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ポイント制勇者と名もなき魔法使い  作者: 春夏 冬
第一章 風の国【フウリン村】
14/15

12話:村娘は初めての冒険に出かける

「道案内? 私がするの?」

「あぁ、そうだ。ルナとオルツ、それにアイシャさんも一緒に。俺たちをコレットが魔物に襲われた場所へ連れて行ってほしいんだ」

「うん。それは構わないけど、でも村の大人たちがもう森には行くなって言ってて……」

「そこは心配ない。森への立ち入りは、もう俺が許可を取っている。――だから頼む。俺たちに力を貸してくれないか」

 

 

 ******


 

「それじゃ、行ってきまーす!」

「くれぐれも気をつけて行ってきて下さい」


 村の入り口で見送るラナお姉さんに大きく手を振りながら、私は皆と一緒に森へと足を踏み入れる。

 魔物に襲われて以来久しぶりの森歩き。

 村の大人たちからわんぱくな娘だと称される所以か、自然を感じられる森はやっぱり私が大好きな場所なのだと再認識する。

 なによりも今日はお兄さんたちがいるから誰に文句を言われることなく大手を振って森を歩ける。

 あー、ここ最近ずっとこんな楽しいことばっかりだなぁ。

 

「今日はよろしくね、コレットちゃん。みんな頼りにしてるからね」

「まっかせてー! ちゃんと案内するから!」

 

 目的は森に生息している魔物の調査。

 昨夜、突然にお兄さんから森の案内をお願いされた時は驚いた。

 なんでも魔物に出会った場所を確認したいとのことで、最初声をかけられた時には正直ちょっと怖いなーと思ってしまった。

 だけど、真っ直ぐに私の顔に向けられたお兄さんの真剣な瞳に突き動かされてか、気が付いた時には頷いている自分がいた。

 心が動かされたと言えばいいのだろうか。

 お兄さんの真剣さに惹かれたこと、それに大人に何か頼られることへの嬉しさみたいなものが入り混じった複雑な感情が私の不安を期待へと塗り替えていく。

 あるいは、そう。これは未知の世界に踏み出すことへの期待なのだ。

 オルツと護衛を任されたお兄さん。それにルナお姉ちゃんと、お姉ちゃん。

 私を含めて五人で一緒になって森をまっすぐ進んでいく姿は、側から見れば私が望んでやまなかった光景のはずだ。

 そうだ! これだよこれ!

 先頭を歩くのがルナお姉ちゃん。その後ろに私がいて左右にはお姉ちゃんとお兄さんが、そして最後尾にはオルツが位置取っている。


 そうだなぁ。

 イメージでは長剣を腰に差すルナお姉ちゃんが『剣士』で、同じように短剣を腰に差すお兄さんが……うーん、『盗賊』?。

 それで剣を片手に歩くお姉ちゃんも『剣士』で、短剣を二つ用意しているオルツは『戦士』。

 うんバッチリだ!

 あー、これぞまさに冒険者パーティ。

 大人になったらいつか旅に出るんだと声を大にして話をした時にはみんなに笑われたものだけど、こうして願いが叶ってみるとなおのこと胸に秘めていたはずの願望が強さを増していく。

 うん。やっぱり私、いつか旅に出てみたい。

 今日森から帰ってまた皆でご飯を食べる時、お兄さんとルナお姉ちゃんの旅の話を聞いてみよう。

 そう心に決めながら、私は目的地に向けて道案内を続けていく。



 ******



「……コレット、あなたこんな遠くまで来てたのね」

「え、えへへ」

 

 そうかー。これバレちゃうのかー。


 私はあの日の出来事に想いを馳せる。

 普段では村の外周から離れないように森の入り口付近を散歩するくらいしかしない私だったけど、あの時ばかりはその限りではなかった。

 元気がなかったお姉ちゃんに綺麗な花をプレゼントするため、私は森の奥深くへと足を踏み入れた結果、魔物との遭遇なんて思いもよらない展開が待ち受けていた。

 運よくお兄さんとルナお姉ちゃんに助けてもらうことが出来たけど、結果としてお姉ちゃんにも余計な心配をかけてしまった。

 うん。あれはしっかりと反省すべき出来事だった。

 

「アイシャさんとオルツはここがどの辺りとか分かるのか? 俺はもうお手上げなんだが」

「私もあまり……。そもそも森にはあまり立ち入りませんから」


 ふとお兄さんが辺りを見渡しながら質問を投げかけると、同じようにお姉ちゃんも周囲に視線を配り始める。

 たしかに慣れない土地で同じような光景ばかりが目に映ればそうなるに決まってる。私もそうだったわけだし。

 ただ一方で、オルツは余裕を覗かせながら近くに見える大岩に手を当てる。


「私は何度か森に踏み入っていますからこの辺りであれば。――実はポイントで目印なんかもつけているようにしてるんですよ。例えばこの大きな岩。どこかに文字が書かれていませんか?」

「……文字……あ、これか? 【東に進めばフウリン村】って書いてあるように見えるな」

「そうです。『魔法使い』さんはご存知ないでしょうが、フウリン村でギルドを利用する方にはこういった目印を参照に場所を把握するようにお伝えしています。何かあった時の地点確認の意味も込めて、ですね」


 オルツは岩に刻まれた文字を指でなぞりながらあたりを見渡す。

 実はこの話、私もこっそりとオルツから教わっていた。

 どうして教えてくれたのかは分からないけれど、もしかしたら私が時折村から抜け出して森で遊んでいることを知っていたのかもしれない。

 もしもの時に村に帰ることができるように。そんな願いを込めて教えてくれた、なんていうのは私の考えすぎかもしれないけど。


「で、コレット。あとどれくらいの距離があるんだい?」

「え、えーと。もう少し先かなー」


 指で頬を掻きながら視線を遠くへと向ける。

 うん。大丈夫。だってもう半分くらいは来たはずだから!

 そんなふうに自分自身を納得させる私をよそに、お姉ちゃんとオルツは疑いの色を浮かべた瞳でじーっとこちらを見つめてくる。

 一方でお兄さんとルナお姉ちゃん。

 こちらはこちらで何か別のことが気になっているのか二人だけでヒソヒソと会話をしている。

 んー何を話しているんだろう。

 悪いと思いつつも、ついひっそりと聞き耳を立ててみる。


「なぁ、あの木の根元に生えてる草、甘くて美味かったよなぁ」

「えー。私はどっちかといえばむしろ木の根っこの方が――」


 ほんと、何を話してるのかな。



 *******



「この辺りだと思うんだけどなぁ」


 到着したその場所は、特別な目印もないただの森の中。

 ただ、森奥深くあって一角が開けており、木々が陽の光を遮ることなく地面へと届いている。

 その明るさはシートでも広げればピクニックも出来そうなほど。

 私はそんな場所で足を止め、あたりを慎重に見渡す。


「うーん。ないかなー」

「どうかしたのコレット?」

「あー、うーんとねー」

 

 お姉ちゃんの問いかけに、私は返事をしながら、周辺に何か落ちていないか探し始める。

 例えば、お花を積もうと持ってきたバスケット。それと食べようと思っていたおにぎり。

 魔物に襲われた日、私が持ち歩いていた荷物がどこかに落ちていないかと探してみるも、どうやらそう簡単には見つからないらしい。

 まぁさすがにおにぎりはどうなっているか分からないけれど、お気に入りのバスケットは是非とも見つけたい。


「……うーん。ここじゃないのかなぁ」


 この辺りで魔物と出会って怖くて逃げ走って。

 その過程でいつバスケットを手放したのかは記憶に定かではないけれど、走り始めた時にはすでに地面に落としていたのではないかとあたりを付けていた。

 けど、やっぱり見つからない。

 ……勘違いだったのかぁ。


「……ん? これじゃないのか。コレットのバスケット」


 え、本当!?

 オルツの声に私は驚きと喜びで駆け寄る。

 

「え? あ! オルツ! それ! それ、私のバスケット!」


 オルツが掲げたのは木の皮で編まれたレース付きのバスケット。

 多少の汚れはあるものの、目立った破損は見当たらない。


「良かったぁ。これお気に入りだったから――あぁ、本当に見つけられるなんて」

「そうか。良かったな」

「うん!」


 あ、そうだ。

 念のためにバスケットの蓋を開けて見てみると、中に入っていたおにぎりは見事になくなっている。

 まぁそれはそうだよね。


「あはは、さすがにおにぎりは食べられちゃったみたい」

「……おにぎり?」

「うん。二つ入ってたんだけどバスケットの中身は空になってるから」


 バスケットが落ちていたという辺りを眺めても、おにぎりの痕跡は見当たらない。

 崩れて落ちている、というわけでもなさそうだし動物か魔物にでも食べられたのだろう。

 そう結論付けて顔を上げると、オルツとお兄さんが何かを感じとっている様子が目に留まる。

 

「どうかしたんですか?」


 お姉ちゃんが二人に問い掛けるが、お兄さんたちからは返事がない。

 二人は互いに視線を交わし、口を開く。

 

「……『魔法使い』さん。これはやはり――」


何かを確認しようとオルツが言葉を発したその時、一人静かだったルナお姉ちゃんが突如として声をあげる。


「マーくん。いるよ」


 いるよ。

 その一言が何を意味するのか、私は事前に教えられていた。

 

「数」

「両手の指よりは多いよ。正確には分からない」

「距離」

「分からないけど遠い。マーくんの射程範囲外」

「状況」

「こっちに気が付いてる。気取られないようにゆっくりと近づいてきてる」


 森の奥をじっと眺めるルナお姉ちゃんはそれだけ口にすると、次に状況判断を求めてお兄さんへと視線を向ける。

 ――魔物が迫ってきている

 その事実に、私は恐怖を感じずにはいられなかった。


「……思ったより数が多そうだな。オルツ、小道までどれくらい離れてるか分かるか?」

「それほど遠くはないかと。――逃げる選択肢はないのですか?」

「ない。見つけた以上、ここで退治する」


 その言葉を聞き覚悟を決めた表情を浮かべるオルツをよそに、お兄ちゃんはお姉ちゃんと私を順番に見る。


「アイシャさん。コレット。よく聞いてくれ。伝えていた通りこれから魔物を退治するために小道に場所を移す。コレットは先頭を走るルナに追いつくように必死で走れ。アイシャさんはその後ろを。オルツは俺と最後尾で、場合によっては足止めしながら小道まで誘導する」


 朝、事前にお兄さんからいくつか場面を想定した行動方針を聞いていた。

 この話はその内の一つで、魔物の数が多い場合は見晴らしの良い小道に誘い込みまとめて退治するという作戦。

 いわく最も想定できる場面だと言っていたお兄さんの考えは見事に的中したようだった。


「怖いか。コレット」

「え、な、なんで?」


 笑顔でなんでもないよと、そう伝えようとした私の方をお兄さんはポンと叩く。


「大丈夫。コレットは逃げるだけでいいんだ。魔物は俺たちがなんとかするから。あの日と同じ。なんも変わらねぇよ」


 あの日、私とお兄さんたちが出会った日。


「ねー。あの時魔物を退治したのは私なんですけどー」

「あ? 小せぇことを愚痴愚痴言うんじゃねぇよ。介抱したのは俺だからな」


 魔物に襲われてとても怖い思いをしたけれど。

 そうか、今はもう違うんだ。


「……お兄さん。私、全力で逃げるから。それで無事に家に帰ったら今度は私がお礼にお料理を作ってあげるから。――だから早く魔物なんてやっつけちゃってよねっ!」


 今度こそ心からの笑顔で、私はお兄さんにお願いをする。

 

「おうよ。それじゃあ今日は朝までパーティだな」


 それはとても意地の悪そうなニヤリ顔。

 お姉ちゃんとルナお姉ちゃん、それにオルツ。

 みんなも集まり、円になって手を重ねる。


「うしっ。そいじゃあいっちょやりますか」


 手に伝わる熱が恐怖を勇気に変える。

 そして、私の冒険はここから始まる。

X(旧Twitter)でAI画像による人物紹介をしてます。

興味があれば覗いてみてください。


https://twitter.com/202306Akinashi


************


本作と少しだけ世界観が交わる新作を執筆しております。


「魔法使いの花嫁たち」

https://ncode.syosetu.com/n3805id/


ややコメディ寄りの作風で、もし興味があればご一読ください。

※両作品を読まなければ理解できない話などは特に予定ありません。

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