1.天花舞う世界で見たものは①
―何でこんなことになったんだろう。
凍てつく森の中を少女が駆ける。静まり返る世界で、少女の荒い息づかいがいやに目立つ。深々と降る雪が視界を奪い、白く広がる世界が方向感覚さえも奪っていく。
「はぁはぁ…っ!誰かっ…!」
『どうしてこんなことに…』
『全てうまくいっていたのに!』
『お前さえ現れなければ!』
『疫病神め』
−どうして、どうして。
−私、悪いことしたのかな。
『消えてくれるね、リーリエ。』
−嫌!死にたくない!
風切り音とともに、少女の若葉色の髪の毛が一房宙に舞う。それでも少女は足を止めない。足をもたれさせながらも、必死で前に進む。今止まってしまったら、数秒もかからずに腹を空かせた魔獣の餌食になるだろう。
−もう足が動かない。ここまでなのかな。
「あっ!」
段差に気づかずに足を踏み外してしまった少女は小さく声を上げ、襲ってくるであろう痛みに備えて固く目を瞑った。次の瞬間、大地を揺らす程の轟音と肌を焦がす程の熱、少し遅れて耳をつんざく獣の断末魔が響き渡った。
「お前、こんなところで何してんの。」
意識を失う間際にリーリエが見たものは、温かい春の陽射しを思わせる淡い金色の髪と暁光を閉じ込めた美しい瞳だった。