友達
彼女は僕を見つけるたびに手を振る。一分前まで死んでいた顔がほんのり朱を帯びて明るくなる。あいつらにもしない、僕にだけ特別にやってくれることだった。記憶の彼女に手を振り返すと、後ろから楓が背中を叩いた。
「なあ海里。最近お前と奈々、仲いいよな。」
「まあな。でも、楓だってすぐに仲良くなったじゃんか。」
「海里よりは警戒されてんだよ。気づけ、馬鹿。」
「まあまあ、楓。海里が鈍くて馬鹿なのはいつもの事だから。」
「桜花、一言多い。」
ひょっこりと現れた桜花が笑った。こいつらはきっと僕の気持ちを知っていじってくるのだろうけど。僕は楓と話すとうっかり本音が出る。あいつの雰囲気なのかは知らないが、話している内に本音が漏れる。だからあいつには隠し事が出来ない。最悪なことに。
「なあ楓。僕って、おかしいか?」
「え?今更?」
「熟女推しな時点でアウト。」
「幸奈さんは熟女じゃねえ!」
「あー、そっか。桜花は知らないんだっけ。こいつが好きになる人って皆地味な子ばかりなんだ。現実だとね。だから可愛い系の奈々を好きって言ったのは意外。」
「・・うるさいな・・・好きになったんだからしょうがないだろ・・。」
「まあ、先輩の二の前になる前に好感度上げと告白だな。得意だろ?ギャルゲー。」
「推しキャラから後ろから刺される死亡フラグ回収率100%だぞ。なめんな。」
「はいはい、楓とのおしゃべりより入口にいる彼女だろ。」
桜花が指差した先に彼女がいた。スケッチブックをもって、きょろきょろと入り口で教室を見渡し、誰かを探している。僕は椅子から立ち、彼女に手を振って笑いかけた。
彼女のスケッチブックを受け取る。ん?少し軽いな、それを横にしてみると挟まっている紙が半分に減っていた。ペラッペラッと記憶に残る絵を見進めて、バラのブーケを持った金井さん、月夜の光で踊る金井さん、星空の下で笑う金井さん・・・新しい絵に到着するまでに何枚もの彼がいなくなっていたことに違和感を感じた。
「清水ちゃんさ、もしかして絵を抜いたの?」
彼女はその言葉に眼を大きくさせ、視線を左右に動かすと自信なさげに俯いた。
「・・・なんかごめん。」
「あっえ、違うの。田中君、謝らないで・・ただ、その・・・」
顔を両手で押さえ、えーとと眉を下げて彼女は、僕を横目で見る。
「気に入らなくて、捨てたの。」
「え!?!あんなに綺麗で素敵な絵なのに!?」
「そ、そうかなぁ・・でも、バラの大きさがバラバラだし、月の中の模様は細い黒よりもグレーの方が絶対いいし、踊ってる金井さんは全体のバランスが凄く悪かったから。今回の絵も右手が歪だし、服の皺の量が多すぎて違和感多いよね・・・やっぱりクオリティが低くてごめん。」
「僕は君の絵が好きだよ。だから君の絵が捨てる前に見れて良かった。」
彼女は目をゆっくりと大きく開き、言葉が詰まった様に黙っていた。どんどんと耳が赤くなり頬も同じ色に染まっていく。そして、か細い声でありがとうと言った。閉じたスケッチブックを僕の手から滑るように取り、胸でぎゅっとそれを抱きしめた。体の中心からブワッと甘い電流が走り、可愛過ぎるだろ、と言葉が後から着いてきた。耳の近くで心臓の音が聞こえて言葉が上手く出なくなる。頭が可愛いでいっぱいだからだ。
「用事、そう!用事思い出したから教室、、戻る、ね。」
「う、うん。見せてくれてありがとう。」
友達にこんな可愛いなんて思うのは変なのか?彼女を手を振って見送りながら身体に残る熱に問いかけた。




