからか、息が荒い。荒くなった息を整えて冷静になる。
どうやら化け物は書斎を出ていったらしい。
「行ったか...」
あの化け物はいったい何だったのか。ここは書斎なんだし何か情報があるかもしれない。人の部屋を探ることはしたくないが、あの化け物を見てしまった以上気にしてる場合じゃない。
とりあえず近くにあった机から探ってみる。机の上には・・・照明とペンしかない。引き出しを開けてみる。・・・何もない。残りの引き出しを開けてみたが、全て空だった。
・・・?、もう一度引き出しを開けてみる。・・・何もない!クソう!なんで引き出しにもなんもないんだ!何もない机を探っても仕方ないので、本棚の方を探ってみることにした。本棚には幸い本がちゃんとあったので期待できる。適当な本をとって読んでみる。
<侵入者の日記>
おい...目が覚めたら突然ここにいたんだが...一体どうなってるんだ。歩くたびに床がキシッって音が鳴るおんぼろな部屋にいる。
しかも、なんかカビ臭いしわけがわからん!せっかく今日は休みだというのに、なんで起きたらこんなところにいなきゃならないんだ!クソッ。仕方ない、どうやらここは建物の中みたいだしぃ?適当に玄関から出ればいいか!ガハハ。
そうと決まりゃ、さっさとこの部屋出て玄関探して、出て、休日を楽しむか!今いる部屋のドアを開けて外に出る。
おっ玄関っぽいところがあるやん!これで出られて、楽しい休日の始まりだ...ぜ。開かない。え?あっ鍵がかかってるのかぁ。どれどれ...鍵っぽいものは
・・・見つからない。なんで?おい!なんで開かないんだよぉ!ドアをたたいてもびくともしない。あ...ちょ!誰かに振り向かされた。ヒィ...なんだこの化け物。徐々に顔を近づけてくる。や、やられる...なんか口から霧が出てきた。恐怖で体が固まっている、だんだん意識が...遠のい...て...
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ここまでしか書かれていなかった。なんか可哀そうな陽気な人がいたな。侵入者の日記・・・この建物に侵入した人の末路を書いた日記だろうか?この本の”侵入者”がこの建物に侵入した人を指しているなら。
そうだとしたら、この建物の玄関は開かなくて、化け物に捕まると霧にやられて眠る?死ぬ?ことが分かった。捕まったらあの化け物の顔が近づいてくるのか・・・想像しただけで吐き気がしてきた。
ほかの本も読んでみると、大体目覚めたらここにいて、脱出するために窓から出ようとしたり玄関から出ようとしたらしいが、どの本も最終的には化け物に見つかって意識がなくなったような文がある。普通に出ることは出来ない、てことか。
さらに本を読んでいると他にもわかったことがあった、この建物には多くの部屋があって、玄関が広く館っぽい内装だと書いてあった。館とか普通聞いたら心が高まるはずだが、あの化け物がいると思うと高まる胸も高まらない。むしろ沈んでいく。
とりあえずこの部屋から新しい情報は無い...かな。部屋を出て化け物に遭遇するのは怖いが、ここで籠っていても脱出できる気がしないので部屋の外に出て探索する。