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貧乏神の涙、乙姫の微笑み ~鈍感な貧乏神に恋した乙姫の婉然たる悩み~  作者: M
九.皐月

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私、神様になる


 普通は、死を受け入れることはなかなか難しい。特に事故のような突然の死は、なおさらだ。

 それは残された者たちも同じである。


「かしこみかしこみもまをす……」


 丁度、宮司による神事が終わった。

 氏子総代である真尋の父が挨拶をする。


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。」


 真尋は、御殿森の神様の隣に並んでその様子を見守る。


「これ、何やってるんですか?」

「新しく神を迎える神事を執り行っているんだ。」

「へぇ~。この神社の神様が増えるんですね。」


 真尋の父は挨拶を続ける。


「皆様には、豊田真尋の祠の建立にご理解とご協力いただき、本当にありがとうございました。」


 父は頭を深く下げる。


「真尋が亡くなってから、もう二年になります。はじめは、真尋が好きだったこの御殿森神社に、真尋を祀ってやりたいという私たちのワガママでした。それなのに、地域の皆様から快く承諾をいただきました。本当に、…真尋は…本当に…皆様に愛されていたんだなと……」


 父は言葉に詰まってしまう。母も有美ちゃんも泣いている。


「…んっ…失礼いたしました。真尋は小さな頃から、よくこの神社で遊んでおりました。ここには、あちこちに真尋との思い出があります。」


 母も頷いていた。

 それを見ていた真尋も胸の奥から込み上げてくるものがある。


「ここにはいつも真尋が居ました。今でも真尋の御霊(みたま)は、ここに居ます。」


 真尋は感極まって、隣に立つジン坊の手を握ってしまった。

 彼は少し驚いたが、優しく握り返してやる。


「真尋は優しい子でした。神様になっても皆様の幸せの手伝いをしてくれます。」


 自治会長も大きく頷いて、目頭を押さえる。


「本日は、ありがとうございました。」


 父の挨拶が終わり、拍手が巻き起こる。


「神様…? どういうことですか? 私、神様になるの…?」


 真尋は混乱で目を白黒させている。


「そうだよ。真尋はこの神社で祀られる神の一柱になるんだ。」

「私が? な、何でですか?」

「嫌なのか?」

「いえ。嫌ではない…と言うか、そういう訳ではないんです。なんでそんな事になったのかって不思議で。……私みたいな一般人を神社の神様として祀って良いんですか?」


 ジン坊は少し悲しそうな顔をした。


「ああ。その御霊を拝む人がいれば、それは立派な神様になる。」


 その言葉の裏には「俺が守りきれなかったから、真尋を死なせてしまった。」という自責の念があった。


「神様って、そんなものなんですか。」

「そんなものだよ。」


 ジン坊は、思い出したかのように祠を指差す。


「ああ、そうだ。あの祠は真尋の神としての家になる。祠の前に座ってごらん。」

「え? えー!! 私のお家?」

「そうだよ。」


 ジン坊に促され、真尋は祠の前に座ってみる。

 すかさず、ミカンが真尋の膝の上に乗ってきた。


 近所の人たちは順番に自分の祠へお参りをしている。

 なんか変な感じ。

 本当に自分が神様になったみたいだ。


 最後に、真尋の父と母が参拝する。

 揃って二礼し、柏手を打つ。


 ジン坊は真尋の手をとって、真尋の父の額に当てる。

 真尋には、父の願いが見えた。


「お前の愛したこの神社を、この町を、この人たちを見守ってくれ。」


 父の篤い願いが見える。その想いが嬉しかった。

 もう片方の手を、母の額に当てる。


「私たちは、ここへ真尋に会いに来るからね。」

「うん、うん。いつもいつでもここにいるよ。」


 真尋は、今日初めて泣いた。

 真尋の声は母に届かないけれど、額の手を通して想いは通じる。


「お父さん、真尋が頷いてますよ。」

「ああ。」


 そんな父母のやり取りを見て、真尋は涙が止まらなくなる。


 最後に二人は一礼すると、一歩下がってもう一度礼をした。



 参拝客たちは、境内で真尋の思い出を語ったり、この神社での体験を話したりと、各々(おのおの)がが思い思いに時を過ごし、やがて帰って行った。



「もう大丈夫か?」

「はい、もう泣かないです。」


 真尋が落ち着いた所で、ジン坊は簡単に神の力について説明する。

 説明を聞きながら、真尋は乙姫神社で聞いた伝説を思い出していた。


(そういえば、乙清水姫様も死んでから神様になったんだっけ。そして、不思議な力で、渇水に苦しむ人たちを救ったんだ。)


 そんな神様に、こんな自分が相応しいのか不安になる。


「私なんかに、神様なんて務まるでしょうか。」

「俺は、真尋を小さな頃から見てきた。真尋なら大丈夫。」

「そうですか?」

「ニャーオ」


 ミカンも応援してくれている。


「私、ちょっとだけ頑張ってみます。ミカンもいるし、神様もいるし。」

「もう真尋だって神じゃないか。」

「じゃあ、神様のことは何て呼べば良いんですか?」

「御殿森……いや、ジン。俺のことはジン坊で良いよ。」

「じんぼー、ですか。」

「ああ。それで良い。」


 ジン坊は嬉しそうに微笑んだ。


 真尋が初めて見る神様の笑顔。

 その顔を見て、真尋は改めて素敵だなと思った。


 この神様はいつも泣いているけれど、もっと笑っていてもらいたい。

 真尋もつられて微笑んだ。


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