孫家の若君
最終的に、一軍の成績は二勝二分けであった。負けなかったことで、龍の皇子の率いる軍としての面目は保った形になる。勝利を得たのは王石と、なんと正真であった。
「兄上!勝ちましたよ。いやあ、危なかった。」
正真は屈託のない笑みで、王石に報告した。選手には一人ずつ小さな天幕が与えられている。正真は試合後真っ先に王石の天幕に足を運んだのだった。選手でありながら、什長でしかない王石には、試合を観覧する権利がないのである。試合を見られるのは校尉以上と決まっていた。
王石は正真の前に跪き、祝いの言葉を述べた。
「おめでとうございます。」
「いや、やはり兄上のように見事にはいきませんね。二撃も食らってしまった。」
そういう正真の甲冑のは土煙で少し汚れていた。痛みもあるのか、額には汗が滲んでいる。
「お怪我をなさっているのなら救護班に参られませ。」
「大丈夫ですよ。これくらい。」
王石は護衛の兵士に医務官を呼ぶように伝えた。
正真は剥れた顔をしたが、ふと思い出したように言った。
「だったら牧夜様を呼んで下さいよ。おい、お前。王属医務官の香牧夜様だ。呼んで来てくれ。」
「正真様。冗談はお辞め下さい。」
困った顔をした王石を見て正真は笑った。
「冗談ではありませんよ。知っていますよ。兄上はもうすぐ牧夜様と祝言を挙げられる。ちょうど今日は王属医務官の方々が来られていますね。お会いにならないなんて、兄上も薄情ですよ。」
王石は溜息をついた。
実際のところ、王石が香家の姫を娶るという噂は一軍の誰もが知るところであった。香家と言えば龍王国きっての名門である。その事実は、正真の様に好意的に捉えられるものばかりではない。
しかし王石の溜息の理由はそれだけではなかった。




