四度目の人生は生き残りたい。~でも何故か変な方向に進んでいる
唐突に書きたくなった溺愛ものです。
あと中華要素をふんだんに盛り込んでみたかっただけです。
ギャグだと思っています。多分。
暇つぶしにどうぞ。
1400年前、今の皇族家であらせられる堰皇家が傍若無人の振る舞いをする悪神を討伐した。
堰皇家の行動に感銘を受けた黄龍は堰皇家に守護を与えた。
そして黄龍の家臣である四神も堰皇家の家臣である四家に守護を与えた。
北方守護の泉家には、玄武の守護が。
西方守護の釖家には、白虎の守護が。
東方守護の来家には、青龍の守護が。
そして、南方守護の炎家には、朱雀の守護が与えられた。
私の名前は炎 朱夏。
炎家の当主の姪という、朱雀の守護を多すぎず少なすぎず受けられる、まぁまぁいいポジションだとか思うでしょう?
まぁまぁ、いいポジションだとか思うでしょう?
私が未来を知っていなければそうなんだろうな、と思った。
はぁ、と私は小さくため息を吐いた。
これで4度目の盗み聞き。毎回ここで思い出すのだ。
『やはり、結界が弱まっているのですね……。』
伯母の震える声で放たれた言葉。
『ああ……あと十年持つか分からない、と朱雀より告げられた。』
『生贄を……出さねばならないのですね……。』
『ああ……まさか保険の為に生かしていた朱夏を使う日が来るとは……。』
ああ、全く同じ言葉だ。伯父も伯母も私を保険として育てたのだと見を持って知ってしまった。優しい態度も、家族だと思っていたのも、私だけだと思い知った。
1度目は聞かなかったことにした。
すると、私は寝ている間に薬で眠らされて、起きたときにはこの世の物とは思えないモノに飲まれていた。
そして、そのモノに食べられて死んだようだった。
2度目はその場で自分から行くと言った。
すると、今度はそのモノが私を可愛がりだした。反応がなかったのがつまらなかったらしい。でも、感情を出すようになったら、そのモノは私を食べた。
要するに、憎しみを宿した目を見たいとかなんとか。
3度目は嫌だと叫んだ。まぁ、その場で強制的に連れて行かれる私。憎しみの目?は速攻クリアしたらしくパクリ。
で、現在四度目。
また、盗み聞きで記憶が戻った。
今度はどうするべき?
流石に疲れた。まぁ、何回も死にたくないけどどうするべきだろうか?
まぁ、思い立ったら即行動しないと、また同じ運命を辿るのだろうと思った。
まずゆっくりと自分の部屋に戻った。寝台の隣に置いてある鏡台。その引き出しには実の両親が残してくれた宝具と、宝剣がある。この宝具は物理的に身を守ってくれるし、宝剣は見た目はイヤリングだが、私の意思でちゃんとした武器となる。両方とも朱雀の加護を受けて作られたものだ。
それを装着して、そして普段の訓練のときに着る男物の服に着替えた。炎一族の証とも云える赤い髪。それをまとめ上げて、窓から外にとび出た。擁壁を超えて、向かう先は国境。
もはや、戦わずして生贄を選ぶような国は捨てる。ひとつ、寄って行きたい場所にまずは向かった。
朱雀の霊廟。
そして、私の両親の墓がある場所だ。一応、両親には挨拶してから出ていこうとした。霊廟に入れば、今まで一度も起きなかったことが起きた。
ボワっと勢い良く燃え上がる霊廟。そして、炎がやがて鳥の形を作っていく。
『やはり、加護はお前に与えるべきだったな、朱夏。』
「……朱雀?」
バサリ、バサリと羽ばたく音を響かせて、その火の鳥は霊廟の祠、そこに足をかけて止まった。
『我は何度も炎家の当主達に四凶を滅ぼせ、と言った。だが、炎家の当主達は戦いを恐れて生贄を出す道を選ぶのだ。お前の両親は戦おうとしたが、今の当主夫妻に眠らせれて、そして生贄となった。』
急展開で「はっ?」である。
え、なんだって?
つまるところ、伯父伯母夫婦に私の両親殺されたということ?
「……色々聞きたいのですが、とりあえず、朱雀は四凶を滅することを望んでいた、って解釈でよろしいですか?」
『その通りだ。お前に覚悟があるなら、当主に与えている加護を外し、お前に加護を送ろう。』
当主の加護を私にくれる。つまるところ、その加護を持つものが、炎家の当主となる。
うん、美味しい話だ。
え、でも裏があるのかな?
そんな疑いの目を朱雀に向けていたが、朱雀が冷や汗をかくような表情を浮かべた。
見た目が火の鳥だけれども、目が泳いでいた。
「……なんか、裏あります?」
『いや、急に四凶の1柱の気配が消えた。』
「もっと、簡潔に、わかりやすくお願いします!」
私の言葉に朱雀は飽きれたように大きな溜息を吐いた。
『お前、本当に父親に似ておるな。儂だって好きでこんな固っ苦しい話し方をしているわけでない!
で、簡潔に言うと、この地方に封印された四凶の1柱が死んだっぽい。』
「おーと、急にフランクになりましたね!で、四凶が死んで……は?」
四凶が死んだ。つまるところ、何年も、いや、1400年もこの土地を苦しめ続けた厄災の神が死んだ。って解釈ですよね?
『その解釈で間違いない。』
「あれ、声に出てました?」
『儂、これでも神獣。心ぐらい読める。』
「なるほど。」
えー、じゃあエロいこととか考えたらまずい系?まぁ、思いつくのは従兄弟のストリップぐらいだけど?
『下手なことを考えるでない。あと、男も女も脱いだところで儂は興味ない。』
「あ、マジっすか?」
『話を戻すが、この際に朱夏、お前に加護をやろう。そして、当主夫婦が我が命に背いた事を伝えて、放逐するがいい。』
「朱雀、もしかして、めちゃくちゃ怒ってます?」
『無論。激おこだ。』
「なるほど。」
なんか、朱雀と話していると懐かしい気分になった。なんだか、父親の口調と似ているのだ。
『まぁ、そういうわけだ、儂の加護をお前に……』
「それは困るな?」
突然響いた第三者の声。驚いて振り返れば男がこちらに向かって歩いてきていた。ついでに、ズリッ、ズリッっと何かを引きずる音もする。
「初めまして、朱雀。」
段々とその姿が明確に見えてきた。白銀の髪に、青い瞳。武人らしく作り上げられた体は、炎家の男たちよりも頭一つほど大きいのではないかと思う。
『泉 蒼月。玄武の次代の加護を受けるものか。』
「はい、朱雀。で、こちらが貴方の加護を次代で受けるものですよ。」
その瞬間、ボンッと思いっきり転がらされたのは真紅の髪の男。どうやら気絶したらしく、私と同じ橙色の瞳は閉じられている。
『……朱橋が血まみれではないか?』
炎 朱橋。私の従兄弟でつまるところ先程まで出ていた伯父伯母夫婦の息子だ。
「ええ、先程まで私とともに四凶と戦っておりましたので。」
『……そのようだな。しかも二人だけで討伐したのだな。』
「ええ、幼い頃より連携を取り続けた朱橋だからこそ、可能でした。朱橋は次代の加護を受けるものとしては過不足ないと思いますが?」
『……何故、朱夏が当主となるのを止めたいのだ?』
「おや、無粋なことを聞きますね?貴方は私の心を読んでいるはずだ。私は朱夏が欲しいのです。その為には彼女が当主になると困るのです。」
『……クソデカ重量級か。』
「いや、どういう意味ですか、朱雀。というか、泉 蒼月様は何故ここに?あと朱橋兄様はなんで伸びているのですか?」
「初めて貴女に名前を呼ばれましたが、出来れば『蒼月』と、お呼びください。貴女を手に入れるために今日は頑張ったのです。そのぐらいのご褒美を頂きたいものです。」
いや、答えになってないよ?
そして、何故か蒼月様に私はガッチリと抱擁された。
何事?
いやいや、何で?
それこそ、恋人にやるような手つきで、腰あたりを撫でられる。ゾワゾワっとする不思議な感覚が身体を走り抜けて行った。
「えっ、ちょっ、蒼月様?」
「ですから、蒼月、です。」
「えっと、蒼月?」
「はい、何でしょう、朱夏。」
そのまま見上げた顔はうっとりとした甘い視線で私を見ている。
いや、だから何事?
「何故、私は抱きしめられているのですか?」
「貴女を体温がある状態で抱きしめたのは初めてでして、今、色々と抑えているところです。」
「うん?」
「しばらくはこのままでいさせてください。」
よく分からないが、そこから暫く抱擁されたままだった。
Side 朱雀
のぞいてはいけない人の心というものも存在するが、今まさに、儂はそれを見てしまった。
炎 朱夏は私が特別目をかけた炎家の娘だ。
何故と聞かれれば彼女がアイツの娘であったから。今までの炎家の人間とは違う、神を殺す覚悟を持った男の娘。
だが、アイツは謀殺された。
何故殺されたかは知っている。
だが、儂が『個人的な恨み』で加護を消すことはできなかった。
だから、次代、朱夏に加護を与えるつもりでいた。
が、まさかこんなことになるとは。
目の前で、泉の坊主に抱き締められて硬直する朱夏。抵抗するたびに、泉の坊主はヤバイ感情を心の中で浮かべていた。
どうやら、坊主は6度目の人生らしい。
そして、過去に5回、朱夏の死体を抱きしめて泣き叫んでいた。
そうか、坊主の番が朱夏なのだ。
そう解釈すればすぐに坊主の行動は理解できた。
どうにか朱夏を失わないで、なおかつ、朱夏を自分のもとに連れていけるように、朱橋まで巻き込んだ。まぁ、坊主の記憶を読めば、朱橋もまた、必死で『神殺し』をしたらしい。
とんだ食わせ者の坊主だ。
「………ぅん。って、朱雀?」
パチリと目を開けたのは朱橋。今の当主夫婦とは似ても似つかない勇敢な子供だ。儂は、彼は彼で気に入っている。
『起きたか朱橋。よくやったな。泉の坊主にいっぱい食わされたのは癪だが、次代の加護はお主に渡そう。』
「あ、ならすぐに貰えませんか?両親は炎家の当主としてはダメです。すぐに幽閉しますんで、サクッと終わらせたいんで、早めに貰いたいです。」
『……潔すぎないか?』
「いや、両親を殺させないための措置ですよ。もし、俺が継がずにいれば、両親はアイツに殺されますからね。」
はぁ、とため息を吐きながら朱橋は目の前に視線を向けた。同じように視線を向けた先で、泉の坊主の頭の中をのぞいてしまった。
エロイの見てもなんとも思わないが、流石に生まれたての頃から見ていた娘にアレヤコレヤしている想像?妄想?は見たいものではない。
儂だって流石にきつい。
誰だって孫がホニャララされるところなど想像したくないだろう。
「あれヤバいな。蒼月のやつ」
『うむ、覗きたくもない。坊主の妄想が酷い。』
「え、頭の中もヤバイのか?まぁいいや、とりあえず、朱夏一人が生贄で済むなら俺はいい。むしろ、巻き込まれたらと考えたらゾッとする。」
そんなことを言いながら、朱橋は遠い目をした。
孫みたいな娘が幸せに(?)なるならば、まあいいか、と思うことにした。