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英雄

  龍一軍から林王石(りんおうせき)が出場するという話は瞬く間に龍軍内部に広まった。一方でそれは醜聞の如く、あるいは怒りを以て語られたが、一方では喝采を以て迎えられた。龍軍とはいえ、什長以下は平民が多い。即ち軍属する者の大半が平民であるという事実からすれば、王石は彼らにとって、英雄であった。

  龍軍府の中でも王石はやたらと声をかけられた。大半が厳つい男たちからの激励であった。

「やはり気味がいいな。絶対勝てよ。王石。」

 すれ違いざま熊のような男が王石の肩を叩いた。

「今日は宿直番か。淑仁(しゅくじん)。」

 王石は少し痛がるそぶりを見せながら、答えた。宋淑仁(そうしゅくじん)は王石にとって同じ平民で同じ位であり、気安い存在だ。王石は無口な男だが、淑仁を前にすると多少饒舌になる。

  宋氏といえば過去に謀反を起こして貴族位を剥奪されたことで有名な一族で、淑仁も苦労をしたのだろうが、そういう陰が微塵もない。そういうところが王石は気に入っていた。

  淑仁はにかっと豪快に笑う。

「そうだ。そういやお前、(しょう)上将の顔を見たか。」

「いや。」

 梢洪邑(しょうこうゆう)は王石、淑仁の上官である。

「まるで茹で蛸だぜ。あれじゃいつかホンモノの蛸になっちまうんじゃねえか。」

 淑仁は手で丸く形作り、大笑いをした。王石は洪邑の頭を想像し、溜息をついた。洪邑は誰よりも出自を気にかける。

「そういや…さっき正真(せいしん)様が来てたぜ。お前を探していた。」

「なに…」

 王石の表情が変わるのを見て、また淑仁が笑う。

「こいつぁ、ご愁傷様。しかしまあ、あのお方もあれで王族様だ。丁重におもてなしすることだな。」

「淑仁。逃げて来たな。」

 高笑いを残して、淑仁は奥へと去った。

  既に夕刻である。宿直番が次々にやってきて、交代の鐘を待つ時刻だ。

  王石は鬱々とした気分で隊舎へ向かう。そこに誰がいるかは、想像に難くない。大きな溜息と共に隊舎の扉を開いた。

「そ、孫正真(そんせいしん)様がお越しです。」

 部下の一人が慌てた様子で王石を迎えた。中門に立たせていた男だ。

  一軍府は右殿と左殿がある。王石の所属する第五団は今月は留守居役であり、軍府に常駐していて、左殿に在る。中門は左殿と右殿との間にある門のことだ。

  正真は第二団の校尉であり、現在二団は右殿の留守居だ。大方、部下は正真に中門を開けろとせがまれたのであろう。

「分かった…」

 言ったそばから、大きな物音と共に何かが駆け込んできた。

「兄上!」

 小柄な少年が目を輝かせて立っていた。

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