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物語って大体出会いから始まる。

初めに感じたのは光。まだ目もなく、体すら存在していない中で、柔らかな白い光に包まれている感触があった。洗い立てのカーテン越しに春の陽光を浴びた時のような心地良い気分。

ああ眠い、寝ちまおうか、とか朦朧とする意識の中で呑気な事を考えていたら、次にぬるい水の中にトプンと体が浸かった。意識が体、という概念を思い出した。でもなんだか自分の体にしては柔らかい。気を緩めたらふやけそうだ。赤子の体みたいだな、と思いながら薄く目を開けると、知らない奴の顔が水面に歪んで映っていた。


『……ナ………ジ……』


くぐもった声が聞こえる。なんだよ、眠いわ。うるさい。俺は寝る。せっかくの休日に早起きする趣味は俺にはない。


『グ……ファベ……ミリオ……』


声を出そうと思ったが、口が上手く動かなかった。ただぼんやりと開けた視界の中に映る、女らしき影を見つめる。

外国人?何語だそれ。ああ、頭回んねぇ…。

いや待てよ、ここ何処だ?家のつもりで居たけど、もしかして電車?寝落ちしてた?文句言われてるのか、俺。

いやでも、電車の中に水とか、あるか?

水、とか…水…………空気!!!!



途端、目の前に火花が弾けて、体を包む水も、声も、人間の影も消えた。

体の感触はしっかりとある。目の前は真っ暗。いや何処ここ…!

パニクって体を動かすと、パキッという音と共に鋭い痛みが走った。

手、じゃなくて、足、でもなくて…あれ?

今痛いのってどの部位だ?

狭い。息が苦しい。体を包むみたいに壁がある。さっき動かして音がしたところだけ解放感があった。てことはこの壁、コンクリじゃないな。

寝起きだからか、体の感覚がよく掴めない。しかたなくがむしゃらに動いてみると、それでもバキバキと壁は壊れていく。何度目かの俺のがむしゃら攻撃で、唐突に視界は開けた。おお、やったぞ。

急に体が自由になったから、思いっきり転げちまったけど。そして体の感覚が戻らなくて上手く立てないけど。


土の匂いがする。夏に水を撒いた後のようにムッと濃い匂いだ。何処だ、ここ。森の中?辺りは鬱蒼とした森が広がっていて、俺がいる半径10メートルくらいだけは木々がなく、光が差し込んできている。ただ中心に、ちょうど俺のすぐ側に、そびえるような大木が立っていた。ザザ…、と風に葉が揺れる。…何だろう、よく周りの音が聞こえるな。寝起きだからか?視界もしっくりこない。妙に全ての色がはっきりしている。景色が自分に迫ってくるようだ。おどおどしながら、なんとか四つん這いで立つまでには成功した。不恰好、と思いきや意外としっくりくる。ただまだ体に違和感が…。

もうこれで手足全部使ってるはずなんだが、あと二本くらい手がある感覚がある。丁度、背中の方に。うん…なにこれ。


「むぁ、グッ」


ナニコレ、って口で言おうとしたら明らかに俺の声じゃない声が出た。

舌が上手く反応しない、とかじゃなくて、犬とかが欠伸した時にでるような間抜けな声。大体俺の声はこんなに高くない。というか思った以上に口が開いた。

頬の辺りまで…。


「アー、アアォッ。…グゥアっ。」


なんとかヒト語を喋ろうと奮闘したが、とりあえず無駄な事だけ理解した。おかしい。おかしい俺。待って待って待って、ちょっと落ち着こうか。口…どころか身体中変な感じだが、とりあえず口だ。俺の口はどうなってる?


手で触って確かめてみようかと口許に手を持っていこうとしたら、背後でバサッと音がした。

ぎょっとして振り返ると、真っ白な羽根があった。…え?俺の手が…ってかよく考えたら俺の手はまだ地面だ。四つん這いだし、と地面についている手を見ると、なんか…白い。肌が白いとかそういう次元じゃない。という以前に、俺の手じゃ、いや人間の手じゃない。ふわふわと羽根が生えているその手は、明らかに獣の手だ。黒い爪だけが大きいが、四本が前に並んで開いていて、後ろの方に親指がある。後ろ足も似たような感じだ。って後ろ足って!

パニクった俺は暫く、一人でどたばたと暴れまくった。まああれだ、パニックになるのも時には大事だ。その分後で冷静になれるからな、何が言いたいかってつまり、これは言い訳じゃない。散々暴れまくったお陰で、俺は“今”の体の感覚を理解したのだ。


大木の根元からはちょろちょろと湧き水が流れ出していて、それにそって歩いていくと水の流れは大きくなり、やがて川と呼べるまでになっていた。こんな状況で言うのもあれだが、なかなか綺麗な水だった。綺麗な川の水ってほんとに青いんだな。

さらに下ると途中で川は湖に繋がっていた。足も疲れたし、ちょっと此処で休む事にした。


さて、状況を整理しよう。まず、めちゃくちゃ認めたくないが、まず大前提として、俺は人間じゃなくて、さらにここは日本じゃない。

実はあの大樹があったところから此処まで、俺は結構歩いた。新宿から中央区、もしかしたらそれ以上。日本にこんな広い森があったんだなあと現実逃避ぎみに考えていたら、なんとサーベルタイガーがいた。いや遠目に見ただけだし、サーベルタイガーにしては大きすぎる気もしたが、獅子のような容姿に二本の長い牙が突き出ていた。

…だからなんなら此処は地球でもないかもしれない。あとあと考えよう。


で、まあ羽根が見えた時点でうすうす気付いちゃいたが、俺は人間じゃなくなっていた。初めに俺が壁だと思っていたのは、卵の殻だったのだ。つまり俺は卵から生まれたばかりって事になる。いやんな訳あるか!こちとら30過ぎの…なんだっけ?まだ混乱してるからか、俺の事についてが色々思い出せない。


大樹の前で動き回ったお陰で、体の感覚は分かってきていた。まず全身真っ白。ふわふわの羽毛で包まれている。足は犬みたいだが、指のとこは長くて地面につけるとぐっと広がって体を支えてくれる。そういえばトナカイとかは雪の上でも足元を捉えられるように足の指が広がって地面につく面積を広げるらしい。それと似た感じなのかもな。

爪だけ黒くて、これは虎みたいに鋭い。猫と同じで収納可。



で、ここまでも充分問題だが、ホントの問題はここから。



背中に体同様白い羽毛に包まれた羽根が生えていた。広げると俺の体長分くらいある。飛ぼうという気にはなれんが。

で、尻尾もあった。こっちも羽毛でふわふわしているが、長い尾の先には二本のトゲがある。トゲっていうか、感覚があるからどうやら俺の骨が突き出ているらしい。鹿とかの角と同じ原理なのかね。頭は自分で確認できないので未知の世界だったが、湖に体を映してようやく見ることが出来た。


青く澄んだ大きな瞳。鼻は長く、狼の子供のような顔だが、耳は長い。ピンと立てておくことも出来るが、後ろ毛に添って伏せておいた方が楽だ。で、額には青白く光る一対の角。

なるほど、翼があって角があって黒い鉤爪に白い羽毛の体、座っていれば大人の腰くらいの高さってとこか。


…なんなんだこれは。


湖で自分の姿を眺めながら、俺は呆然とした。するしか出来なかった。

自分が誰か思い出せない。目が覚めたら卵の中。…ちょっと思い当たる事がある。


人間だった時、俺は結構なゲーマーだった。浮かんでくるのは定番のネタ。

死んでしまった、或いは人間界の普通の、なんのスペックもないモブ人間が、ある日突然異世界に転生、召喚される。


「…ルノ?ミルヴァナヤックェ…」


ふと顔をあげると、湖の対岸に女の子が立っていた。赤めの茶髪に翡翠色の瞳。真っ白な肌で、それこそ二次元じゃないとありえないレベルで顔が良い。

こんな美形初めて見たな。って事はやっぱここは異世界?

大体俺の存在事態、人間だった時の世界じゃありえないよな。


と、俺の体がドクンと強く脈打った。

は?と思う間もなく、凄まじい勢いで頭の中を何かの記憶が駆け巡った。


赤子の泣き声。白い髭の老人。その左手には青い石のついた杖。降り注ぐ雨粒、青白い雷。


火花が散った。


「ミヨム?アルファダメラル」


此方に少女が向かってきていた。恐る恐るといった感じで、でも確かに俺の方に向かってきている。何を言っているのか分からないが敵意は感じられなかった。

そっと立ち上がって俺は一歩少女に近付いた。

いや、可愛いからついて行きたいとか決してそんな訳じゃない。そんな欲求はせいぜい一割程度だ。


これがホントに異世界で、転生した人間なら、俺は動き出さなきゃならない。



物語の始まりは出会いからだ。





これが後に名を残す世界の確変の第一歩だとは、この時の俺には知る由もなかった。


が、一つ学んだ。まだ俺が誰かも此処が何処かも、出会ったのが誰かも分からんが、一つ。





俺って結構楽天的だ。

ジャンルに男主人公、女主人公両方入ってますが、次回は少女、ハルヒが主人公になります。

交互に展開させるつもりです。(*´-`)

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