白と黒①
「久しぶりの外だ!!」
良いお天気。外に出るのは何週間ぶりだろうか。
街の露店エリアを歩きながら辺りを見渡す。
「美味しそうなものばっかりで涎が出ちゃう…」
串に刺さったお肉は表面がパリッとしているけど弾力がありそう。きっと噛んだ瞬間に肉汁がじゅわっと広がる。
その隣には果物を水飴でコーティングした甘味が売っていて若い子達が群がっており、女子たちが様々な種類の果物を持ってはしゃいでいた。
「いいなあ、私も食べたいよ。なんで人間の食べ物ってあんなに美味しそうなものばっかりなんだろう」
ゴクリと喉を鳴らしながら歩いていると、食べものの良い匂いに紛れてドブのような異臭が混じってきた。嫌な予感がして来た道を戻る。早足で嫌な臭いから遠ざかろうとしているのに、鼻をつく嫌な臭いが全然離れない。
「リリ!!!」
あ、嫌な予感が的中した。
名前を呼ばれ、ギギギ、と軋む首で振り向くと、そこには汚れに汚れて泥だらけの小汚い野良猫がいた。ついでに毛はギシギシ、顔は傷だらけ。
「リリ!久しぶりだな!!いつ見ても汚れひとつない純白の毛、サラサラの美しい毛並み!ブルーの瞳はまるで宝石のよう!!今日こそ俺と子作りしよう!!」
「うるさい、小汚い野良猫め!誰がお前と子作りなんてするか!!!」
そう、私達は猫である。
「お前になかなか会えなくて寂しかったんだぞ。金持ちの家の猫も大変だよな、俺と結婚すればいつでも街の中を自由に駆け回って好きなものも好きなだけ食えるぞ!!」
「断固としてお断りします。それに食べ物は全部盗んでるだけじゃない…。あんたみたいな野蛮な野良猫なんてまっぴらごめんよ!!」
「お前とかあんたじゃなくて、シルバ!だ!!街の子供が最近俺に名前をつけてくれたんだ。かっこいいだろ」
「…ふぅん…」
街の子と仲良くしてるなんて羨ましい、と素直に感心してしまった。私の世界は貴族の豪華な家の中が全て。街に出られるのも、飼い主であるお嬢様が許嫁の元に足を運ぶために出掛けられた時にこっそり抜け出すだけ。
「やっと俺の魅力に気づいたか?!そんなリリに朗報がある!!」
「…人の…いや猫の話をちゃんと聞けって…」
「なんと!!俺は今発情期だ!!!!」
私の言葉をなにもかも遮って、野良猫、いやシルバが突進して来る。
「い、いやああああーーーーー!!!!!」