猫は知ってる
貧乏神はミカンの額に手を当てる。狭いので指二本しか添えられないが。
ミカンの願いを覗き見る。
「そうか、真尋と話がしたいか。」
「ニャア」
ミカンとは縁がある。
貧乏神は、その願いを叶えてやることにした。
少々難しい願いだが、真尋の力と、ミカンとの絆があれば奇跡も起きよう。
貧乏神は真尋の額に手を当てる。
「ナーゴ」
真尋には、その鳴き声がハッキリと「真尋」と呼んでいるように聞こえた。
「え? ミカンなの?」
「今日は、お話できるんだ。」
「すごい! すごい!」
真尋は頬をつねってみる。痛い。
「すごい! 嬉しい!」
ミカンは気怠げな様子だが、しっかりとした眼差しで真尋に語り掛ける。
「今まで、一緒に、居てくれて、ありがとう。」
「何言ってるのミカン。こちらこそ、ありがとう。」
「いっぱい、遊んでくれた。いっぱい、美味しい物、食べた。」
「そうだね。私もミカンと一緒に居られて幸せだよ。」
ミカンはヒゲをピクピクと動かす。
「楽しかった。」
ミカンは少し目を閉じた。
真尋は、ミカンが最期のお別れをしようとしていることに気が付いた。
貧乏神は二人の話を聞きながら泣いていた。
神通力でミカンを見つけた時、社殿の下で小さく丸くなっていた。
ミカンは自分の終わりが近いことを悟り、真尋の前から姿を消したのだ。
貧乏神に未来を見るほどの神通力はない。
もちろん病を直したり、寿命を延ばすなんて力もない。乙姫にだって延命は難しい。
貧乏神にできるのは、苦しみを少しだけ緩和してやることくらい。
手をかざして、ミカンを撫でてやる。
ミカンはホッとしたような表情になる。
「本当にお別れをしなくて良いのか?」
貧乏神はそう声をかけてやる。
間違いなくミカンにはその声が聞こえた。
「フ…」
ミカンは気力を振り絞って起き上がると、社殿から這い出て真尋に会いに行った。
ミカンが真尋と話す姿に、貧乏神は涙せずには居られなかったのだ。
真尋の目にも涙が浮かんでいた。
「私ね。ミカンが長生きしますようにって、毎日この神社にお願いしてたんだよ。」
「知ってる。だから、今日まで、生きてこれた。」
「まだ大丈夫だよ。だって、ミカンとお話できる奇跡が起きてるんだよ。もっと奇跡が起きるかもしれないじゃない。」
ミカンは嬉しそうに目を細める。
「真尋の悲しむ顔が、見たくなくて、ここに隠れた。」
「寂しいこと言わないで、ミカン。いつまでも一緒だよ。」
真尋が優しく撫でる。
ミカンはそれに応える。
「真尋、大好きだよ。」
「私も大好き。」
真尋の涙が、ミカンの背に落ちる。
「ミカン、だからずっと一緒に居て。お父さんとお母さんだって寂しがるよ。」
ミカンはしばらく黙っていた。
そして、「分かった」と呟いた。
ミカンは貧乏神の方を見ると、頭を下げた。
「もう良いのか?」
貧乏神が真尋の額から手を離すと、ミカンは長く低い声で鳴いた。
「ナーゴ」
貧乏神は頷くと、真尋の額から手を退ける。
「あれ? もう喋れないの?」
「ニャア…」
真尋はミカンと話せた奇跡を喜び、その奇跡が終わった寂しさを感じた。
「ミカン! ありがとう。」
「ニャ」
「一緒に帰ろう。」
「ニャー」
「お父さんとお母さんに、ミカンが見つかったって知らせに行かなきゃ。」
真尋は、ミカンを抱いて家に向かって帰って行った。
桜の花はまばらでも、それぞれに花は咲き誇る。
ハラハラと花びらが舞い、真尋の後ろを追っていく。
BGM: "Memory" from the musical "CATS"




