秋祭り
秋祭りの日。
自治会の祭りには、乙姫神社の祭のように、神輿があったり屋台が出たりはしない。
学校の白いテントの下に、スーパーボール掬い、割りばし鉄砲射的、綿菓子などの手作り出店が並ぶ。
そして八百屋がまとめて仕入れた蒸かし芋が振る舞われ、一人一本の飲物が配られる。
公園よりは少し狭い境内だが、自治会の子どもたちを楽しませるには十分だった。
子供だけでなく、大人もビール片手に何かの歌を歌っている。
氏子総代のお婆さんも、こんなに賑やかな境内は初めてだと笑い、隣の自治会長夫人とふかし芋を分ける。
真尋は綿菓子を繰る手伝いをしていた。綿菓子を作る機械なんて初めて触ったので、手元でくるくると大きくなる綿菓子を作って楽しんでいた。
貧乏神は社殿に腰掛け、奉納された芋を頬張る。
「うまいじゃないか。」
思わず笑みがこぼれる。
「祭とはこんなに楽しいものだったか。」
貧乏神は永らく忘れていた。
人が集まるのがこんなに愉快だなんて。
楽しんでいる人たちの顔を見るのが、こんなに嬉しいなんて。
日が傾き始めた頃。自治会長が短めに挨拶を切り上げると祭も一段落。後片付けが始まった。
「あれ? せっちゃんがいない。」
子どもたちが騒ぎ始めた。ちょうど貧乏神が座る社殿の前。
「先に帰ったんじゃない?」
「でも一緒に帰る約束したもん。」
「せっちゃんの鞄、ここにあるよ。」
自治会長は青ざめた。二年連続トラブルとなると、本当に祭がなくなってしまう。
すぐに大人たち数人に声を掛ける。
真尋はジュース用に持っていた百円を賽銭箱に投げ入れると、礼もそこそこに手を合わせた。
「神様、せっちゃんを探してください。お願いします。」
子どもたちも真似をしてお祈りする。
「「お願いします。」」
貧乏神は立ち上がると、子供の一人に額を当て、どんな子かを見る。どうやら、とてもマイペースな子らしい。
「わかった。任せろ。」
そして柏手を打ち、精神を集中する。
貧乏神には、以前より強い神通力が備わっていた。乙姫ほどではないが、探し物ならだいたいの方角がわかる。
「南……。山の中か。」
迷子になっているに違いない。貧乏神は風のように山の中へと駆けていく。
また衣が裂ける音がしたが、今は一刻を争う。
後ろの方で、子どもが山に上がっていくのを見たという婆さんの声と、その時に止めろよと突っ込む自治会長の声がした。
すぐにせっちゃんは見つかった。
「生きて……は居るのか。」
彼女は木陰の窪みで眠っていた。あまりに熟睡していたので、見つけた時に死んでいるのかと驚いてしまった。
ここまで大人が探しにくるには少し時間がかかりそうな場所だ。暗くなれば、子ども一人で帰ることは難しいだろう。
せっちゃんの額に手を当ててみるが、ぐっすりすぎて起こすこともできない。
貧乏神に背負って行くような神通力はないし、とりあえず上着を掛けてやる。
神の衣では寒さは防げないが、虫や動物は危害を与えなくなる。
「はて、どうしたものか。」
思案にくれていると、遠くで子どもを探す声が聞こえる。こんな所で寝ているとは思いもよらないだろう。
貧乏神は大人たちの所まで降りていき、何人かの額に手を当てたが、信仰の薄い者に、貧乏神の思いは伝わらなかった。
「折角の神託なのに…!」
貧乏神が自分の無力さを痛感していた時、真尋のことを思い出した。
「あの娘なら、あるいは。」
貧乏神は境内へと走る。
真尋はパイプ椅子を運んでいる。多くの大人が探しに行ったので、中学生たちは片付けを手伝っていた。
貧乏神は真尋の額に手を当てる。そして、迷子の居場所を伝える。
真尋が最後の希望。そう思って貧乏神は集中する。
頼む、伝わってくれ。
そして、動いてくれ。
真尋は一瞬立ち止まる。
「ごめんなさい。私、行ってくる!」
真尋は持っていたパイプ椅子を置いて駆け出す。一直線に山の中に入っていった。
みんな驚いて真尋を止めるが、真尋は何も答えずに走った。
真尋には、せっちゃんの居場所が分かった。なぜ分かるのか分からない。でも不思議と確信があった。せっちゃんはそこに居る。
真尋は途中で八百屋の親父を見つけると叫ぶ。
「こっちにいるの。来て!」
真尋は素晴らしい速さで木の間を駆け上がっていくので、大人の足でも追いかけるのがやっとだった。
「おいおい、子どもがこんな上まで来るかな。」
八百屋のボヤキを無視して、一本の木の裏に回り込む。
「いた!」
真尋は木の陰の窪みにせっちゃんを見つけた。
オヤジには死んで倒れているように見えた。嫌な汗がふきだす。
「息をしてるのか!?」
「寝てるみたい。」
「なんだそうか……良かった。」
真尋はせっちゃんの頬を叩く。
「せっちゃん、起きて。帰るよ。」
せっちゃんは軽く伸びをすると、眠たげな目で「ここどこ?」と聞いた。
「大丈夫だよ。痛い所ない?」
せっちゃんは頷いた。
八百屋は有らん限りの大声を出す。
「見つけたぞ~。無事だ~!」
せっちゃんは八百屋に背負われて、真尋と一緒に神社へと戻っていった。
貧乏神は上着を拾い上げホッとした。
「あれは不思議だった。まるで居る場所が分かっていたみたいだった。」
八百屋がその様子を証言する。
「真尋ちゃんに御殿森神社の神様が憑いたに違いない。」
自治会の一同の結論について、真尋は何だか恥ずかしく思ったが、自分でもそうとしか思えない体験だった。
「放ったらかしにしてたけど、もう少しここの神様を大事にしないといけないわ。」
氏子総代の婆さんが呟く。
みんなが頷くのを見て、真尋もなんだか嬉しくなった。
残っていた全員で柏手を打つ。
「「「ありがとうございました!」」」
貧乏神は、町の人を守れた達成感を顔に浮かべ、町の人からの感謝に対する恐縮を胸に秘め、これからも町の人を守りたいという責任を背中に背負った。




