白と黒③
別にクロって名前がダサいって言ってるわけじゃない。まあ王宮のペットにしてはちょっと雑な名前だなって思ったり…。
この国では、猫はただのペットとしてではなく、国のシンボルとして扱われている。立派な血統の猫はそこそこ広くて良い家が一軒建てられる程の値がするし、どんな猫を飼っているかが貴族のステータスでもあるのだ。かくいう私も立派な血統書の持ち主である。
「ねえ、クロは王宮のペットなの?」
「ここは俺の家のようなものだ」
クロがフンっと鼻を鳴らしながら言った。これが人間だったら、腕を組んでふんぞり返っていただろう。
「ふーん?あなた、さぞかし甘やかされて育ったのねえ…」
貴族の飼い猫の中にはデカい態度の猫もいるしね、そうなっちゃうのもわかるんだけど…。なにしろここがこの国の頂点。猫界のNO.1ってことよ。
でもだからこそ、勿体ない。
「お前、さっきから失礼だぞ。見たところどこかの貴族の家の猫だろうが、躾がなってないな」
「あのねえ!あなたのその態度の方が失礼だからね?!初対面のレディに向かって!!」
「レディ…??ただのメス猫じゃないか」
「な…?!?」
こいつ…。わかった、わかったわよ。さては友達もいないわね。王宮の猫と交流のある猫なんて聞いたことないもの。
「はあ、クロ。あなた外の世界を知らないんじゃない?お姉さんがあなたに外の世界がなんたるかを教えてあげるわ!」
「外の世界…?」
ピクリとクロの耳が動いた。
「そうよ。外の世界はすごいんだから!私も貴族のお屋敷に住んでるからね、外の世界を知らないクロの気持ちもわかるの。初めて街に出たとき、こんなに世界は広くて、私の知らないことで溢れてるんだってワクワクした」
「ほお…」
クロの耳が今度は2回ピクピクっと動いた。
「街の今の流行りは色んなフルーツに水飴がかかったスイーツでね、見た目もすごく可愛いのよ!子供たちがキラキラした目でそのスイーツを眺めてる。カップル達はね、露店で買った食べ物を持って広場に行くの。楽しそうに話しながら食べ物を食べて、たまに野良猫にも分けてくれたりもしてね、私ももらっちゃった!あれは美味しかった…」
ぐうううううううう
やばい、思い出したらお腹の音が…。というか、昼も夜も何も食べずに歩き通しだった…。
クロは私の腹の音を聞いて目をまん丸くしている。
「………ハハッ」
クロが笑う。うう、恥ずかしい…。
「腹が減っているのか?ついてこい」
クククと笑いながら、クロが王宮に向かって走り出した。