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ポイント制勇者と名もなき魔法使い  作者: 春夏 冬
第一章 風の国【フウリン村】
13/15

11話:ギルド職員は真実を耳にする

「まず、最初に一つ。これは俺からの頼みというか、今から話す内容をひとまず信じて聞いてほしい」

「と、申しますと?」


 『魔法使い』さんが話し始めたとき、副ギルド長の瞳に鋭さが宿る。

 冒頭から信憑性に欠ける話を宣言されれば、彼女がそう反応するのも無理はない。

 だが、彼のこれから話す内容を考えれば、この前提条件を事前に飲み込んでもらう他ない。

 それだけこれからの話には疑わしき点が点在しているのだから。


「荒唐無稽と決めつけず、最後まで疑わずに聞いてほしいってことだ。頼む」

「……わかりました。その前提には従います。ただし、気になる点については適宜質問させていただきます。よろしいでしょうか」

「あぁ、質問は自由にしてくれ。感謝する」


 『魔法使い』さんは軽く頭を下げた後、それぞれに視線を配ったのち話を切り出す。


「では、本題に入るが――オルツ、例の地図を出してもらえるか」

「わかりました」


 彼の指示に従い、私はフウリン村周辺の地形図をテーブルに広げる。

 地形図の中央には円形の村が森に囲まれている様子が描かれており、西側端には【ニシカゼ】、北東には【ソヨカゼ村】の名前が記載されている。

 なお風の国の王都【カミカゼ】は、このフウリン村からソヨカゼ村の方向にさらに遠くに位置している。

 地形図の範囲には収まっていないため姿形は記載されていないが、矢印と文字で彼の国の方向が記されている。

 さて『魔法使い』さんはといえば、地図に手を伸ばすとフウリン村を指す。

 私たちの視線がその一点に集中したことを確認すると、彼は私たちの顔を見渡し口をひらく。


「早速本題に入るが、このフウリン村は魔物に襲われる危険が間近に迫っている。この会議は、その対策を練るためのものということを念頭に置いてほしい」


 副ギルド長とアイシャさん、そして私自身も、『魔法使い』さんの真剣な言葉に対し静かに頷く。

 その上で、副ギルド長は彼にさらなる説明を求めるべく手を挙げる。


「どうぞ」

「ありがとうございます。それでは、私が抱いている疑問についてお答えいただけますか?」


 次に彼女は地図に手を伸ばし、村を取り巻く森を指でなぞりつつ、視線を彼へと向ける。


「魔王が倒されて以来、この森では魔物の目撃例が著しく減少しました。それが最近では、まったく魔物の姿を見かけることがなくなってなり、また冒険者たちの調査でも魔物の痕跡は一切確認されていません。それにもかかわらず、突如魔物の大群が村を襲うとの情報がオルツさんから提供されておりますが、この情報の裏付けは何ですか?」


 この質問は自然で、理にかなったものである。

 私も彼からこの話を聞いた際には同じ疑念を抱いていた。

 一匹の魔物が見過ごされていたとして、それが村に襲いかかる可能性は理解できる。

 あるいは大型の魔物がたまたま捜索の目から逃れていた、なんて言われても一定の理解を示すことはできるだろう。

 だが、『魔法使い』さんの言によれば、状況はそれ以上のもので、突如として集団での襲撃が予測されている。

 それはまるで、何もないところから突然現れるような、不可解な魔物の集団の存在を示唆しており、副ギルド長も私もこの説明には首をかしげざるを得なかった。


「まぁ、そうだよな。――それについては、今から述べる二つの理由が原因として考えられる。そのうちの一つが魔物の生態に関する問題部分なんだが……なぁ副ギルド長さん。あんたは、魔物が仲間の数を増やす方法を知ってるか?」


『魔法使い』さんの問いかけに、副ギルド長は顎に手を添え深く思索し、やがて口を開く。


「それは生態にもよりますが、一般的には動物と同じように交尾、つまり繁殖することで子孫を増やす。それがあなたの言う数を増やすと言う結果につながるものと認識しております」


 私は脳裏にダークウルフという獣型の魔物を思い浮かべる。

 先日コレットが遭遇したその魔物は、副ギルド長の言うとおり子孫を増やすことやがて群れを形成すると記憶している。

 だがそれは彼の欲する答えではないことに、この場にいる全員が勘付いていた。


「あぁ、たしかにそれが一般的には正しい認識だ。だが例えば、魔物が仲間を増やす別の方法が存在する。そう考えたことはないか?」

「別の方法、ですか?」


 その提案は、少なくとも私にとってこれまでにな全く新しい考え方だった。

 初めて聞いた時には耳を疑った。

 魔物が仲間を増やす方法。そのほかの手段について。

 そもそも魔物の生態や退治の仕方については考えたことはあっても、そんな観点で物事を考えたことなどなかった。

 それは副ギルド長もアイシャさんも同様だったように見受けられる。

 顔を顰めつつ、彼女たちの視線は遠くを見つめている。

 まるで心がある一つの可能性に到達しながらも、その答えを受け入れがたく感じているかのように。

 なぜならそれは、あまりにも理不尽で受け入れ難い事実に他ならない。


「もう思い至ってるだろ。()()()()だよ。魔物ってのはな、何もしなくても勝手に生まれてくるもんなんだよ」

「待ってください! それはさすがに受け入れられません。そんな話、聞いたことがありません」


 副ギルド長は、その言葉を即座に否定する。

 彼女の顔には普段見せない苛立ちが浮かんでいる。

 まるでこの前の私と同じように。


「だから最初に話を信じてほしいと頼んだんだ。約束しただろ。俺の話を信じてくれと」

「それは理解していますが、しかし、この話はあまりにも非現実的で……!」


 私たちが所属するギルド協会は、その起源を正せば女神を信仰する聖教に由来する組織だ。

 そのためギルド協会は方針の一つとして女神への信仰を背景に、魔物の殲滅を使命として掲げてきた。


 かつて突如としてこの世界に現れた魔王とその配下の魔族たち。

 彼らは侵略者であり、人間の世界を脅かす存在である。

 それに対抗すべく、女神は人類に力と知恵を授けた。


 これは世界各地で語り継がれる伝説であり、この世界に生きる者の常識となっている。

 世界を人間の手に取り戻すため、勇者は魔王を討ち、人々は魔族と魔物と戦うことこそが使命である。

 そう教わって生きてきた私たちにとって、魔物が自然発生するという話は信じ難いものだった。

 それは、かの脅威が取り除かれることはないという衝撃の真実。

 現にギルドとは無縁のアイシャさんですらその表情に動揺の色を浮かべている。

 無理もない。彼女もまたこの場で初めてこの話を聞かされたのだろうから。

 ただ、彼女の瞳に疑念が浮かぶも、混乱を抱えつつも彼女は決意のこもった声で言葉を紡ぐ。


「……私は、あなたの言葉を信じようと思います。そうしなければ、この話は進まないのですよね?」


 あぁそうだ。そう呟く『魔法使い』さんの瞳に真剣さを感じながら、アイシャさんは深く息を吐き出し静かに頷く。


「ラナさん、私からもお願いします。今は『魔法使い』さんの話を信じてみましょう。それが難しければ、彼を信じる私を信じてください」

「ですが……」


 あまりの衝撃に言い淀むことしかできない副ギルド長に対し、アイシャさんもまた真剣な面持ちで彼女の意思へと語りかける。


「もし最後まで彼の話を信じることができなければ、その時は一緒にお酒を飲みましょう。『魔法使い』さんの奢りで、心が晴れるまで、朝まで一緒に過ごしましょう。笑い明かしましょう。――だから、どうかこの話を最後まで聞いていただけませんか?」


 アイシャさんの呼びかけに、副ギルド長はしばらく考え込む様子を見せるも、深くため息を吐くと搾り出すように口を開く。


「……当然、私は料理も所望しますよ」

「もちろんです。その時は『魔法使い』さんが美味しい料理を作ってくれます」


 アイシャさんの誠実なお願いに、副ギルド長は少し躊躇いつつも同意し、『魔法使い』さんに話を続けるよう促す。

 ありがとう。その一言を口にすると、彼はそのまま話を続ける。


「次に、これは俺の推測だが、おそらく魔物たちはこの辺りの森に潜んでいると考えられる」


 『魔法使い』さんは再び地形図へと手を伸ばし、フウリン村の西に広がる森を指でなぞると、大きな円を描くように示す。


「すみません、同じ質問をしてしまって恐縮ですが、その根拠を伺っても?」


 その問いかけに対し彼は首を縦に振ると、自分が西端に位置する【ニシカゼ】の街から【フウリン村】に辿り着くまでの話を語り始める。


 森に入ってから道に迷ってか彷徨い歩く羽目になったこと。

 その間、動物にも魔物に遭遇することなく、のちに一匹の大きなイノシシを目撃しただけであること。

 そして、その後にコレットを襲う魔物を退治したこと。


「今の話を踏まえた上で確認するが、森に動物が少ないのは魔物の影響という認識で正しいか?」

「ええ、その通りです。いつの頃からか森の中には多くの魔物が現れ、本来棲んでいた動物たちが次々と餌となり、やがて森から動物の姿は消えてしまいました」

「俺たちが遭遇したイノシシは?」

「おそらく外から森に入ってきたのかと」


 それがどう関係しているのか。

 疑念を浮かべたままの副ギルド長をよそに、『魔法使い』さんは話を続ける。


「今の話からするに、要は森に魔物の()()がいないってことがわかる。コレットを襲っていたダークウルフなんかは肉食に分類される魔物だ。当然餌がなけりゃ生きていけないだろ」


 そこまで口にすると、一度口を閉ざしたのち、彼は地形図の一点を指差す。


「そして、腹を空かせた奴らは餌を見つけたわけだ」

「……フウリン村、ですか」

 

 副ギルド長は思わず口に出して呟くも、すぐに否定するようにかぶりをふる。


「ですが、それならば今までだって機会はあったはず。それこそ昔はより多くの魔物が蔓延っていたのです。その時と何が――」

 

 そこまで口にすると、彼女はハッと何かに気がついたように口を閉ざす。


「……魔王」


 副ギルド長の呟きに、『魔法使い』さんは返事を返すことなく目を閉じる。

 その表情からは何も読み取れず、やがて少し間を空けると再び口を開く。


「調べればわかることだが、こと魔物の被害は以前よりも増加の傾向にある。魔物が強くなったわけはない。魔物がより人を襲うようになったからだ。――魔物は間違いなく凶暴性を増している」


 苦々しい表情見せつつ、そ彼は次に【フウリン村】の西側の森を指差す。


「土地勘のない俺たちにはどの辺りでコレットが襲われたのかは分からないが、それは村の西側の森で起きた出来事だってことは明確だ。ゆえに魔物はこの森のどこかにいる。それが俺の考えだ」


 副ギルド長は彼の指先をじっと眺め、再度確かめるように疑問を口にする。

 

「……例えばの話ですが、あなた方はコレットを襲った魔物を退治したと聞いています。その一匹だけが森に潜伏していたと言う可能性はないのですか?」


 それもまた至極当然の質問だった。

 対して彼は真面目な表情を崩すことなく、それは十分あり得る可能性だと意外にも肯定する意思を見せる。

 だが一方で、その上で魔物が群れをなして潜伏している可能性の方が高いとの考えを述べる。

 そして、その理由こそが彼が口にしたもう一つの理由に他ならないのだ。


 いわく、この世界には魔物を惹きつけてやまない体質の人間がいるのだということ。

 そして、この村にその体質を有するものが存在すること。


「……まさか、それは」

「あぁ、そうだ」


 フウリン村の村娘――コレット


 彼女は、魔物を惹きつけてしまう稀な人間だということを、彼は皆に説明する。

X(旧Twitter)でAI画像による人物紹介をしてます。

興味があれば覗いてみてください。


https://twitter.com/202306Akinashi


************


本作と少しだけ世界観が交わる新作を執筆しております。


「魔法使いの花嫁たち」

https://ncode.syosetu.com/n3805id/


ややコメディ寄りの作風で、もし興味があればご一読ください。

※両作品を読まなければ理解できない話などは特に予定ありません。

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