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桜の君  作者: 優灯
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物心ついたころから、私にはレンという許婚がいた。彼の家は私の家と同じ代々王家に仕える家臣の家柄だった。親同士とても仲が良く、家も近かったから私と彼はほとんど毎日を一緒に過ごしていた。彼はやんちゃな性格で屋敷を抜け出して山へ行ったり、大きな木に登ったり、お稽古をさぼったり、よく笑う自由な人だった。


ある日、彼の真似をして木に登った私は、下りられなくなってしまった。彼は私をおぶっておりようとして足を滑らし二人とも木から落ちてしまった。その時、彼は、私をかばい下敷きになった。私は無傷だったけど、彼は腕に枝が刺さり大けがをした。血まみれになった彼を見て私は怖くなって何もできなかった。誰か大人を呼びにいかないといけないのに、腰が抜けて動けない。ただ泣くだけの私に「ごめんね。大丈夫だから泣かないで」と、血だらけになりながら私を抱きかかえ、家に送り届けた。家にいた両親は血まみれになった私達をみて、慌てふためいた。すぐに医者を呼んでレンは手当を受けたけど傷口から菌が入り1週間高熱が続いた。見るからに衰弱していく彼だったけど、私に心配させないように大丈夫だと言って最後まで笑っていた。彼はいつもわたしを助けてくれた。自分を犠牲にして。いくら辛くても自分の弱さを私には見せなかった。その時負った腕の傷は、彼が成長しても消えなかった。その傷を見るたびに、彼を失う怖さを感じた。

「もう危ない目に合いませんように」私は何度も神様にお願いした。


私が14歳になった時、私とレンはあらためて結婚を約束した。家同士の政略結婚ではなく、自分達の意思で共に生きていこうと。大きな桜の木の下で、彼の腕に包まれながら私は幸せだった。レンが通う道場の子供たちが駆け寄ってきて私達はよく茶化された。みんなの笑い声が桜の花びらとともに舞い踊っていた。


そんな私達をよそに、そのころ国は戦争を始めようとしていた。父達は忙しく王宮に泊まり込む日が続いていた。私達は父達の仕事が落ち着いたら祝言をあげて一緒に暮らす予定だった。二人とも夫婦になれることを信じて、自分達にできることを精一杯した。彼は、日に日に忙しさを増す父親を助けたいと王宮に通い、父親のもとで働き出していた。彼と会える時間が減ってしまって少し寂しかったけど、私は、立派な淑女になるための稽古に励んでいた。毎日、日が沈むころ彼が王宮から戻ってくると私達は、あの桜の木の下でほんの少し二人だけの時間を過ごした。


そんなある日、王宮から帰ってきたレンは友人を連れていた。彼に私を紹介した。

「許嫁の椎愛(シイラ)だ」

シオンというその友人はレンとは違うタイプで、どこか寂し気な目をしていた。その夜は、レンとシオンを私の家へ招待し一緒に夕食を食べた。その日以来、レンはシオンをよく連れてくるようになった。

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