白と黒⑦
もし、お嬢様と会話ができたら毎日が楽しいだろうな。お嬢様の悩み相談を聞いたり、女子同士っぽく恋バナなんかもしちゃって…。と、恋バナのことを考えたところで、ふとクロの顔がよぎったので慌てて妄想を掻き消した。なんでここでクロの顔が浮かぶのよ!さっき会ったばかりのオレ様猫のことなんて。
「どうした、怖い顔をして」
「な、なんでもない!!!」
「変なやつだな…」
「あ、ね…ねえ!この絵本はなあに?!」
クロに突っ込まれて慌てて話題を切り替える。ベッドの上に散乱している、難しそうな歴史の本の中に、一冊の絵本があった。
「これはこの国に伝わってる童話だな。魔女がいた頃の昔話だと言われている」
「へえ!なになに…昔々、この国には魔女が住んでいました。魔女は不思議な力を持ち、病気を治すことが出来たので、人々は流行病に怯えることがなくなりました。ある時、新しい王様が誕生しました。王様は強大な力を持つ魔女を恐れて、魔女を皆殺しにするよう人々に命じました。最後の魔女が死んだ時、魔女の使い魔の猫が王様に向かって言いました。「王様、全ての魔女は死にました。殺された魔女の恨みを忘れないで下さい」そして猫が呪文を唱えると、王様は猫にされてしまいました。………え?!これでおわり?王様はどうなっちゃったの!?」
「まあ、そのまま猫の王様として君臨したとか、使い魔の猫が国を乗っ取ったとか、諸説ありだな」
「ええー…」
この国に魔女がいたっていうのは知ってたけど、そういえばそれ以外の歴史ってあんまり知らないや。クロに外の世界を見せる!なんて言ったけど、私ってクロより知らないことが多いかも。
「クロって物知りなのね。なんだか自分が恥ずかしい…」
クロが私を見てきょとんとする。
「何も恥じることはないだろう。俺はこの王宮を出たことなんて数える程しかない。外の世界を知っているお前が羨ましいと思っている」
その真面目なトーンにドキリとしてしまった。
「そんなの、いつでも私が連れ出しにきてやるわよ」
「気長に待つとしよう。だが俺は夜しか動くことが出来ないからな。それに昼は警備が厳しい。お前がもし見つかったら害獣と間違われて殺されるかもしれん」
「害獣?!そんな殺され方まっぴらごめんだわ…。じゃあ来週、日が沈んだらここに迎えに来る」
まるで人間みたいな約束ね。なんだかすごくドキドキしてソワソワする。
「私、そろそろ帰らないと。日が登るまでに屋敷に着きたいわ」
「そうか。正門から北に向かうとプルシェの街に出る。街に出た後はわかるな?」
「ええ!ありがとう」
帰るのは少し名残惜しかったが、また来週クロに会える。その約束で心が弾んだ。