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ポイント制勇者と名もなき魔法使い  作者: 春夏 冬
第一章 風の国【フウリン村】
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4話:魔法使いはギルドを訪れる

「申し訳ございませんが支部長はただいま不在です。しばらく前より風の国の王都である【カミカゼ】に出向いておりますゆえ当面の間は面会をお断りさせて頂いておりますので」

「おいおいマジかよ? すぐにでも確認したい用事があるんだが……。なぁ、あんた。支部長はどれくらいで戻ってくる予定なんだ」

「残念ながら分かりません。私どもに与えられた指示は支部長不在時における代理の対応のみ。ともない『魔法使い』様にはお待ちいただく他ない、としか」


 あー、マジか。こりゃあどうしようもないのか。 

 ようやくフウリン村に到着した俺とルナは一旦その場で二手に別れることにした。

 ルナはコレットのお姉さんと共にコレットを彼女の家に送り届けに、一方で俺はギルドの支部へと出向くためにその足で一直線にとこの地へと足を運ぶ。


 目的は大きく分けて二つある。

 一つはこの村やその周辺の話を聞き調査の手がかりを掴むこと。

 魔物の出現情報や近隣の村や国との交友、商売の流通など多岐にわたる情報。

 特に魔王が討伐される以前とどのように変化があったのかなど、大陸に点在する人里の情勢を確認しておくためである。


 もう一つは『聖女』からの手紙を受け取ること。

 旅を続ける以上、俺が入手できる情報はどうしたって限られたもののみとなってくる。

 例えばこのフウリン村に滞在する間、この地域の話や噂を耳にすることは出来るが一方で別の国で何か一大事があったとしてその情報をすぐに知ることはおそらく出来ない。

 当たり前だ。なんと言っても情報源がないのだから仕方がない。

 それこそギルドという情報源があるとはいえ、何か重要な事が終わった後で情報が届くなんてことは十二分にあり得る。

 ゆえに俺は大陸一の王都に住まう『聖女』に情報を提供してもらうようにと依頼をしているわけだ。

 

 『聖女』には俺たちの旅の行き先を適宜伝えており、常に先駆けて滞在先に手紙を送ってもらうようにしている。

 各国の情勢や魔族の出現情報。それにエルフの里の調査状況。

 そういった重要な情報を『聖女』に提供してもら得るからこそ俺は安心して旅を続ける事が出来るのだ。


 だが一方で、それはそれで問題が発生する場合もある。

 というか、まさに今その時だ。

 

 『聖女』ほどの有名人にもなれば、村に送られた手紙についてはまずギルド支部長クラスの人間へと届けられる決まりとなっている。

 しっかりと手紙を届けたのか、手紙を受け取ったのか。

 差出人が差出人なだけに紛失などしようものなら大ごとにすらなり得ない、というわけで配送人およびギルド支部長による確認のサインを必要不可欠としているそうだが、これが俺としては都合が悪い。

 実際これまでも俺が『聖女』から手紙を受け取るときは必ずギルドのお偉いさんから受け取っていたわけなのだが――では、そのお偉いさんが不在の場合はどうなるのか。

 

「ちなみに聞くけど聖女から手紙って届いてるのか?」

「そのことに関しても残念ながらお答えできません」


 はい。こうなりまーす。

 

「そもそも『魔法使い』様は当ギルドの支部長や、かの聖女様とは一体どのようなご関係なのでしょうか。先ほどお伺った際には支部長の名前をご存知でない様子でしたが」

「だからさっきも言ったけどおたくの支部長ってのとは話したこともなけりゃ会ったこともないんだっての。それに俺は聖女から仕事を依頼されてこの村に来たんだよ。ただその仕事の内容ってのが手紙に書いてあるって聞いてたからそれを読みたいんだっつう話よ」

「ではそのお話を証明できるものはございますか?」

「…………ない」

「そうですか。それでは要件にお答えすることが難しいと回答せざるを得ません」


 くっそ。この無愛想な受付の女、マジで融通が利かねぇな!

 こちらに一切配慮する気配のない無愛想女をよそに、ふと俺は建物の中をぐるりと見渡す。

 普段は見かけない男が受付と言い争っている光景はさぞ面白かったのだろう。

 職員や冒険者、傭兵など建物に滞在している連中が一様にこちらを眺めながら何やらヒソヒソと話をしている。

 ちっ、たくマナーのかけらもない奴らだぜ。


「それで、ご用件は以上でしょうか」


 諦めたと判断したのか、会話を切ろうとする意思を微塵も隠さずに受付の女は俺に声をかける。

 何か手はないかと考えるがいい案も浮かばない。

 あー、くっそ。

 俺は仕方なしにとため息を吐きつつ、他の用事を済ませる方向に舵を切ることにした。


「俺はこの村に来たばっかりで勝手が分からなくてな。しばらく滞在するにあたりいくつか教えてほしいことがあるんだが」

「そういうことであれば担当の者をお呼びしましょう。ところで『魔法使い』様は当ギルドでの仕事をご所望でしょうか」

「まだ決めてねぇ。……ってかなぁ、こんな平和そうな村で仕事の依頼なんてあるのかよ」

 

 この村にはまだ来たばかりだが、村の人間は至って平和そうな顔つきをしているし何か困っているような雰囲気も感じられない。

 森を歩いてきたが魔物が大量に出現しているような様子はないし、わざわざギルドの支店が建てられた理由が俺には全く見えない。

 ゆえにこのギルドの「仕事」とやらに興味を抱いたってわけだ。


「それについては彼に聞くのがよろしいでしょう。オルツさん。すみませんが彼を応接室へお通ししてください」

「はい。かしこまりました」


 オルツと呼ばれたのは人の良さそうな若い青年だった。

 わずかな身のこなしからそこそこ出来るやつだと感じ取る。


「それではこちらにどうぞ」

「あぁ、よろしく頼む」


 俺は受付の女に一礼すると、職員の後を追い応接室へと向かった。

 兎にも角にもまずは情報を得なくては。

  


 ******



「失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「あぁ。俺の名前は『魔法使い』だ」

「かしこまりました『魔法使い』様。私はオルツと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 応接室と呼ばれるだけあり少し広めの部屋に、俺とオルツはテーブルを挟んで椅子に腰をかける。

 ふと感じたのだが、存外テーブルや椅子、書棚など調度品には金をかけているのか質が良さそうに見える。

 あるいはこの村の特産品か? なんにせよただの平和ぼけした村という印象は修正したほうが良いのかもしれない。


「それで『魔法使い』様はどういったお話をご所望でしょうか」

「いくつか聞きたいんだが、まずはこの村で受けられる依頼について教えてくれ。この村の仕事ってのがどんなのか気になる」

「なるほど。そうですね、たしかに一見するとそう見えるかと思います。ですがこの村は今近隣の村から注目されている重要拠点になりつつあるのです」


 重要拠点だぁ? この村が?

 俺は眉を顰めながら思考を巡らす。

 手持ちでヒントがあるとすれば地域の特性や周辺地図くらいだ。

 あのやけに生物の気配を感じない森。

 美味い山菜がたくさん採れるとか? いやそれだけでは重要拠点なんて言葉を当てはめる事はできない。

 であるとすれば――。


「……交易の拠点……いや、中継ぎ地点か」

「素晴らしい。お見事です」


 風の国の領土を地図で眺めたとき、他の国に比べて平地が続いてく土地が少ないことが特徴として挙げられる。

 代わりに多いのは森や山だ。


「ご存知かと思いますが森や山には魔物が多く棲みついているため交易のための順路にするにはリスクが伴います。そうなれば見晴らしの良い平地を通るのが自然な流れです。ですが――」


 この辺りで最も栄えている拠点といえばm奇しくも目的のギルド支部長が向かったとされる風の国の王都である【カミカゼ】。そしてついこの前まで俺たちが滞在していた街である【ニシカゼ】が挙げられる。

 たしかこの【フウリン村】は地図で見るに【カミカゼ】と【ニシカゼ】の間に位置する村だったはず。

 それでいて、あの至って安全そうに見える森。


「つまり遠回りする必要がなく短い距離で交易を可能とするための重要拠点ってわけだ」

「おっしゃるとおりです。それこそ以前はあの森にも魔物が多く棲みついていました。ですがかの最愛の勇者が魔王を討伐して以来、徐々にその目撃情報は減り、やがて平和と呼んでも差し支えないほどにこの村への影響がなくなりました」


 魔物が減った、ねぇ。


「えぇ。そうですが……何か気になることでも?」

「いやなんでもない。ってか、それでも魔物は一応出現してるんだろ? 俺たちもくる途中で一匹見かけたぜ」

「え? そうだったんですか? どの辺りで目撃したかお分かりになりますか」

「悪りぃな。土地勘がねぇからよ。ただその魔物に関しては俺のツレが退治してるから安心してくれ」


 そう伝えると同時に、俺はルナから預かった戦利品をテーブルの上に乗せる。

 包んだ布をほどき、中身を見せるとオルツの顔に驚きの表情が広がる。


「これは……ダークウルフの牙でしょうか」

「さぁな。俺は見てねぇからよ」

 

 魔物ってのは退治すると姿が霧になって消える。

 これは俺たち人族共通の認識だ。

 例えば猪や鳥などの生き物はその命を奪ったとして、その存在はその場に形を残す。

 だが魔物は違う。文字通り霧のように存在が描き消えるのだ。

 大半の人族はその理由を知らないが、一度目にするその事象は事実として頭に刻まれる。

 魔物は殺したら消える。それがこの世界の理だ。


 だが、その話だけでは決して正確とは言い切れない。

 ある一つの補足が必要であり、それが魔物の核についてである。  


 大陸中に蔓延る魔物たちにはそれぞれに核と呼ばれる部位が存在する。

 例えば『ダークウルフ』と名付けられた魔物の場合は『牙』、少し前に出くわした食虫植物の魔物なんかは『木の実』がそれに該当するが、それは個体によって差が生じることはなく、種族と呼ぶべきか同一と分類される魔物の核は皆同じとなる。

 そしてそれは、魔物を退治した証になる戦利品とも呼ばれている。


「そうですか。まさかこの辺りにまだダークウルフが……」


 どうやらオルツは本当に驚いているらしい。

 俺からすれば魔物なんてどうしたって生活からは切り離せない脅威だって認識だが、どうやらこの村は考え方が違うのかもしれない。

 あるいは、これもまた勇者がもたらした『平和』とやらの弊害なのか。


「申し訳ありません。『魔法使い』さんのご質問を伺うためのお時間でしたが、もう少し魔物に関する情報をご提供いただけないでしょうか」

「あぁ、別に構わないぜ。ただし俺の話もしっかりと聞いてくれよな」


 なぁ、『 』。

 君の叶えたかった夢の意味を、俺にもいつか分かる時が来るのかな。

本作と少しだけ世界観が交わる新作を執筆しております。


「魔法使いの花嫁たち」

https://ncode.syosetu.com/n3805id/


ややコメディ寄りの作風で、もし興味があればご一読ください。

※両作品を読まなければ理解できない話などは特に予定ありません。

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