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ポイント制勇者と名もなき魔法使い  作者: 春夏 冬
第一章 風の国【フウリン村】
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3話:勇者は魔法使いと合流する

「ふぅー。なんとか間に合ったー」


 抜いた剣を鞘に戻し、私は切り捨てた魔物の遺骸に視線を向ける。

 見た目の体躯は野犬そのものだが、それより異質なのは全身を覆う黒い体毛。

 闇の魔力が体外に漏れ出す影響かその全身は暗闇のように黒く、また見る者の恐怖を煽るかの如く深く暗い感情を連想させる。

 魔物は恐怖を糧としているとはよくいったものだ。


「って、そういえばさっきの子大丈夫だったかな」

 

 そういえばと思い返し来た方向へと振り返る。

 あの瞬間、魔物が子供を喰らおうとした一瞬で私が取った選択は魔物を大きく蹴り飛ばすことだった。

 剣で切りつける、あるいは突き刺したとして何かしらの衝撃で魔物の牙が子供に届かないとも限らない。

 ましてや全力疾走の果てにようやくたどり着いた場面がすでに若い命が散ろうとしている最悪のタイミング。

 さしもの私だって子供と魔物を視界に捉えてから巡らせた思考に余裕はなく、じゃあとりあえずぶっ飛ばそうと勢いのままに蹴り飛ばした次第である。

 さらに吹き飛ばしたまま放置するわけにもいかないため、速度をそのままに吹き飛ぶ魔物を追跡し討伐に至る。

 今になってみれば子供に一言かけてもよかったのかとも思ってしまうが、まぁこうして魔物を退治出来ただけでも良しとするべきだろう。

 うん。放っておくと人里に被害が出るかもしれないしね。

 あとは念のため周囲に他の魔物の気配が感じられないかを探ってみることにする。

 …………………………。

 

「うん、特に反応はなし」


 もし他にも魔物がいるのであればついでに討伐しておこうと考えたもののどうたらこの周辺には先ほどの魔物が一匹いるのみだったみたいだ。

 動物型の魔物は集団で群れて狩りをする傾向にあるため、この一匹だけで行動していることには正直違和感を感じてしまうも、気配を感じないのだから仕方がない。

 そもそもこの森自体少し妙というか、あまりにも生物の気配を感じないことも気になる。

 それになんというか、個人的にあまり好ましくない感情を抱いてしまう。

 それがどういったものかが私自身よくわかっていないのだけれども。


「なんにせよ、あんまり滞在したくない場所だよねー」


 さて私の用事は済ませたわけで、ひとまずは先ほどの子供の場所まで戻ってみることとしよう。

 もしマーくんが追いついて来てるとすればあの子供の下にいる可能性が高いだろうし、それに無事かどうかが少し気になっている。

 目立った外傷はなさそうだけどちゃんと診たわけじゃないし。


「じゃ、あの子の元まで戻ろうか」


 そう呟くと、私は剣を腰に差し直しその場を後にする。

 後に残った魔物の遺骸は少しずつ霧のように薄れていき、やがて溶けるように姿を消した。



 ******



「あ、やっぱりここにいたんだ」

「おーおかえり。首尾はどうよ」

「動物型の魔物が一匹だけ。他に気配は感じなかったよ」


 先ほど女の子が襲われていた場所まで戻ると、案の定そこにはマーくんの姿があった。

 また肝心の女の子の姿はと探してみれば、どうやらマー君の膝の上で横になって眠っている様子だ。

 いや、これはもしかして――。


「その子、気絶しちゃってるの?」

「緊張の糸が切れたんだろうよ。どんな目にあったかは知らんが少し会話したら気を失っちまった」

「あー。まぁね」


 それはそうか。

 まだ成長期真っ只中にも見えるこんな小さな子が真正面から魔物に襲われたのだ。

 それで冷静でいる方がおかしな話だろう。

 よくよくみればスカートのある部分にシミが出来ている。

 本当に怖かったんだろうね。


「それで、これからどうしよっか」

「そうなんだよなー。さっきから考えてんだけどよ」


 座ったままの姿勢で後ろ手に頭をかきながらマーくんは話をすると同時に指を立てる。


「まず状況をするとだ。多分この子はフウリン村からこの森にやって来た子だと想定できる。何をしに来たかまでは分からないが服装が旅をしている格好じゃない」


 確かにその通りだ。

 布の服にスカート、それにそれほど汚れが見えない靴なんかをみれば冒険慣れしているようには見えない。


「でだ。もしこの状況を楽観的に捉えるのであれば、この子が起きた後にフウリン村まで案内してもらえるかも可能性があるっちゅう話だ。これが俺たちにとってはベストな道筋だ」


 だが、と一言添えてマーくんは話を続ける。


「そうでない場合。例えばこの子が魔物に襲われて闇雲に走り回った結果、帰り道が全く分からなくなったって可能性も捨て切れない。そうなると今度は遭難者が一人増えるって最悪の展開になるわけだ」

「その線は――ありえるかもね」


 見たところ周りには荷物が見当たらない。

 こんな小さな子が何も持たずに森の中、少なくとも他の人間の気配を感じられない場所まで来るなんてことがあるのだろうか。

 それならばマーくんの推測通り、魔物に追われて逃げ回っていたと言われた方がしっくりくる。


「となれば、選択肢は限られてくるんだよなぁ」

 

 はぁと深くため息を吐き、マーくんはチラリとこちらをみる。

 正確には私の腰に携えた剣を、だ。


使()()の?」

「あぁ、仕方ねぇ」


 私の短い言葉に、マーくんは即答で返す。

 分かっている。本心では使いたくないはずだ。

 多分、それこそ私とマーくんの二人だけでまだしばらく森を彷徨っていたとしてもマーくんは「使う」ことをよしとはしなかっただろう。

 だけど今は二人だけじゃない。

 食料が尽きているこの状況でこんな小さな子を連れて森を彷徨うリスクは計り知れないことをマーくんはよく分かっている。

 普段は悪ぶっているくせにこういうところは優しいんだよなぁ。


「じゃあさっさと頼むわ。この子に見られたくねぇ」

「うん。分かったよ」


 念のためか、マーくんは身体の向きを変えることで膝の上で横たわる女の子から私の姿が見えないようにと位置をとる。

 一方で私はといえば、剣に巻かれた布を解くと、そのまま鞘から剣を抜き放つ。

 白銀に輝く剣は傷一つ見えぬ鏡のような抜身姿を見せると、やがて青い光を帯び始める。

 この剣――勇者の聖剣が目覚め始めた証だ。

 そしてかの存在は私に語りかけてくる。


 ――………………。


「マーくん。聖剣が()()()よ」


 聖剣の声は所有者である私にしか届かない。

 だからこの声を彼に届けるには私が通訳する他にない。


「んで、今回はどれくらいもってくってんだよ」

「えっとね。道標なら三ポイントでいいってさ」

「いいってさって結構取るじゃねぇかよ。今のこりいくつだっけか」

「四ポイント」

「ほぼすべてじゃねぇかっ! こいつ絶対足元見てるだろ」


 ――………………。


「人助けのためにポイントを使おうとしている点で評価してあげてるのに。だってさ」

「それで一ポイントしか残さないってんだから大したもんだぜ」


 今日一番の大きなため息を吐きながら、マーくんは渋々ながらも了解の言葉を口にする。

 もとよりこうなることくらいは想定していたのだろう。

 ただそれでも言いたいものは言いたいのだ。


「それじゃあ、お願いするよ」


 ――………………。


 私は聖剣に祈るように両手で掲げながら目を閉じる。

 帯びていた青い光はやがて剣先へと収束し、そのまま一筋の光へと変わると天へと昇る。


「――マーくん。あっちみたい。まっすぐ歩けばそれほど遠くもないよ」


 聖剣から情報が伝わってくる。

 意識の中に流れ込むそれを、私は理解すると同時にマーくんへ伝える。

 

「この子は俺が背負うから道案内を頼むわ」

「うん。分かった」


 私は今度は迷わないようにと先導する形で前を歩く。

 魔物の気配は感じないものの周囲に気を配りつつ、あるいは誰か人に遭遇する可能性も視野に入れる。

 もしかしたら女の子を探しに出ている人がいるかもしれない。

 そんな希望を抱きながら道なりに歩いた先、やがて私は本日二人目の人間と出会うことになった。


「あ、あの。その背中に背負っている子なんですけど――」

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