天花舞う世界で見たものは①
(どうして、こんなことになったんだろう)
凍てつく森の中を少女が駆ける。静まり返る世界で、少女の荒い息づかいがいやに目立つ。深々と降る雪が視界を奪い、白一色の世界は方向感覚さえも奪っていく。
「はぁ、はぁ……っ! 誰か……!」
『どうしてこんなことに……』
『全て、うまくいっていたのに』
『お前さえ現れなければ』
『疫病神め』
(どうして……どうして)
胸の奥がじくじくと痛む。理由なんて知らない。ただ、そう言われた。
(私、悪いこと、したのかな)
『消えてくれるね、リーリエ』
(……嫌)
その言葉だけは、はっきりと浮かんだ。
(死にたくない)
風切り音とともに、少女の若葉色の髪の毛が一房宙に舞った。それでも少女は足を止めない。足をもたれさせながらも、必死で前に進む。今止まってしまったら、数秒もかからずに腹を空かせた魔獣の餌食になる。
(……まだ、まだ終わりじゃない)
そう思った途端、脚が悲鳴を上げた。感覚が遠のいて、地面を蹴る力が抜けていく。
(でも……もう、動かない)
冷静な思考がふと頭をよぎる。
(ここまで、なのかな)
「あっ……!」
段差に気づかずに足を踏み外し、少女は小さく声を上げた。襲ってくるであろう痛みに備え、固く目を瞑った。
次の瞬間、大地を揺らす程の轟音と肌を焦がす程の熱、少し遅れて耳をつんざく獣の断末魔が銀世界に響き渡った。
「……お前、こんなところで何してる」
意識を失う間際にリーリエが見たものは、温かな春の陽射しを思わせる淡い金色の髪と暁光を閉じ込めた美しい瞳だった。




