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二人の夜明け  作者: 小夜
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21gの存在*

「あれ?ここは......」

私は体を起こし、あたりを見渡す。


ぎっしり詰まった本棚、やりかけの課題が置いてある机、

そして少し埃がかかったギターが目に入る。


ここは、私が知っている場所だ。


おかしいな.....私の家?病院じゃないの??

あれ?私......いつ退院したんだっけ?

んー、覚えてないや、薬のせいかな?


少しだけ痛む頭を押さえ、私はゆっくりと立ち上がり、鏡の前に立つ。

そして、鏡に映った自分の姿を見て驚いてしまった。


「嘘みたい.......」


私は思わず自分の顔を触る。


薬の副作用で抜け落ちたはずの髪は生えそろっていて、痩せこけていた体も元どおりになっている。

それに、どこも痛くない、苦しくもない。

健康体そのものだった。


私は半年前に突然白血病にかかって入院した。


病気にかかってからは毎日が苦痛で苦痛で仕方がなかった。

常にどこかしら体の調子が悪く、吐き気や痛みに耐える日々を送っていた。

あんな生活、きっと俊也がいなかったら、乗り越えられなかっただろう。

でも...これでまた俊也に会える。


私は目を閉じ俊也のことを想う。


早く会いたい、早く会って抱きしめたい。


ちなみに俊也とは高校生の時からお付き合いしている。

あれからかれこれ5年は経つだろうか。

俊也は私が入院しているときも毎日といっていいほど、いつも面会に来てくれた。

そして、いつも私の手を握って励ましてくれた。


あの時の私は、俊也だけが生きがいだった。

かけてくれる言葉は、とても優しくて、あたたかい手は、頼りがいがあって...。

私は一人でクスッと笑う。

そんなことを考えていたら、私は無性に俊也に会いたくなってしまった。


私は時刻を確認する。


時計の針は21時少し前を指していた。

時間もそれほど遅くないし、会いに行っちゃおかな。


そう思い私は部屋を出て階段を下り始めた。


リズムよく階段を下る途中に、私はあることを思い出し、足を止めた。


「そうだ、私、俊也に誕生日プレゼント渡してない...」


実に、彼の誕生日からはもう半年の月日がたっていた。

急に入院しちゃったから渡せなかったんだよね。

おそろいの銀のペアリング、喜んでくれるかな。


それに明日は私の誕生日だ。

「これはちょうどいいぞ」と私ははにかむ。


俊也は自分の誕生日の方が早いのでいつも私よりもいいものをプレゼントする。

だからプレゼントを毎回考えるのが大変だ。でも今回は私の方がいいもんね。



私は俊也の喜ぶ顔を思い浮かべ、再び部屋へと戻り、リングがしまってある机の引き出しに手をかけた。


しかし、


「あれ??開かない...」


何か引っかかってるのかな?

引き出しを何度繰り返し引いてもびくともしない。

まるで接着剤かなんかでくっついているみたいだった。


私はため息がこぼれる。


「あーぁ、せっかく渡そうと思ったのにな。」

私は残念に思い、仕方がなく部屋を後にした。


階段を下り終えると私は出かけてくると伝えるために、

玄関から大きな声を出す。


「ねぇ、ちょっと出かけてくる!」


しかし、返事はなかった。

聞こえなかったのかなと思い、私はさっきよりも大きな声で言う。


「ねぇ!でかけてくるから!!」


それでもなお、返事はなかった。


「こんなに大きな声を出しているのに、なんで聞こえないの?」


私は少し苛立ち、リビングに通じるドアの隙間から見える母に向かって


「ちょっと、聞こえて...」


私がその先の言葉を言うことはなかった。


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