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13.冬木に咲いた花の名は②

「つまり、こいつに適当な魔法道具をあてがって、強制的に魔法を発現させるのか。」

「そ、あなたが立ち会えばそれ程危険もないでしょうし。」


 魔法道具は通常、魔力の増幅や簡易的な防護、適性外魔法の使用など、使用者を補助する目的で使われることが多い。道具自体にこめられる魔力量も多くないため、暴走する可能性もなく、ノーリスクで扱うことができる。


 一方、使用者の魔力を吸い上げる魔法道具というものが存在する。一定値までしか魔力をこめられない魔法道具とは異なり、使用者の魔力を際限なく吸収するため、効果は強力だ。しかし、制御できずに魔法が暴走したり、戦闘中に魔力切れを起こして危険な状態に陥ったりした使用者が出てきたため、現在では製造が制限されている。今回オルタンスが提案したのは、こちらの種類の魔法道具の使用だった。


 アルフレドは口元に手を当てて難しい顔をしている。あまり乗り気ではないようだ。


「それは俺も最初に考えたが、こいつの魔力量が分かんねぇ状態で、どんな被害がでるか未知数なことを考えると、あまりいい案とは言えない。」

「あら残念。」


 アルフレドは首を横に振った。リーリエは、自分が神力を使うための切っ掛けを諦めたくなかったので、彼に食い下がった。


「あの、可能性があるなら試させて欲しいの。私頑張るから…お願い。」

「リーリエ、また別の方法を考えてみましょう。」

「でも…」


 切実に訴えるリーリエを見て、アルフレドはしばし悩んでから「3日後」と呟いた。


「3日後の夜、いつもの林だ。魔法道具は俺が用意する。」

「ありがとう、アル!」

「よかったわね、あとは頑張りなさい。」

「オルタンスもありがとう。」

「つーか、アイスとけたんだけど。新しいの持って来いよ。」

「なによ、固形も液体も味は変わらないじゃない。」


 アルフレドとオルタンスのやりとりを聞きながら、多すぎるアイスクリームがとけて、水たまりみたいになった皿に視線を落とした時、リーリエはアルフレドの手元に置かれた紙の束に気が付いた。


「これ、何?」

「あなた、レポートが終わっていないの?討伐の報告書かしら?」

「違う、それは、」


 アルフレドの答えを待つことなく、リーリエはそれを手に取った。そこには、大きさや高さがきっちりと揃った几帳面な文字がならんでいる。アルフレドが書いたものだ。


「光魔法について…?」

「ああ。光魔法を使う奴らに、はじめて発現した時のこと…年齢、対象者、使用状況、あとは精神状態やらを詳しく聞いてまとめた。さっき書き終えたとこだから、お前にやる。何か手がかりがあるかもしれないだろ。」


 リーリエは紙束をパラパラとめくる。見やすいように一人一ページずつまとめられているそれは、二十枚ほどあった。


−すごい情報量。いつも忙しいって言ってるのに、いつの間にこんなに…。


「これ…アルが全部…?」

「そうだよ。…くそ、もっとちゃっちゃと終わらせるはずだったのに、聞き取りで時間くった。」


 リーリエはもう一度手元の紙に目線を落とした。今度は先程よりも時間をかけて、書かれた内容に目を通した。


−記述量の違いはその人の記憶によるとしても、これ書くためには一時間程度の会話じゃ無理だ。…それを二十人も?


 リーリエの口元は、自分でも気付かないうちに緩んでいた。彼女は胸にじわじわと広がる気持ちを、何と表現したらいいのか分からなかった。


「おい、それ学内ほぼ全員だからな。光魔法の適性もちは少ないんだから、文句…」


 リーリエの反応がなかったことを、渡した資料に満足していないのだと勘違いしたアルフレドは、自らの正当性を主張しようとした。しかし、「言うなよ」と続くはずだった彼の言葉は、音として発せられることはなかった。彼が顔を向けた先のリーリエが、まるで大切な宝物を見るような、柔らかい眼差しをただの紙束に向けていたから。


「アル、本当にありがとう。忙しいのに、私のために色々頑張ってくれて。多分私、今人生で一番甘やかされてる。」リーリエは感情を抑えきれないとでも言うように話し始めた。「優しくされすぎて…びっくり?嬉しい?ええと、今の気持ちをどう表現したらいいのか分かんないや…。」


「語彙力の乏しさは流石の4歳児だな。」

「からかわないで。つまり、やっぱりアルは優しいね、とっても!」

「お前そればっかだな。」


 アルフレドは呆れ顔でリーリエを見た。


「リーリエ、アルフレドが優しいなんてことはないわよ。基準を見直したほうがいいわ。」


 整った顔を思い切り顰めて、オルタンスがリーリエに異議申し立てをしたが、リーリエは首を振った。


「アルは優しいよ。はじめて会った時からずっと。」

「はいはい、存分に感謝しろ。」


 アルフレドは、頬杖をついているのとは逆の手をひらひらと振って答えた。


「もちろん。私、直ぐにこれを読みたいから、先に部屋に戻るね。」


 リーリエはそう言うやいなや身を翻し、二人に手を振りながら駆けて行った。


 残された二人はリーリエの姿が見えなくなると食事を再開した−どろどろになったクレープシュゼットと冷えてチーズが固まったクロックムッシュを。


「何だか意外ね。結構うまくやってるじゃない。」

「何だよ。」

「あなた友達いないじゃない?人に興味がないと思ってた。」

「ほっとけ。」

「でも、ちゃんと彼女のことを気に掛けているのね。」

「当たり前だろ、俺の卒業がかかってるんだぞ。」

「それもそうね。…もうすぐ私も試験内容が発表されるけれど、リーリエみたいなパートナーが欲しかったわ。」


 グリットリア学園の卒業試験は、筆記は当然ながら実技も個人で行うのが通例。アルフレドのように誰かと組んで試験に臨むのは前例がないことだった。オルタンスはからかい半分でそう言うと、瑠璃色の瞳をアルフレドに向けた。


「やめとけ。お前に教会は荷が重い。」


 鼻で笑いながらそう言ったアルフレドのことを、オルタンスは咎めなかった。口調こそいつもと変わりないが、彼の曙色の目が少し鋭い気がしたからだ。オルタンスはなんだかんだで入学してから七年の付き合いになる傲慢な級友のことを、多少は分かっているという自負がある。


 先に食べ終えたアルフレドが席を立とうとした時、オルタンスは先程から気になっていたことを尋ねた。


「さっきの4歳児って?」

「それは後であいつに聞け。」

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