魔女との邂逅①
クロと別れ王宮を後にし、軽快な足取りで街へと下る。
今日は色々なことがあったなあ。野良猫に追い回され、王宮で奇妙な猫と出会い、魔法を見た。その上、文字が読めるようになってしまったのだから、今日1日で10年分の冒険をしたくらいの気持ちだ。高揚感がおさまらない。
「屋敷でお嬢様が心配してるっていうのに、私ってばこんなにわくわくしてる」
私がいないとわかってきっと屋敷中、いや領土中を捜索したに違いない。もう深夜になるが、まだ眠れぬ夜を過ごしているかも。…お嬢様、リリは悪い子です。
「近道するしかないわね」
街に入り、入り組んだ路地ヘと入っていく。迷子にならないよう慎重に。そういえば、シルバはどうしただろうか?元はと言えば、あの野良猫のせいで散々な目にあったのだ。私を見れば交尾交尾!!なんて下品で低俗なのか。少しはクロを見習って欲しい。
「やだな。私ってば、またクロのこと考えてる…」
貴族の猫との交流は度々あるのだ。貴族のお嬢様というのはやたらとお茶会を開くのが好きで、飼い猫を連れていくことも多い。猫がステータスの一部でもあるので、猫の自慢話なんかもよくしている。私は自分で言うのもなんだが、そこそこイケてる美少女猫なので、求婚されることも多かったりする。
「貴族のお屋敷でぬくぬく育って、猫の社交会でモテる人生を歩んできた私が、こんな気持ちになったのは初めてなんだからね!!!!」
と、意味もなく叫んでみる。最初はただの貴族のオレ様猫だろうと思ったが、優しくて、素直で、ちょっと強引で…寂しそうだった。
「また来週、会えるもんね。………ん?なんだろうこの空気」
唐突に周囲の匂いが変わった。自分の毛が一斉に逆立つようなやばい感覚。目の前に靄がかかったような、ふわふわしたような…
「そこのお前、匂うな」
「……?!?!」
耳元で突然声がした。慌てて周囲を見渡すが、何も見えない。
「お前から、アイツの魔力の匂いがする。」
「アイツ?…あ、あなたは誰?姿を見せなさいよ!!!」
「ふふ、強気なメス猫よのお…」