ボトルメール〜未来からのメッセージ〜
「つまらんねー、まち子姉ちゃんは部活じゃけー遊んでくれんし。優太はスイカ食べ過ぎてお腹こわしとるし」
とある海沿いの小さな漁師町に夏休みを利用して親戚の家に遊びに来ていたはなこだが、いとこ達と遊べず、暇をもて余し、一人漁港までやって来た。
いつもなら海に落ちたらいけんけえ近寄りんさんなよ!と叔母や父から口酸っぱくして言われている防波堤だが、他所の漁港では見ない形をしているので、日頃から近くで見てみたいと思っていた。
その欲求を満たすため、今日は叔母の目を盗み来てみたのだ。
戦時中、不足する金属のかわりにコンクリートを用いて建造されたいう船。その船で作られた防波堤のすぐ脇にプカプカと浮かぶビン状の物が、はなこの目に写った。
「あれ何なんじゃろ?」
プカプカと浮かぶビンのような物を、出掛けにこっそり拝借した虫取りの網で回収した。
「ビン?にしちゃあえらい軽いし、セルロイドにしゃ変なし、何なんじゃろ?」
あーでもないこーでもないとヘンテコなビンもどきを観察していたはなこの頭上に怒鳴り声が降ってきた。
「こりゃはなこ!そこは危ないけえ、近寄ったらいけん言うたじゃろ!はよ上がってきんさい!」
「は~い」
はなこを探しに来たらしい叔母にそう怒られ、はなこは、渋々と戻る。
その日の夜。あのボトルをはなこは、改めて観察していた。
中を見ると紙と種らしき物が入っていた。
はなこは、フタを開けた。
『これわ、ひまわりのたねです。おにわにうえてくさい。ひな』
ひらがなを覚えたての子が書いたのだろう鉛筆で書かれた文字は、グニャグニャだし、これはじゃなくてこれわになってるし、ひなの『な』の字は左右逆だし、下さいのつもりが、「くさい」になっている。
でも『ひな』が誰かにひまわりを見てほしくて書いたのは伝わった。
数十年後。はなこがあの日謎のボトルを拾った防波堤に、はなこの孫が来ていた。
「ひな、なんしょうるん?」
「んー秘密!」
ひなは、しーっと人指を立てて見せる。ひなの手には、あの日はなこが手にしていたボトル。中には、手紙とひまわりの種が入っていた。
ひなは、そのボトルをぽちゃんと海ヘ投げ入れた。
「こりゃあ!茂、ひな。あんたらなんしよるんね?
海に落ちたらいけんけえ近寄りんさんな言うたでしょうが!」
「えーだってひなが行こう行こう言うて、ワガママ言うんじゃもん」
「言い訳しんさんな!茂、こまい子じゃなかろう!
中学生なんじゃけ!もうちいとシャッキとしんさい!妹のワガママばっかり聞くんがええ兄貴じゃないんでよ!」
「兄ちゃん怒られようる〜」
「ひな!あんたもじゃ!ワガママ言うて、お兄ちゃん困らせたらなるまあがね!」
ガミガミと孫二人を説教しながら、はなこは、あの日の事をふと思い出す。
あのペットボトルはいつの時代から来たのだろうと。