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苦悩
列席者の御名を拝し、梢洪邑は鬱々とした気分でいた。龍王陛下を始めとして、皇太子殿下、世孫殿下、錚々たる面々が連なる。御前試合に平民を出場させるなど、前代未聞のことであり、然も自分の師団から出るなど到底受け入れらるものではなかった。他団からの嘲笑が聞こえるようであった。でき得るなら将軍様に直訴したいほどである。しかし校尉の身分でそれも叶わなかった。せめてと思い、上将にだけは訴えたが、将軍閣下と副官双方の意向では如何ともし難いとの仰せであった。かくなる上は、王石には是が非でも勝ってもらわねばならなかった。平民を出した上に負けたでは一軍そのものの面目が立たない。そう思い、王石の対戦相手の名前を見た時、洪邑は眩暈を覚えた。関熙雷。一軍副官、関赤雲の息子の名であった。王石の勝敗に関わらず、洪邑の未来は暗澹としていた。