表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才たちの開幕劇  作者: 桜の木の下
1/1

序章 御伽みたいな話

ヒトは決して強いわけではない。

ただ、見たくないものは目を瞑り、聞きたくないことは耳を塞ぎ、思い出したくない過去に蓋をして。

それでも、「強さが欲しい」って初めて思うのは、自分じゃない誰かのためで。

誰かのために生きる人は強い。

でもその反面、その強さはすぐ壊れやすい。

外側の痛みに耐えながら、内側の痛みへの争い方を知らないのは、一流とは呼べないのだ。




人は人に帰る。

だから、突然に友人が欲しくなったのは、決して自身の弱さ故ではなくて。


「…すごく行きたくないんだけど。」


「そう仰らずに。きっと良いことがありますよ。」


連れて行かれたのは、何処かの会社のパーティー。

社交辞令として、こちらからも出席しなければならないことになった。

世界有数の大財閥にして、名家・姫野家の現当主は、16歳の少女、姫野呉亜。

幼くして両親を亡くし、今は広い屋敷の中、お手伝いの人たちと暮らしている。

学生は勉強が本分だ。

姫野財閥の会長の仕事は、代わりに八城相談役が勤めている。

だから、彼女に頼まれたからには断れないのだ。


「気を落とさないでください、すぐ終わりますよ。」


「…」


礼服に着替えさせられ、車に乗せられ。

少しずつ会場に近づいていく。

先ほどから隣で話をしてくれているのは、近侍であり幼馴染であり、親友でもある平塚美雪だ。

年は自分とたいして離れておらず、17歳という若さで使用人筆頭でもある。

それほどまでに優秀な彼女を一使用人に留めておくのは勿体無い。

将来、どこかの会社を任せてみても悪くはないのでは、というのが最近の呉亜の考えだ。


「厄介なのに絡まれないといいけどね。」


パーティーに出席した結果なんて、目に見えている。

有名財閥の身内を狙い、多くの人物が言い寄ってくるのだ。

まだ子供だから、押せば断られないとでも思われているのだろうか。

だとしたら、非常に不服だ。

ともかく、縁談なんて、まだ早い。

これは相談役の八城さんの意見でもあり、自分の本音でもある。

前回はIT会社社長の息子を名乗る人物にしつこく付き纏われた。

当然、姫野財閥次期会長の座を狙って、である。

強く反発すればイメージに傷がつくし、かといってされるがままなのは生理的にも理論的にも勘弁だ。

一度、犯罪スレスレまで行き、相手側の御家が没落したこともあったっけ。

そんなことを思い返しながら、また一つため息をついた。




着いた会場は、主催者の別荘だという。

無駄に豪勢に装飾を施されたその建物は、正直に言って気味が悪い。

ただ持ち主の財力を見せつけるためだけにあるその建築物やインテリアは、作る側が可哀想という感想さえ抱かせる趣味の悪さだ。

無論、そんな様子は噯気にも出さないが。


「姫野家当主・姫野呉亜と申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます。」


決まり文句を主催者への挨拶とし、すぐに撤退する。

息子をそちらに、などと言われては笑えない。

とりあえず会場の目立たない端に寄り、話しかけられた時だけ返事をしようと決めた。

本日の呉亜の礼服は、白と黒をベースとした落ち着いたパーティードレス。

令嬢という立場ならもう少し華やかにといったところだが、あくまで自身は『当主』としての参加だ。

年相応な格好など、できるはずがない。

しかし、こうして大人しくしていれば、存外話しかけられないものだ。

やはり有名な人物同士での会話が多い。

未成年ということでメディアへの出演は控えている呉亜だ。

姿を見ただけで、大規模財閥のトップだと気づく者はほとんどいない。

精々、こういった会場に慣れていない成金会社の小娘とでも思っていそうで少し腹が立つ。

存外舐められているものだな、と。

もちろんみんながみんな、残念な人物ではないことは承知している。

ただ、今回の主催者が主催者なだけに、似た者同士が集まっているのだ。

面白そうな人物には会えなさそうだと、少し残念にも思った。




姫野呉亜は天才だ。

幼い頃から周囲には将来を楽しみにされた。

物覚えも良く、気心も落ち着いており、いかにもこうした職に向いているものだと、よく褒められた。

まだ両親がいた頃は、英才教育とも呼べるそれに、毎日頑張って知識と技術を詰め込んだ。

姫野呉亜は、人工的な天才なのだ。

世の中には2種類の天才があるというのが、呉亜の持論だ。

一つ目は、素の頭が良く、すぐになんでもこなせるタイプ。

これを、『自然的な天才』とする。

そうなれば二つ目は、自身のような、並ならぬ努力をして初めて天才となる、『人工的な天才』ということだ。

呉亜は多くの知識や技術を与えてくれた両親には、大変感謝している。

ただ、そのせいで歳の近い者から遠巻きにされてしまうのは、仕方のないことなのかもしれない。

天は二物を与えてくれたりはしないのだ。

努力の才能に見舞われた呉亜は、結局今の今まで友人と呼べるのは、似た立場のとある人物と、平塚だけなのだ。


「失礼、お嬢さま。こちらは如何ですか?」


「っ⁈」


全く気づかなかった。

相手は、背後から声をかけてきた。

自分にその気配を悟らせずに、だ。

教育の中には、当然こうして気配を探り、身を守るための術も含まれている。

そしてそれを呉亜も、確かに身につけた。

それこそ、世界規模のスパイにでもなれるレベルで、だ。

そんな呉亜に、全く気配を気づかれなかった。

声をかけてきたのは、自分より少し背の高い男性。

呉亜の身長は165センチなので、170ほどだ。

そして、かなり若い。

それも、自身と同じほど。

タキシードを着こなした彼はお盆を片手に、こちらに飲み物を差し出してきた。


「え、えぇ、ありがとう。いただくわ。」


恐る恐る手を伸ばし、受け取る。

当然、すぐに飲むような真似はしない。

気配を操れる相手の差し出すものなんて、はっきりいって信用ならない。

力量の勝る相手には、常に気を抜いてはならないのが重要だ。

男性は、呉亜の言葉に笑顔を見せた後、すぐにまた別の場所へ向かった。

どうやら、飲み物を配っているようだ。

執事…いや、あの気配の操り方は、どちらかというとボディーガードの方が向いていそうだ。

さて、この飲み物はどうしたものか。

現在近くに身内はいない。

飲むかーーいや、そんな気の抜けたことはしてはいけない。

姫野家の唯一の生き残りである呉亜を狙う人物は多い。

迂闊な真似は、してはいけない。

あの男性には悪いが、これは処分させてもらおう。

意味がないかもしれないが、気休め程度に気配を消して、場所を変えた。

御手洗いにでも行こうか。

この会場を離れるには最適の理由となりうる。

そう頭の中で考えて、その場を後にした。



建物内が、騒がしい。

トイレの個室で1人休息し、10分後。

戻った呉亜は早速、空気に違和感を感じた。

何か問題でも起きたのだろうか。

関わりたくないのが本心だが、そうは行かないのが人付き合い。

無関心は、態度として悪いだろう。

そう思い、人だかりのできている方へ歩を進めた。


「ちょっと、これなに⁈」


「何事だ、一体…」


「救急車は呼んだの⁈」


誰か倒れたのだろうか、ざわつきは大きくなる一方だった。


「⁈」


赤いドレスを着た女性が、血を吐き倒れていた。

手元にはグラス。

中身が溢れており、おそらく白ワインだったであろうそれは、カーペットにシミを作っていた。

果たして、持病の発作がそれとも事件か。

これが事件であり、毒殺…だとすれば、まず第一の問題が、この女性は“喀血”したのか“吐血”したのか。

喀血は呼吸器系の出血で、その原因とする毒物は腐食性を持った気体。

しかし、グラスを持って倒れていると考えるならば、グラスに毒を混入させた。

つまり、消化器官の出血である吐血の方か。

ヒ素,アマニチン,TTX…

頭の中で、様々な毒物の名称が羅列した。

面倒ごとは嫌なので、これが持病の発作であるならばありがたいのだが。


「こ、この中に、お医者さまはいませんか⁈」


「ウチの主治医を呼ぼう。あと、救急車も。」


駆け寄っていた、おそらく知り合いと思われる紫のドレスを着た女性が、ヒステリックに叫んでいた。

と、その時。


「少し、失礼します。」


野次馬の中から、少女が手を挙げて近くへ寄って行った。

彼女は倒れている女性の首元に手をやり、おそらく脈をとっているのだろう、真剣なその顔は、数秒後に眉を潜めてこう言った。


「亡くなっておられます。」


「そんなっ⁈」


紫のドレスの女性はそれを聞き、ハンカチで顔を抑えて泣き崩れた。


「…この方は、病気などを持ってましたか?」


「…っ、いいえ、至って健康な人です。」


呉亜も、その様子を黙って見つめる。

亡くなった方には申し訳ないが、このようなパーティー会場での殺人など、よくあることなのだ。

恨みなんて、投げ売りするほど買われているだろう。


「事件の可能性があります。近づかないでください。すぐにこの会場を閉鎖して、警察を。」


「わ、わかった!」


落ち着いた顔で淡々と指示を出す少女。

それに、主催者は慌てて部下に指示を出した。

さて、この事件そのものより、少女のことが気になる。

あと、先ほどから隅の方でおとなしく観察している、呉亜に飲み物を渡した男性も。

この2人の気配。

…なぜか、見過ごせない気がするのだ。




しばらくして、警察が到着した。

もちろん会場はもうパーティーどころではなく、なかなか解放されない苛立ちを表す人もいれば、不安を顔にする人もいた。

呉亜はというと、例の2人を陰ながら観察する。

別に、犯人だと思っているわけではない。

たとえそうだとしても、興味がない。

ただ、既視感ーーー覚えのある感じなのだ。

顔には間違い無く覚えはないが。

やがて、30分,1時間と時刻は過ぎ、解決の糸口が未だに見いだせていない警察は、渋々といった様子で参加者を帰した。

当然それには念入りなるボディチェックと、身分の確認を行なってからになったのだが。


「……えぇ、頼んだわ。」


平塚に、迎えを寄越すようにーーなんてことはしたくなかった。

外泊する、とだけ伝え、後の言い訳は適当に考えてもらう。

要人だからといって、自由な時間はやはり欲しいのだ。

現在、呉亜は近くのビジネスホテルにいた。

着替えたかったのだが、生憎荷物は持っていない。

精々携帯電話とカードくらいだ。

ちなみに、クレジットカードの名義はあくまで相談役のものである。

財閥代表でも未成年は未成年。

いずれは名義変更されるだろう。

この格好も、目立つといえば目立つのだが、そこまで違和感を感じさせるものでもない。

ホテルのフロアで、自動販売機で飲み物を購入し、近くのベンチに腰をかける。

不本意にパーティーに放り出された挙句、こうして嫌な場面を見せられた直後はどうしても、あの広い屋敷で1人過ごそうとは思えない。


「…崎坂殿?」


ふと顔を上げると、こちらを見ている知った顔。

崎坂グループ会長子息・崎坂隼士の姿があった。


「先程はどーも。」


なんのこと、と、訊こうとしてやめた。

この表情、この感覚、成る程よく理解した。


「貴方だったのね…っ!」


よく知る人物というのもあって、つい砕けた態度をとってしまう。

というか、揶揄われている気がして持っているスチール缶に思わず握力を込めてしまった。


「いやー、警戒されてて面白かった。」


「失礼にも限度があると思いますよ崎坂。」


顔は違うが間違いない。

あの、飲み物を配り、気配を消していた人だ。

納得してしまったではないか、この人なら確かに、自分と同様気配を操るのが上手い。

そして、顔が違うのにも納得がいく。


「楓山までいたのね。…脈測ってた。」


「せーかい。」


楓山律。

あの賢そうな少女の正体。

同い年の…男だ。

彼の両親は大物俳優と呼ばれる存在で、その血を受け継いだ楓山律は、変装に卓越した才能を開花させていた。

こちらも、よく知っている人物ではある。

が、決して親しくしていたわけではない。

互いに有名人なため、精々知っている程度だ。

それは崎坂も例外ではない。


「何の用?急に接触してくるなんてね。」


「いやー、ちょっと巻き込まれてくれたりしないかなってさ。」


…ろくなことではなかろう。

それだけはよくわかった。

だって、


「国際指名手配犯が巻き込む、って、嫌な予感しかしないんだけど。」


詐欺を筆頭にありとあらゆる手を駆使して邪魔と判断した人物又は組織をことごとく潰していく“天才犯罪者”。

『出る杭は打たれる』との言葉通り、悪目立ちでもすればすぐに消されてしまう。

通り名は、策士『ファビアン』。

世間では正体は知られていないのを呉亜が知っている理由は、まぁ、


「何を言うんだよ同業者さん。」


そういうことだ。

ただし、指名手配をされた覚えはない。

それだけは断言する。


「私はあんなに派手にはやりません。というか、あれは不可抗力よ。」


危うく自宅ごと爆散されかけたのだ。

阻止するために手段を選ばないのは仕方のないこと。

ただ、手段を選ばない機会が二度や三度どころか、知らぬ間に十を超えていただけで。

姫野家は狙われている。

今更だが、難しい世の中だ。

今まで身が無事なのは、呉亜が“天才”だから。

平塚があまり心配しないのもそのためだ。

そう、あくまで“天才”。

そこに“犯罪者”をつけられたコイツらと、一緒にはされたくない。


「大体、楓山は警察のチェックをよく免れたわね。」


「身分証明書も偽造してたからな。」


「…流石ね。」


日本に蔓延る“天才犯罪者”その2・楓山律。

高度な変装術と、その鋭い感覚で、あらゆる場所に潜入を繰り返す。

そして、誘導する。

崎坂が詐欺師なら、楓山は身分詐称が筆頭といったところか。

通り名は、何者でもない『ジョン・ドゥ』。

2人とも、私利私欲のための犯罪でないのがまた憎たらしい。

理由は呉亜とほぼ同じ。

ただ違うのは、世間に認知されるほど派手にやらかす点だろうか。

そんな2人が結託していたなんて、


「聞いてない…」


自身の情報網にかからなかったのはまぁ、上手くやったのだろう。

ただここまで上手く行っているとなると、もう一つの影が見えてくる。


「志藤もいるぞ。」「…志藤もいるのか。」


同時に声を発した。


前略その3・志藤玲緒成。

コンピュータ技術に長けており、ハッキングやウイルス作成と、情報を掴むためにそれらを繰り返す。

通り名は、ハッカー『ヴィザード』

そしてこちらも“自衛のため”。

ちなみに彼の父親は有名な作家だそうで。


「それで、4人目に私を引き込もうと。」


「そういうこった。」


「…一応聞くわ。メリットとデメリットは。」


大体想像できるが。


「メリットは、日本の無事。詳しくは言わないが、正直こちらもギリギリなんだ。東京の街を文字通り粉々にされたくなければ、協力してほしい。」


最終的には自衛につながる。

つまり、犯行動機はいつものそれと変わらない。

そう言いたいのだろう。

…それは確かに、放ってはおけない。

姫野家存続は使命でもあり、もうこの世にいない両親の最期の望みでもある。


「デメリットは、俺たちと絡むんだ。今まで通りひっそりってわけにはいかねぇな。運が悪けりゃ、日本の天才犯罪者が1人増えることになりそうだ。」


「…」


関わることによって起こる命の危険は無い、と見ていいのだろうか。

…いや、おそらく、あくまで全力の協力がなければの話だろうな。

つまり大怪我は想定内、と。

なんとなくそんな気がして、わかりやすく溜息をついた。


「あの2人に会わせて。直接言葉を交わしたことがないの。」


「りょーかい。」


この男は全く何を考えているのだか。

崎坂は、呉亜が知る人物の中で最も策士だと認識する人間。

…そして認めたくは無いが、嘘をつかない人間でもあるのだ。

考えのわからない味方ほど恐ろしいものはないってやつね。

内心そう思いながらも、崎坂に続いてホテルを出た。



タクシーで30分ほど。

一般的な一軒家二つ分ほどの大きな住宅についた。

表札には『秋矢間』。


「ほんっと、よくやるわね…」


変装の名人様は、いったいどれだけの偽造身分をお持ちのことか。

セキュリティの堅そうなその建物の門を潜り、扉を開錠する。


「連れてきたぞ。」


この時の呉亜の心境はといえば、呆れが振り切っていた。

ほんと、よくやるわね…

その一言に尽きる。

ちなみに、警戒心は一切ない。

理由は…自分でも信じられないが、わからない。

ただ、不気味なくらいに居心地がいい。

そしてそれがまた、気味悪い。

刺激的な体験を目の前にして、それが1人ではないとわかっているからだろうか。

そう、自己分析をした。


「お邪魔します。」


ドレスと合わせられた靴を脱ぎ、並べた。

それだけで開放感がある。

自分に向いてない服装は、するものではないなと心の底から思えた。

広い廊下を進み、ドアを開けるとリビングと思わしき広い部屋。

ローテーブルにソファ,そしてダイニング。

家具や調度品は、どれも高価なものだ。

呉亜の鑑定眼に、狂いはない。

そして、先ほどのパーティー主催者より圧倒的にセンスがいい。

中にはそれぞれに寛ぐ2人の人物がいた。

ソファでノートパソコンと睨めっこをしているのが志藤。

そして、テレビでニュースを見ているのが楓山だ。


「おーおかえり。ニュースで早速やってるよー、さっきの。」


そう言う楓山は、先ほどの少女の姿のままだった。

声だけが男性のもの。

変声機でも使っていたのだろうか。

楓山の変装の仕組みには、とにかく謎が多い。


「姫野連れてきた。」


「どうもこんにちは天才犯罪者さんたち。」


「お前も今日から仲間なんだよ。」


そう返事をした志藤は一瞬だけ目線をこちらに向けて、不敵な笑いを見せた。

波長が合うのだろうか、長年の友人のように軽口の応酬を交わす。

互いに名前と顔は知っていても、あくまで初対面でこの態度を取れるのは、知り過ぎているからかもしれない。


「初めまして姫野呉亜女史。お噂はかねがね聞いてます、ボクは楓山律。私立天山高等学校1年ねー。んで、こっちは志藤玲緒成。」


「私立季節坂高等学校1年だ。よろしく。」


元気よく一気に捲し立てた楓山につづき、志藤も挨拶をした。

楓山の通う天山高は、悪い噂は聞かない普通の優秀な進学校だ。

そして志藤の通う季坂高といえば…ここ、白嶺市一の名門校にして、白嶺市一の不良校でもある。

その名の通り、『災害』がいるのだと。


「…コイツはマシな部類だ。目つきが悪いだけで。」


何を考えたのかを察したのか、崎坂がフォローを入れていた。


「知ってるだろうけど改めて、俺は私立愛紗和高等学校1年、崎坂隼士。」


確かに、こちらはよく知っている。

呉亜の通う敬星に次ぐ、裕福な家が集まる学校だ。

ただし、男子生徒もいるという点は異なるが。


「私立敬星学園高等学校1年、姫野呉亜よ。…どこまで知ってる?」


「幼少期に家族を亡くし名家姫野家唯一の生き残りなおかつ姫野財閥現会長。そして、」


「リストNo.4該当者でもある。」


成る程、ほぼ全て知られているわけだ。

志藤と崎坂のその回答に、黙って頷いた。


「とりあえず座って。まずはそのリストについてゆっくり話したいからね。」


「楓山はその変装をいい加減解け。」


「ついでに姫野に着替えを持ってきてやれよ。窮屈そうだし。」


この3人は、いつから繋がりがあったのか。

楽しげな雰囲気に、呉亜は少し笑みを溢しながら、ソファに腰をかけた。




姫野はやはり、こちらに警戒心を抱いていないようだった。

“アイツ”が言っていた通り、心のどこかではわかっているのだろうか。

ーーー姫野が死ねば、俺たちも死ぬ。

だんだん信憑性が高まっていく“アイツ”の言葉にただならぬ嫌な予感を感じながら、崎坂は再び意識を目の前の人たちに向けた。




『リストNo.4』。

裏社会における、いわば暗殺リストである。

これに従う者たちは、人の命をなんとも思わず、数々の命を奪ってきた。

載せられる人物は主に邪魔と思われる組織の構成員や偉人,権力者など。

誰でも自由に追加でき、そのリストを見た誰かが実行する。

殺人事件における最も大きな手がかりが、動機。

このシステムは、それを覆す、いわば“交換殺人”を完全なものとする、

少なくともここまでが裏社会の常識とも言える部分だ。

4人は、その暗殺リストに載っている。

…いや、正確には違う。

存在は知られているが、名前や容姿など、肝心な人物像は、掴められていない。

ただ見つけたら殺さなければならない人物として、認識されているのだ。


「最優先目標4人。裏社会の根絶をもたらす恐れのある人物“ファビアン”。裏社会を乗っ取る恐れのある人物“ジョン・ドゥ”。裏社会の内部情報を知られる恐れのある人物“ウィザード”。そして、“紫”を冠する人物。」


その4人が、この4人。

つまり、1人目が崎坂隼士、2人目が楓山律、3人目が志藤玲緒成、4人目が姫野呉亜。

ただし、“エターナル”は活動を公にはしていないため、噂程度の存在。


「姫野、嫌ならいい。染髪剤とカラーコンタクト、外せるか。」


「…洗面所、借りるわね。」


ついでに楓山が用意した服も持っていく。

いつまでも堅苦しい礼服なんて着ていたくない。

…なぜ女性の服があるのかは、この際割愛しよう。

相手は変装術師なのだ。




しばらくして、姫野が戻ってきた。

ただ、その髪と目に、わかっていたとはいえ多少の衝撃は受けた。

長い髪と二つの目は見間違えようもなく紫で、そしてどこか、非人めいている。


「…確かにこれは、うかつに外に出せない見た目だな。」


「私は毎朝のこの作業が、非常に面倒ね。」


そう言って、カラーコンタクトのケースを掲げて見せた。

隼士はその髪と目にをよく見てから、迷いながらも話を続ける。


「…俺と楓山と志藤が対象となっている理由はまぁわかる。いずれも裏社会の脅威となりうるからだ。だが、“紫を冠する”。これが疑問だ。」


「書き込んだものは姫野呉亜という人物を知らず、ただ“紫”と表現している。つまり、この世界に紫色の髪と目を持つ人間が存在しているということだけしか知らないということだ。なぜそれを裏社会が認知しているのか、そしてなぜそれを暗殺対象としているのか…それが最大の疑問だ。」


そう返答した志藤は、困惑した表情をしていた。

あとの2人を見るに、おそらく同じなのだろう。

仮に組織がこの4人の正体を知ったとして、野放しにするとは考えにくい。

そうなれば、紫の髪と目の人物を見たことはないということになる。


「呉亜の色が、天性のものじゃない…?」


楓山の見解も尤もだ。

頷いてみせた。


「そうなると、志藤の言った通り下手な行動は避けるべきだな。」


「えぇ、そうね。そこは足がつかないように頑張りなさい。少なくとも貴方たちが見つかれば、必然的に共に行動する私も疑いの目を向けられるでしょう。」


まさに、運命共同体というやつか。

そうなると次なる疑問は、なぜ目立つアクションを仕掛けて来ないか、なのだが。

…それについては、あんまり考えたくもないが、心当たりはある。

というか、間違いなくアイツだ。

アイツ以外にあんなことをしそうな人物が見当たらない。

姫野についての情報を突如よこし、あちらの事情を流してくるかと思えば、個人的に暗殺者を仕向け、だが対面しても殺気を感じないアイツ。

しかし彼らには余計な混乱を避けるため、言わないほうがいいだろう。

タイミングを誤れば、…最悪自爆するような内容だ。

そして、彼らももそれを信じる。

ーー互いは絶対の信頼を持っている。

アイツの言った通りではないか。

…気味が悪い。


「…夕飯にしよーよ。」


話し合いにひと段落ついたと思ったら、楓山がそんなことを言い出した。

それとなく時計を確認してみれば、もう6時である。


「私ホテルのチェックイン済ませたんだけど。」


「こうなるだろうと思って取り消した。」


「…感謝しておくわ、志藤。」


「夕飯は俺が作ろう。たしか冷蔵庫の中に賞費期限ギリギリの豚肉があった気がする。」


「は?ちょっと待て崎坂。なんで知ってんの?」


「…知ってるぞ。崎坂はなんでも知っている。」


「崎坂こえぇ…」




結論から言えば、崎坂の作った食事は大変美味しかった。

店を開いても良いのではないだろうか。

一流シェフが泣くような出来栄えである。


「結局、私が連れてこられた理由は食べ終わった後になるの?」


「食べながら聞いて気分がいいモンじゃねぇからなぁ。仕方ないだろ。」


なんと、食後にはデザートまで用意されているらしい。


「そもそもお前に自炊する機会がある方がオレ的には不思議なんだけど。」


崎坂グループの御子息を、まさか台所に立たせているとは思えない。


「そこはほら、みれば覚えられるってことだ。」


とんだ天才だな崎坂。

1人で多くの計画を立てていく彼は、人間業とは思えないような記憶力を発揮する。

下手をすればこの世界には科学で説明できないものがあるということの証明になりうるレベルで、だ。

それは人間として、すこし複雑だ。

忘れられない、とも取れるから。


「そうだな、具体的なことは俺にもわからない。というかただなぜか見た瞬間に頭に保存されるというか、本を読んでも頭の中でページが画像として保存されて、好きなタイミングで読み返せるんだよ。ただ困ったことに、忘れ方を知らないんだ。」


完全記憶能力を持つ崎坂に、忘れるという概念は無い。

それはどんなに辛い事実でも、苦しい瞬間も、目を塞ぎたくなるような惨状も、鮮明に脳内に記憶され、目を閉じればもう一度体験できるということだ。

頭が良い、と、普通の人ならばその一言で片付ける。

しかし、忘れられないのは、自身で何度も発狂が可能だ。

それを起こさない崎坂の精神力は、非常に強いと思う。

そしてそれを目的のために存分に利用できるのは、本当に図太いというかなんというか。


「ところで、今更だけどこの家、楓山のご両親が?」


「そ、別荘。お願いしたら、偽の身分使って買ってもらった。」


それは…いささか協力的すぎないか?

息子の犯罪に軽々と援助を行うそのご両親を、ぜひ見てみたい。

…いや、テレビをつければ見れるのか。

大物俳優である両親を持つ楓山だからこそ、変装術を身につけたと見て取れる。

なんだか常識が分からなくなってきた。


「そんなわけだから、ここは主に変装道具の倉庫になってる。服とか特に多いから。」


「顔はどうしてるんだ。」


楓山の変装には謎が多い。

崎坂が疑問をぶつけると、


「大抵はメイクでなんとでもなる。どうしても難しけりゃ、マスクだな。」


と、さらっと教えてくれた。

あのクオリティをメイクで、とは、相当な技術者だ。


「あ、でも、声は企業秘密。知られると立場がないからさ。」


冗談めかしてウインクしながらそう言われ、それ以上詮索するのはやめた。

どこまでが本当かはわからないが、知られたくないから無理に聞き出すのは何かに反する気がしたのだ。


「私的には、志藤のコンピュータ技術の身につけどころが疑問なんだけど。」


親が著名人という点は変わらないが、それでも比較的一般人の志藤。

単純な頭の良さなら市内一の学校に通う点で察せるが、日本の天才犯罪者3号だ。

鍵などあってないようなもの。

日本のセキュリティ殺しと言ったところか。


「元来の脳の処理力が異常っつーか…違う数式を同時に計算できたりそういう意味で器用にできてるんだよ。それを応用すれば基本何でもできるけど、コレは教えて貰えたツテがあったというか?」


これほどの技術を叩き込んだそのツテが、一般人とは思えない。

が、そこもスルーだ。

いちいちつっかかってたらキリがない。

異常な頭脳を持つ人たちなのだと割り切る方が賢明と判断した呉亜は、とりあえず「へぇ」と返事をしておいた。


「姫野のソレは、天性か?」


崎坂の尤もな疑問に、頷いてから口を開いた。


「残念ながら両親が生きていた頃のあらゆる記録は見当たらなくなってしまったの。だから、面倒だし天性ってことで自己完結させたわ。毎朝の隠す作業が面倒ってだけで、支障はないし。」


今のところ、手がかりはことごとく潰れている気がする。

結局疑問は残るまま、この話は終了となった。

食事が終了したからだ。

志藤が食器を片付け、崎坂がデザートと紅茶を用意して、ローテーブルの方まで運んでいた。

その間、志藤に借りたパソコンに、今までの話を記録しておく。


「…志藤、このパソコン、オリジナルよね。」


「よく分かったな。セキュリティ強化するために、自分で組み立て直してみた。」


「…材料費と、手間賃30万で、私にひとつお願いできない?」


「わかった。」


30万、流石だな、と、楓山が呆れた視線で見てきたがスルーだ。

天才国際指名手配犯のオリジナルパソコンは、正直それ以上の価値がある。

交渉次第では50万円までと考えていた。


「組織については実際謎が多い。公安やFBI,ICPOのコンピュータにハッキングしてみたが、めぼしい情報は見つからなかった。」


世界二大組織と日本の組織を相手にさらっとやってのけたそうだ。

ちなみに、志藤の犯行が明らかになっているのは、毎回メッセージを残しておくからだ。

理由を聞けば、悪い奴を誘き出すためだという。

崎坂や楓山は仕方ないとして、志藤はわざわざ目立とうとしなくても問題はないはずだが、敵に反撃を喰らわせたいとのこと。

飛んだ負けず嫌いの命知らずである。

ただ、今回のこれは流石に秘密裏らしい。

無駄に混乱を与える趣味はない、という謎の矜恃だ。

それに、事実有益な情報は見当たらなかった。


「そもそも部外者がNo.4リストを引っ張ってこられただけ凄いと思っと欲しい。」


というのが志藤の弁だ。

確かに一高校生が、本来ツテが必要な情報を入手できたのは大きな功績である。

そうこうしていれば崎坂と志藤も戻って来て、ソファーに腰を下ろした。


「で、どうするんだ?これから。」


志藤が崎坂に問う。

見たところ、詳細を知っているのは崎坂だけらしい。

この4人の同盟を持ちかけたのも、崎坂なのだろう。

流石は策士だ。


「…そうだな、順を追って話す。『B.D.社』が動き出した。」


「「「っ…⁈」」」


『B.D.社』。

少なくとも本人たちは、自身をそう呼ぶ。

“たち”と表現したが、本当のところ、これが個人を指すのか集団を指すのかはわかっていない。

毎回の事件こそ1人でも可能なものだが、それにしてはあまりにも高技術で大規模なのだ。

“社”とも付くため、警察も、団体という見解に傾いている。

気に入った建築物に大規模な爆発を仕掛け、その後瓦礫の中に『B.D.社』と書かれたカードを残す。

完全なる愉快犯として扱われている。


「…狙いは。」


「今日のパーティーの主催者・菅原直哉の所持する研究施設。人工衛星についての研究を行う『スペース・エドワードビル』だ。」


崎坂が志藤の質問に答えると、素早く手元のパソコンを開いた。


「…『スペース・エドワードビル』。12階建てで、前面ガラス張りが特徴の近未来的ビルとして、建築のデザイン賞も受賞している。主に観測目的とした人工衛星の研究を行っており、現在3台の人工衛星を稼働。その制御室も、ビルの中にあるそうだ。」


「つまり、爆破したら最悪、人工衛星3機が落下してくるわけね。」


「そうだね。宇宙ゴミになってくれればいいけど、大気圏に突入した場合、低確率だけど大陸に落下でもしたら、被害は莫大だ。」


スペース・エドワードビルの人工衛星はすべて球体。

内閣府宇宙開発戦略推進事務局が2019年に出した被害予測の公式は、


Ac = π ( rp + rf )2


Ac:危険面積 (m2)

rp:人の地表面投影半径 (m)

rf:破片半径 (m)


である。

過去に落下した衛星は海上のため被害は見られなかったが、万が一でも落ちて来たら。


「半径2キロメートル圏内の緊急退避…」


深刻な声で、呉亜はつぶやいた。


「残念な事に懸念はまだある。標的の建物はかなり昔から目をつけられていたもので、あらかじめ準備されている可能性が高い。…衛星の中に、中規模な爆発物が仕掛けられていることがわかっている。」


青ざめる一同。

それってつまり、ビル爆発+衛星落下×3+中規模な爆発×3。


「…公安は何をしているの。」


「これは俺が個人で集めた情報だ、向こうは何も知らない。『B.D.社』は事後報告が基本だから、予測が非常に難しいんだ。」


「過去の従業員から怪しい人物は出てこないのか。」


「それもダメだった。」


一大事である。


「これを警察にリークすれば、それだけことの重大さは大きくなる。情報は必ず外へ出るものだ。奴らはいつでも実行可能。今のところ予定されているのは3日後だが、それは今起こってもおかしくない。事実、警察に知られたから予定を変更し被害を広げた事例も何件か。」


だから、小規模精鋭である我々が動くには最適。

これは確かに重要案件で、なおかつ4人が揃わなければ。

崎坂1人では手に負えない。


「今日の殺人事件はおそらく『B.D.社』も想定外だ。菅原直哉はそちらにかかりきりになる。ビルの方の警備もこれでは手薄。棚からぼた餅な状態だろうな。延長は考えられない。むしろ、相手側も3日後がちょうどいいはずだ。何しろ3日後は、別の方の支部での重大イベントが控えているからな。」


手薄の警備に整った爆破環境。

そして何より、今回の事件で菅原直哉には大きな注目が浴びせられている。

愉快犯としては、絶好な条件だろう。


「オレたちは何をすれば?」


「爆弾の解体が主な任務になるだろうな。それと、俺の予測通りならば『B.D.社』の尻尾を捕らえられる。近くにあるホテルSAKUMA。そこにメンバーだか本人だかが滞在するだろう。おそらく爆破の瞬間を見物したがるだろうから。そこの向かい側の部屋を予約しておいた。あと、コンピュータルームで衛星の爆発物のプログラムの解除。任務としては、この三つだ。」


なるほど、妥当な作戦だ。

しかし、4人で行うには無理があるのではないか。


「爆発物の解体に2人,ホテル前の張り込みで2人,コンピュータのプログラムで1人必要だろうな。1人足りない。どうするつもりだ。」


今日にパソコンに何かを打ち込みながら、そう話す志藤。

ひとつの脳で複数の事象を処理できるという彼の頭は、シュミレータと同等の役割を果たすことができる。


「まず爆発物の解体は、姫野だ。こいつなら2人の作業も1人でできる技術は持っている。」


…どこで知られたかはこの先置いておき、確かに間違いではない。

頷いてみせる。


「爆発物が仕掛けられているのはセキュリティが特に厳しいエリア。楓山を同行させる。変装し、違和感ないように中に移動してくれ。入るにはICチップ入りのカードが必要だ。偽造はできるだろう。」


「よーし、まかせて。」


変装の名人を名乗る楓山ならば、同じことは何度もしている。


「コンピュータルームははっきり言ってかなり手薄だ。これはもともとパソコンのセキュリティが強いからなんだが、志藤にかかれば問題はない。3日後にコンピュータルームを開ける予定は無いようだから、防犯カメラをハッキングさえすれば問題ないだろう。ただし念のため、反対側の喫煙室で発煙騒ぎを起こす。」


「せいぜい引き止められるのは30分だな。そのくらい時間があれば問題ないだろう。」


流石プロだ。

頼もしい限りである。

発煙筒は、こちらができるだろうから申し出た。


「最後に、ホテルの方は俺がつく。1人、協力者を要請するつもりだ。明日会いに行く予定。お前らも、同行を頼む。逮捕エンドにはならない人だから問題はないだろう。」


彼がそでういうなら間違い無いのだろうと、なんの躊躇いもなくその場の全員が同意。

順調に進んだこの作戦会議は、やはり頭の回転の速さが同じメンバーで固まっているからなのだろう。

時刻は既に9時を回っている。


「正直に言えば、俺は策を練ることが専門。技能面では一番劣る。だから、頼んだぞ。」


崎坂のその言葉を最後に食器を下ろし、その場はお開きとなった。




mission 1

協力者候補と話をつける

mission 2

変装によって潜入する

mission 3

発煙筒を仕掛ける

mission 4

衛星内の爆破プログラム解除

mission 5

施設内の爆弾解体

mission 6

『B.D.社』の人物の確保


「そういうわけだから、今日はその楓山の家に泊まるわ。」


『かしこまりました。混乱を避けるため、他の者にはホテルと連絡しておきます。』


「えぇ、明日一度顔を見せるから。おやすみ、平塚。」


『おやすみなさい、呉亜。』


案内された客室で電話を済ませ、一息ついた。

大きな建物なだけあり、4人が泊まるには申し分ない。

室内も、綺麗に掃除されていた。

実を言うところ、呉亜は今回のこの作戦を、少し楽しんでいる。

今まで自分と対等に渡り合えるような人物は身近にいなかったから。

言うなれば、新しい友達ができた子供のような心境だ。

内容は少し物騒だが、幼少期に味わえなかったこの経験を、心の底から楽しんでいる。

そしてなにより、彼らは信用できる。

姫野家を邪魔に思う人物からの誘拐命令や暗殺依頼は後を絶たない。

その上、いつ自身の特異性を裏の世界に見つかるかもわからない。

そんな状況で気を抜くなんて、そんな強固な神経は持ち合わせていなかった。

そう考えると、あの3人は本当にすごい。

恐ろしいモノを忘れることができない崎坂。

変装とバレた途端に命が危うくなる楓山。

そして志藤は、最優先暗殺対象の中でも特に脅威とされている。

確かにいつコンピュータをハッキングされてもおかしくない人物を、世間も裏世界も放っておけるはずがない。

そして呉亜が思うに、崎坂は間違いなく何かを知っている。

知っている上で、それを自身だけで背負い込もうとしている。

……無理にでも聞き出し、重荷を引き受けるべきだろうか。

しかし、それは逆に心労をかけることにもなる。

あの聡明な崎坂が「知らない方がいい」と判断したならば、やはり聞かない方が正しいのだろう。

願わくば、この判断が間違っていないことだ。

結局今の自分は、出来ることを地道に探して行くしかなさそうだな。

明日は一度、3人を姫野家の資料室へ連れて行こう。

そして、協力者候補を言いくるめなければ。

幼い頃から身につけてきた多くの技術がどれほど役に立つかはわからないが、彼らと違い、質より量の自身の特技はどこまで出来るのか。

そこにも少し興味が湧いた。

対人術,爆弾解体は、私の分野だ。

足掻いてやろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ