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白と黒②

全速力でダッシュして逃げるも、発情期の野良猫のパワーたるや…。あちらは毎日盗みで鍛えた自慢の足腰、かたやこちらは貴族の屋敷でぬくぬく暮らす美少女猫な訳で。


「つ、疲れた…もう無理…ここどこ…」


ハァハァと全身で息をしながら空を見上げると、既に夕暮れになっていた。オレンジ色の空が鮮やかで、街の人達の顔も空の色に染まっている。


「まずい、道に迷った?」


外に出るのは月に数回、しかも限られた時間のみ。それに、こんな時間まで外に出ていたのは初めてだ。


「どうしよう、もうお嬢様が屋敷に帰って来てるはず。早く帰らないと…」


昔、一度だけお嬢様より遅く帰ってしまった時があった。まだ幼かったお嬢様は、泣くわ喚くわ物は壊すわでそれはもう大変だったと言う。

お嬢様は今でも私のことを大切にしてくれていて、学園で何があったとか、婚約者とこんなお話をしたとか、まるで親友に話すかのように色んなことをお話してくれる。


「お嬢様、すぐに帰りますからね」


首に巻いているリボンをそっと撫でて、一歩を踏み出した。



ーーーーーーーーー…


「やばいやばいやばい」


やばい!まずい!どうしよう!帰り道が全くもってわからない。辺りは暗くなり、ますます街並みもわかりづらくなっている。このままだと本当に野良猫になって、シルバと結婚…なんて。


「絶対いや!!!!!!」


疲れた身体に鞭打って、再び歩き出す。


「うーん?なんかずっと同じところを歩いてるような気がする」


どこまでも続く立派な造りの塀。しかも高すぎて登ることができない。

しばらく塀に沿って歩いていると、門が見えて来た。門の隙間からなら入れそうだ。


「すごいお屋敷…。というかお城?もしかして王宮まで来ちゃったのかなあ…ん?」


塀の中で小さな黒い影が動いたのが見えた。門の隙間から見えただけだが、動物の影だったように思う。


「猫?犬?ここに飼われてるペットかな。どちらにしろ、あの子に道を聞こう」


もう一日中歩き通してクタクタだ。こんな街中で寝てしまったら、いつ野良猫に犯されるかわかったもんじゃない。屋敷に戻るにもかなり距離があるだろうし、この中で隠れて休憩するのが安全そうだ。


屈強な門番が2人、眠そうな顔をして立っているが、問題ないだろう。

1人の門番があくびをしている隙に、門の隙間からスルリと入り込む。


「どこに行ったんだろう」


キョロキョロとあたりを見回しながら、先程の影が消えていった方向へ歩き出す。

どうやらここは王宮の庭のようだ。たくさんの花壇にありとあらゆる花が咲いている。綺麗に手入れがされており、中には見たこともない薬草もあった。


「あ、この花知ってる…」


名前はわからないが、屋敷で見たことのある花だ。時期になると真っ赤な薔薇のような花を咲かせるが、棘はない。確か、お嬢様の婚約者が贈ってくれたものだと聞いた。


「おい、ここで何をしている」


「?!」


突然後ろから声をかけられ、ビクッと震える。

低く凛とした声、なんて冷たいー…。

恐る恐る振り向くと、漆黒の猫が金色の瞳をこちらへ真っ直ぐに向けていた。


「もしかしてさっきの…?あの、実は迷子になってしまって!ここは王宮ですか?!私、ウィーブル伯爵領に行きたいのですが!!」


「出会い頭にピーピーうるさい猫だな…。人に物を聞くときは、まずは名前を名乗るのが礼儀だろう??」


黒猫はなんだコイツ、と言う目でこちらを見ている。まるで人間のような事を言う猫だ。人ではなく猫だし、ピーピーと言うよりにゃーにゃーだと思うが。


「失礼しました。私はリリアーナ!リリって呼んでください。あなたのお名前は?」


「俺はアー…………………クロだ」


「お高くとまってる割には意外と安直な名前なのね。もしかして野良出身?」


「誰が野良だ!!!無礼者!!!」


クロの尻尾がピシッと地面を叩く。よくよく見ると、きちんと手入れの行き届いているツヤツヤの毛に、キリッとした形のいい瞳。お高い物言いが気になるが、このオス猫、猫界ではかなりのイケメン物件…

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