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ハルヒと幸福の子。

「…魔獣?」


ハルヒは目を細めて獣を眺めた。湖の向こうでじっと己の姿を見つめる、真っ白でふわふわの獣。真ん丸で青い瞳が綺麗だった。

四足に翼。


「…普通の獣じゃないよね、やっぱり」


一応もう一度四つ足なのを確認して、ハルヒはうん、と頷いた。


ハルヒ・ティナマル。


本来国で禁足地に指定されているドゥナチ森に彼女がいる理由は、実のところ彼女自身よく分かっていない。


「リュカ師匠も無茶言うなぁ…監視の目潜り抜けるの大変だったのに…」


道には迷うし、とハルヒは小さく付け足した。というか、迷った末に今目の前にいる獣に出会ったのである。


「魔獣なんてこの森にはいないって話だけど、間違いだったのかな?見たことない種類だけど。」


そろそろと驚かさないように湖の反対側まで行って眺めると、なかなか可愛らしい顔つきである。ふわふわした羽毛に包まれた額の間から、2本の青白く光る角が生えていた。


何故か、目が離せない。


思わず一歩近付いた途端、青い目がこちらを見上げた。


「…あ。」


目が合った。「なんだこいつ」と言わんばかりの視線が向けられる。その表情には妙な知性が見てとれた。引け腰になってはいるが、逃げない。


「あー…初めまして!」


獣は目を逸らさない。が、言葉は理解していないらしい、かすかに首を傾げた。獣なのだから当たり前と言えば当たり前だが、何故だか、しなくてはならないと感じたのである。魔獣にも言葉を理解する者はいるが、それは上級の者共の話だ。滅多にいるものではない。


「なんで挨拶しちゃったんだろ。…どこかのご主人からはぐれちゃったの?」


白い獣はじっとハルヒを見つめた。と、思ったら急にこちらに歩み寄ってきた。




「…町まで送ってほしいの?」


思わずそう聞くと、獣が笑った。

本当に「笑った」としか表現しようのない、少し楽観的な表情で、「フィー」と鳴いた。



「リュカ師匠ーただいま帰りました!」


バンと元気よく扉を開くと、机の上に手を組んで深刻そうな面持ちで座っていた老人がハッと顔をあげた。


「おお、ハルヒ!帰ってきおったか!」


「あ、はい帰りました!お土産買ったんでどうですか?」


「…ああ、頂こう。よく無事で帰ってきた。しかしワシがどれほどお前を彼処に送ったことを悔いたか…」


(じゃあ送らなければ良かったんじゃ)と思いながら笑顔を張りつけるハルヒの後ろで、ひょっこりと白い獣が姿を現した。老人──リュカがぎょっとした顔で後ずさる。


「む?ハルヒ、これはなんじゃ?魔獣ではないか…」


「あ、ドゥナチで見つけたんです。彼処魔獣はいないって話だったので、迷い子かなって…この子と合ってからビックリするくらいすいすい此処まで帰れたんです。」


「…で、主は?」


「あのー、町まで下りたら勝手に帰れるかなって思ってたんですけど…」


…此処まで付いてきちゃいました、と言いながら、あらかさまにハルヒが目を逸らす。隣で獣が「フィー!」と愛想を言うようにリュカに向かって鳴いた。


「…こいつは野良だな。わしも知らん種類だが…本来ダンジョンか異空間におるものだが…はて…」


「野良!?」


ハルヒが目を輝かせて獣を抱き寄せた。首を締め付けられたらしく、獣の方は妙な声をあげて目を白黒させている。


「ご主人が居ないって事ですよね?あのじゃあこの子…」


「…使い魔にする気か?馬鹿を言え、狭い家をこれ以上窮屈にはできんぞ」


その言葉に、不意に白い獣が動きを止めてじっとリュカを見つめた。まただ。ハルヒは獣の青く輝く瞳に釘付けになった。リュカもまた、思わずその目を見つめ返す。

──知性の光。彼には妙に人間くさい自我がちらつくのだ。


「…分かりました。」


静かに言ってから、ハルヒは白い獣を抱え直した。我に返ったように瞬きをするリュカに背を向けて、「大丈夫」と、ハルヒは小さく獣の耳に囁いた。



「リュカ師匠は案外チョロいんだよ」


ガヤガヤと騒がしい町通りに出て、ハルヒは獣に言い聞かせた。


「私が言い出したら聞かないのも知ってるし、多分飼うって姿勢を見せたら諦めると思うよ。…君なに食べるの?エサ買わないと。」


飼う、に反応したように獣の耳が垂れた。心なしかがっかりされたような雰囲気に、慌ててハルヒが訂正する。


「あの、契約ね。パートナー。私のパートナーになってほしいの。」


「フィーー。」


「素敵な鳴き声だね。名前どうしようかな…あ、ちょっと待って。」


ある店の前で、ハルヒは獣をひょいと下ろした。待っててね、と言い聞かせて、うすぐらい店内に駆け込んでいく。

一分もしない内に駆け出てきたハルヒの手には、二つの首輪が握られていた。


「あのね、君に出会ったところに青い石があったでしょ。クリスタルかな?綺麗だから、あなたの首輪に使おうと思ったの。それがこれね。」


薄茶色のベルトに青い石がついた首輪を見せて、ハルヒは獣の目の前で振って見せた。


「あと、店ですごく可愛いのもあったの。だから貴方に選んで貰おうと思って…ほら、この金色綺麗でしょ?赤のリボンも良いと思って…あれ?」


解説が終わる前に迷わず青い石の首輪を取った獣に、ハルヒが目を丸くした。


「…そっちが良いの?」


良いらしい。


「分かった、じゃあそれね…。店にこっちの首輪返してくるから待ってて!戻ったら着けてあげるから。…あ、それと。」


店に戻りかけたハルヒは、ふと獣を振り返った。煉瓦の通路は日に照らされて眩しく輝き、ハルヒの白い肌が映えていた。赤茶の髪が風に揺れる。

翡翠色の目を輝かせて、ハルヒは笑った。


「あなたの名前、決めたよ。フィヨル。フィヨルだよ。」


フィヨルは青い目をひたとハルヒに向けて、一声鳴いた。分かった、と言わんばかりの動作に、ハルヒは笑う。


「待ってて、フィヨル。すぐ戻るね。」


首輪をくわえて、フィ(幸福の)・ヨル(子)は、日を白い羽毛にいっぱいに浴びながら尻尾を振って、ハルヒを見送っていた。

多分次から当分フィヨル視点の話が続きます…。一話見てもらえば分かるんですが、フィヨルの中はほんとにただの人間です。

ハルヒ視点の話は結構難しかった。

本格的に魔法とか出だすのは多分次の話からです。

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