願い*
俊也の家へと私は走る。
私の家から俊也の家は、そう遠くない。
まだ時間がそんなに遅くないからか、車も通るし、人もいる。
私は無意識に人を避けながら進む。
心なしか、信号の光や街頭の灯りがいつもよりも明るく感じた。
『最期に.....会いたい.......』
私は、規則的に並ぶ街頭の灯りの下を次々と駆け抜ける。
『神様......もう一度だけ会わせてください』
走るたびに私の髪の毛が揺れる。
『もう一度だけ......俊也に........』
呼吸が苦しい。
『お願い.....俊也.......』
不安で胸が押しつぶされる。張り裂けそうなほど苦しい。
息を切らしながら、私は祈り、夜の街を走り続けた。
走り続けてようやく、俊也の住むアパートへと、私はたどり着いた。
私は肩で息をする。
苦しい。
私の心臓は、まるで生きているかのように、バクバクと波打っている。
私は乱れる呼吸のまま、アパートの裏へと回り、外から二階にある俊也の部屋を見上げた。
しかし、
私の祈りは届かなかった。
部屋の明かり消えていた。
「嘘でしょ.......」
唇が震え、目頭が熱くなる。
私は目の前の現実を受け入れることができず、
おぼつかない足取りで俊也の部屋の玄関へと向かった。
足にうまく力が入らない。
視界がぼやけ、世界がにじむ。
階段を上るときの乾いた音だけが、むなしく響いた。
私は、ドアの前で立ち尽くす。
そして、ドアにそっと耳をつけた。
しかし、聞こえるのは自分の鼓動の音だけだった。
私はその場で力なく、へたりと座り込む。
それと同時に涙が溢れてきた。
「最期に.......最後にもう一度だけ.....会いたかった....」
私は泣き崩れた。
私の嘆きは、誰にも聞こえない。
私はしばらくそこを離れることができなかった。
「俊也.......」
脳裏に俊也の顔が思い浮かぶ、"私は行かないで”と手を伸ばすが
それは闇の中に消えていった。