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12.冬木に咲いた花の名は①

 グリットリア学園の訓練場には、森林や市街地、水中など多種多様な環境が再現されている。将来的に国防の要を担うことになる生徒達は、日々ここで技を磨いているのだ。


 訓練場の一角にある人気のない雑木林に、二人の生徒の姿があった。


「ほんっとセンスないな、お前。」

「やろうとしてるんですよ!待ってくださいね、もう一回…。」


 コンサバトリーでの宣言通り、アルフレドは自身の授業や討伐実習の合間を縫って、度々リーリエに魔法の指導を行っていた。しかしながら、これまでなかなかリーリエに魔法が発現する兆しはみられない。


「魔力はあるんだから、それを練り上げて自分のやりたいことを現実に引っ張ってくればいーんだよ。」

「そうは言いますけど、魔力をどう感知すればいいのか分からないんですよ。」

「感知もなにも、自分の体に流れてるんだから、血液と同じだろ。それを指先に集めるイメージをすんだよ。」


 魔法を扱う者にとって、自身の魔力を感知して操作することは基礎中の基礎である。リーリエが学園に来てから読んだどの本にもそう書いてあった。しかし、それらには肝心の魔力感知について感覚的な記述しかなく、彼女にとって大して参考にはならなかった。それもそのはずで、魔力をもって生まれた者は、物心がつくまでに自然と自分の魔力を認識出来るようになるため、わざわざ細かな理論や解説を書いた本がないだけのことなのだ。


 言ってしまえば、非魔法使いが人生の途中から魔法使いになることは想定されていない。


 これといった前進は見られなかったが、練習が行き詰まったので本日も解散となった。





「なるほど。それで私の所に来たのね。」

「お願い、オルタンス!何かコツとかないかな。」


 夕食後、自室で爪の手入をしていたオルタンスのもとにやって来たリーリエは言った。


「そうね、私から助言出来ることがあれば良かったんだけど。残念ながら私の術式は特殊なの。」

「そうなの?」

「ええ。火が出たり水を操ったりするわけじゃないの。だから、あなたにとってヒントになるようなことは言えないわ。」


 オルタンスは「ごめんなさいね。」と付け加えた。彼女ならば自分の現状を打破出来るような助言をくれるのではないかと考えていたリーリエは、すっかり当てが外れてしまった。


「ううん。ありがとう。ねえ、オルタンスはどんな魔法を使うの?」


 リーリエが身を乗り出して尋ねた。金色の瞳が好奇心で煌めき、夜空の星のようだった。


「気になる?」

「すっごく!」


 オルタンスは「そうね、」と悩む素振をしたが、リーリエをからかうことに決めたようだ。


「ひみつ。」

「そんなぁ…」

「いつか見せてあげる。」

「ほんと?」

「もちろん。ただし、あんまり怖くて逃げ出さないようにね。」


 オルタンスはそう言って瑠璃色の瞳を細めた。リーリエはそれを聞いて、自分の怖いものを次から次に想像しはじめた。しばらくその様子を見ていたオルタンスがリーリエの百面相に満足した頃、急に「あ!」と声を出した。


「どうしたの?」


 オルタンスが突然大きな声を出したので、リーリエは心配そうに尋ねた。


「これはいけるかも。リーリエ、要は魔法が発動する感覚が分かればいいのね?」

「え?うん、そうだよ。」

「明日、朝いちでアルフレドのところに行きましょう。」


 オルタンスは「これであいつに貸しひとつね。」と、愉快そうににんまり笑った。





 翌朝、リーリエとオルタンスが食堂でアルフレドを見つけた時、彼は何か書き物をしているところだだった。傍らにはアイスクリームとオレンジのコンポートが山程のった食べかけのクレープシュゼットが置いてある。


「相変わらず、砂糖が主食のようね。」


 そう言うオルタンスの手には、クロックムッシュやリエットのサンドイッチ、山盛りのフルーツがのったトレーが握られている。


「ほっとけ。そう言うオルタンスは、相変わらず満腹中枢がイカれてるな。」

「魔法使いは体が資本だもの。」

「で?…お前が食堂に来んの、珍しいな。」アルフレドはリーリエに視線を向けた。


「おはようございます。アルフレドさんを探してたんです。ここで会えて良かったです。」

「何か用?」

「ちょっとリーリエ、あなた、まだアルフレドにかしこまった話し方をしているの?」オルタンスは顔を顰めた。


「何ていうか、最初からこうだったから、タイミングを逃してて…。」


 リーリエはそう言ってアルフレドをちらりと見た。アルフレドは彼女と目が合うと、短いため息の後に「別に好きにしろ。」と言った。


「え、ありがとうございます。じゃあ、改めて、よろしくね、アル!」


 リーリエは輝かんばかりの笑顔を見せた。アルフレドの方は、急に愛称で呼ばれたことに驚きつつも、それを顔に出すことはせず、「ああ」と短い返事をしただけだった。


「で?朝っぱらから何の用なんだよ。」

「あなたに貸しができるわ。リーリエに魔法の発現を経験させられそうよ。」

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