第十一話 最強の陰陽師、降りる
ドラゴンの乗り心地は、妖と比べてもそう悪くなかった。
空の上は、さすがに風が強くて夏なのに寒い。
でもそれは結局蛟も一緒だし、呪いである程度快適にできる。
揺れさえ少なければいいのだ。
「さて、と……」
ぼくは式の視界で、眼下の街を見る。
どこに降りるかな……。本当は城壁の外がいいんだろうけど、首長公邸までけっこうあるから歩くのが面倒だ。
むしろ、公邸に直接行く方がいいかもしれない。
あそこなら広い庭があるし、家畜や馬車馬を怯えさせることもない。
「お前、城壁の中には降りられるか?」
「グルルッ!」
ドラゴンが唸る。
はいかいいえかわからないが……たぶん、はい、だろう。そんな気がする。
「よし、あっちだ!」
案内役として先行させていた光のヒトガタを、街へと降下させていく。
ドラゴンはきちんと、それを追って高度を下げていった。
その時。
山に残してきた式神が、嫌な光景を捉えた。
思わず顔をしかめる。
今来るということは……そういうことだろうな。
これで帰るとも言っていられなくなった。
まあでも、まだ少し時間はありそうだし、いったん公邸に顔を出してから山に戻るでも十分だろう。
いい加減一人で卵のお守りをするのも疲れたしね。
ドラゴンが左翼を下げ、左へ旋回しながら街へと降りていく。
広大な首長公邸が次第に近づく。
地上までほんの数丈に迫った時――――ドラゴンが両翼を大きく広げ、大気を掴んだ。
気圧の魔法が発動。生み出された密度の高い空気を激しく撒き散らしながら、巨体が首長公邸の庭へ豪快に降り立つ。
ふう、と一息ついて顔を上げる。
ぼくは気づいた。
「あっ……」
すぐ目の前に、公邸の二階、窓の開け放たれた広い部屋があった。
仕事中だったのか、身なりのいい人間が数人、呆気にとられた表情でこちらを見ている。
机の上に置いてあったらしき書類や金貨が、ドラゴンの起こした突風で派手に散らばっていた。
うわぁ、申し訳ないことをしてしまった……。
ん、あれは森人の従者か? ということは……やっぱり、セシリオ王子の姿もある。
ちょうどよかった。
少々無礼にはなってしまうが、時間がないし仕方ないだろう。
「突然すみません皆さん! セイカです! 今戻りました!」
まだ気圧差の風が吹き荒れる中、ぼくは声を張り上げる。
「急ぎゆえ、このような形で失礼! ええと、手短に言いますと……ドラゴンと仲良くなりました」
皆、唖然としたまま言葉もない。
ぼくは少々不安になりながらも、とにかく用件を話す。
「今回の件、原因がわかりました! 説明したいので、唐突で申し訳ないですが、どなたかぼくと一緒に山頂まで来ていただけないでしょうか! できれば火属性の魔法が使える方だと助かります!」
案の定、答えはない。
王子も森人も他の人間も、全員が窓から大きく距離を置いて固まっている。
……困ったな。
というか、さすがにドラゴンで直に降りてきたのはまずかったか……。
そろそろ戻りたいが、このままではなんのために帰ってきたのかわからない。せめて誰か、手伝ってくれる人……。
「……あ」
その時。
一人の少女の姿が、目に入った。
なんだ、いたのか。
じゃあ、彼女でいいな。おあつらえ向きに炎も扱えることだし。本当はアスティリアの人間に来てほしかったけど、皆怖じ気づいてるから仕方ない。
「イーファ」
ぼくはくすんだ金髪の少女に向かって手を伸ばす。





