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はじまります! お楽しみください♪

「さあ、そろそろいらっしゃるころよ」


九月ももう十日になります。

このお宮には月に一度、天から皇女みこさまが降ってこられるのでございます。




皇女さまはいつも、手紡ぎのきめの細かいおくるみにその身体をつつまれて、月の小船に乗ったまま、


ゆらゆら

ゆらゆら


揺らめきながら、わたくしどものところへと降りてこられるのです。


「おおい、ちゃんと受け止めろ」


「やさしく、やさしくだぞ」


侍男おとこたちが、2人がかりで手を伸ばし、月の小船を捕まえました。

みんなが小船を取り囲み、覗き込みます。


「今月の皇女さまも、なんて美しいんだろう」


「毎度、月がかがやくようだ」


皇女さまは、毎月どこか似ているようで、毎月少し異なるお顔をされています。


「さっそくお宮に連れて差し上げろ」


皇女さまをお寝かせするための、深紅の洞窟のかたちをした神殿があります。

それをわたくしどもは「お宮」と呼んでいるのです。


「今月も腕によりをかけて、ふかふかにしておいた」


「皇女さまが、お気に召すといいのだが」


侍男たちがそわそわします。


皇女さまが降りてくる、月に一度の滞在のために、侍男たちが中心となり、このお宮の壁や床の一面に真っ赤なこけを生やすのです。

苔は実にふかふかで、肌触りも心地よく、皇女さまをお寝かせするのに欠かせません。


苔の栽培は大変に難しく、しかも毎月新しい皇女さまが降りてこられるごとにつくりなおします。


侍男たちは精魂込めてせっせと苔を植え、手入れをします。

お宮の壁や床からは、栄養が沁み出してきていて、それが苔を育ててくれるのです。


栄養の出が足りない時にはわたくしたちは天にお祈りを捧げます。


「どうか皇女さまが来るまでに、お宮の苔がふかふかになるように、栄養をお与えください」


火をき、真っ黒な煙を天に飛ばし、侍女おんなも侍男もいっしょになって、祈祷きとうの呪文を唱えます。


祈祷は効果覿面こうかてきめんで、熱心に祈れば祈るほど、たくさんの栄養がお宮にもたらされます。


わたくしどもは、今月もたくさんのお祈りを捧げました。

おかげで、苔はたっぷりと栄養を含み柔らかく豊かに生え揃いました。


小船からお降りになった皇女さまをお寝かせすると、柔らかい苔のうえで、すこし微笑みながら、すぐにすやすやと寝入られました。

今月の皇女さまも、このお宮を気に入ってくださったようです。

わたくしどもは、ほっと胸を撫で下ろしました。

つづきます!

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